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私の読む 「宇津保物語」  楼上 上ー2-

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コメント

 千文字は千字の詩で、

真草千字文 勅員外散騎侍郎周興嗣次韻

天地玄黄。宇宙洪荒。
  天地は玄黄、宇宙は洪荒なり
日月盈昃。辰宿列張。
 日月(じつげつ)は盈昃(えいしょく) し、辰宿は列張す。
寒來暑往。秋収冬藏。
 寒さ来たり暑さ往き、秋収めて冬蔵す。
閏餘成歲。律呂調陽。
 閏餘(じゅんよ)もて歳を成し、律呂(りつりょ)は調陽す。

 から始まる。四言古詩二百五十句からなる。
南朝・梁 (502–549) の武帝が、文章家として有名な文官の周興嗣 (470–521) に文章を作らせたものである。周興嗣は,皇帝の命を受けて一夜で千字文を考え,皇帝に進上したときには白髪になっていたという伝説がある。文字は、能書家として有名な東晋の王羲之の字を、殷鉄石に命じて模写して集成し、書道の手本にしたと伝えられる。王羲之の字ではなく、魏の鍾繇の文字を使ったという異説もあるが、有力ではない。完成当初から非常に珍重され、以後各地に広まっていき、南朝から唐代にかけて流行し、宋代以後全土に普及した。

 平安時代漢文を教える手ほどきにこれを暗誦させ、また文字を習わせた。
(ネットから)



「何と理屈をお言いですね、仲忠こそ犬宮を独り占めにして、どうして今まで琴を教えなかったのですか」

「大変琴に興味を持っていましたが、私が躊躇しておりました。

 それは、帝からも、朱雀院からも内意を戴いて休暇をさせてもらい、総ての雑事を捨てて心を落ち着かせ静かな気持ちで二人で籠もって教えたい。申し訳がありませんが母上にもお出で願って、私の未熟なところをお教え願えれば、と夜昼と考えていました」

「犬宮に琴を教えることは私も考えていました。私の琴の手も段々と怪しくなってきました。早く準備に掛かりなさい」

「本当に恐ろしいほど勘所を上手く捉まえていらっしゃるのですから、きっと上手に弾くように手はお戻りになるでしょう」

 仲忠は声を落として、母の内侍督に、
「このことを実行するには大きな問題があります。一つは教える場所のことです、一宮の殿は騒がしいところですので、琴の練習には不向きです。此所も駄目です。

 かって住んでいました京極を教場に改造しましてと思います。何処よりも適していると思います。父上は不便なところだと仰いますでしょう。

 仲忠にとってこの事は一生の大事と思っています」

「勿論のことです。兼雅様が不便だと仰有っても、気にしすることはありません。仲忠の思うようになさい。京極は大層良いところです。

 最近考えてみますと、私も住みたいなと思っていました。ゆっくりと昔を偲び、高僧をお呼びして父の法要をしていただき、私自身もあそこで仏道修行を行いたいと考えていました」

 と、涙を流して言われる。仲忠も悲しい過去を思い出したのであろう、涙を出して泣く。仲忠は、

「仰るとおりで御座います。仲忠も世の中という物は平常な時ばかりではありません。時々は静かに籠もって自身を省みます。

 仏門書もあります。俊蔭追善供養のことなどをどうかしたいものとは思いますが、公私ともに暇がないので御座います。

 私自身の仏門修行は父上が御在世中はお許しがないでしょう。法要のことは私に考えがあります。

 犬宮のことが思うように運びましたら、もう暫くお任せ下さい。こうありたいと思う珍しいことをして御覧に入れます」

 と、話していると、兼雅が入ってきて
「先払いの声がすると思ったら仲忠が来ていたのか」

 と、梨壺腹の皇子を抱き上げる。仲忠の子も「まろも」と言うので、梨壺の子を肩車にして仲忠の子を抱き上げる。小君も入ってきた。三人の子供はどれも美しく可愛い。

 内侍督も仲忠も泣き顔であるので、兼雅は、

「どうしたその顔は、いつもとは違うようだな。もしも三宮のこと、対にいる宰相の君、梅壺更衣の誰がが変なことでも申したのか」

 と、二人が夫人達のことに気を回してるのかと恥ずかしく言う。内侍督は笑って、

「あなた、思い違いなさらないでください。京極に琴の稽古場を作ろうとしまして、つい、昔のことを思い出したものですから」

 兼雅
「それを思い出されては私が辛い」
 と言って、昔親子を長い間放っておいたことを思い出している。

 北方
「考えてみますと、それ以前にはあんな辛い目には遭っていませんでした」

 兼雅
「その通りです。それにつけて物思いをおさせしたと思うと大層辛いのです。昔のことを言うのはもう止めにして下さい」

 北方は、

 いにしえの千々八千草の物思ひを
今も悲しといかゞしのばむ
(昔の数々の物思いを今も悲しいなどとは申しますまい)

 と、涙ながらに詠う。兼雅は哀れに思って直ぐに、

 ちぐさにはなみだぞ露とむすびけん
かゝるこのよに思とけなむ
(千草には涙が露となって結ぶだろう。その千草にかかる露で、此の世の悲しい物思いが融けてしまうだろう)

 私は貴女の愚かな護衛兵ですか」

 と書き付けて内侍督に渡される。


◎内侍督は古今集の大江千里の

 月見ればちゞに物こそ悲しけれ
我身一つの秋にはあらねど
(193)
 を、参考にしている。


 仲忠はこの二人の歌を取り上げて出てしまい東対の宰相の君の処へ向かい「久しぶりです」と声を掛ける。宰相の君は茵を出して仲忠の側に膝行り出て来た。

 宰相の君は仲忠に、
「本当に心配するほど長い間お越しになりませんでしたね。いつも私のために仰有って下さるので、万事慰められて落ち着いた生活を致しております」

 挨拶の言葉を述べると、仲忠は
「おかしな私の両親ですよ。今の若い者の様なことを仰います」

 仲忠が持ってきた兼雅と内侍督両親が先程交わした歌を宰相の君に見せる。読んで宰相は感動してその紙に歌を添える。

 古郷はいづくともなくしのぶぐさ
      しげきなみだの露ぞこぼる
(故郷には何処ということもなくいつの間にか忍(偲)草がはびこって、こぼれるほどにしげく露がかかります)

 と、詠って仲忠に渡す。仲忠は宰相の君の歌を読んで、彼女も父母の歌を読んで、どれだけ悲しい日を送ったのかと、気の毒になって、宰相の使った筆を執って、

 すみこしも見しもかなしき古さとを
    玉の台になさばなりなん
(両親の古里も、今見た貴女自身の古里も、楽しい豊かな住み家にしようと思えば心掛け次第で出来ますね)

 と、詠った。


 仲忠は自身に対して厳しい性格で、世間の人は正頼に次いで仲忠を信頼して集い、何事に付けても仲忠に口火を切って貰いたいと思っている。

 一宮は、犬宮と雛遊びをしている。犬宮は日に日に美しく成長していく。ひどく腹を立てている人、恐ろしいことを考えている人、犬宮を見ればその美しさに怒り心を忘れてしまうことだろう。藤壺も犬宮と同じ年頃にはここまで美しくはなかった、と思い犬宮に並ぶ者は誰も居ないと思った。

 犬宮の側には五人の乳母が居る。