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私の読む「宇津保物語」 蔵開きー3 -

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 と、言って中で頂いた物を全部、これこそ、にあげてしまった。

 そこの階段から隠れるようにして降りて出て行こうとする仲忠を涼が見つけて、南の階段から裸足で降りて駈けてきて、

「どうして奥にお入りになって舎人の閨の法師のようにお逃げになるのですか」

 と、引き止めて、涼は、
「滅多に来られたことが無いようにされて。偉いお方もいらっしゃらないし、藤原忠俊大納言とはお互い親しい間柄ですから、泊まっては昔のことを語り、将来のことも契りをするような処で、こそこそと逃げ出すとは」

 仲忠
「実はこれだけは話しておかないといけない、と入りましたところ、奥へ通されまして、お酒を強いられましたのでこのように逃げたのです」

 と、涼に告げて、しようがない、とみんなと並んで宴会に参加した。

 正頼の息子三人。仲忠、涼と話をしていると、亡くなった仲純の下の弟、大夫であったが今は内蔵頭で蔵人の基純が盃を持って現れた。

 亡くなった侍従仲純に姿形も心も勝っていて有名な色好みの男になっていた。盃を仲忠に差し出す。

 仲忠
「基純とお会いすると、嫌なことを何もかも忘れてしまうほどいい男である」

 などと言って、
「宮中で帝が

『御仏名を終わってから参内しなさい』

 と、仰せになられたが、まだ参内できなかったな。機会があったら、

『病気で参内できないようで御座います』

 と、奏上してください」

 皿に仲忠は、
「水の尾の行人仲頼はこういう折には何となく、いい雰囲気を出されたのだがな」

 涼
「藤壺は少しばかり罪がありますね。昔から人を悩ますようにお生まれなった方だな。私なんか台無しですよ。今では只一つ出家するか、しないか、ですよ」

 仲忠
「涼も酔いましたね。どうしてそんなことを言うのです」

 涼、答えて
「酔わなくても私の口癖ですから、皆さん慣れておいでですよ。仲忠様は偉そうなことを仰います」

 仲忠
「その通り、賢人ぶる愚者よ」

 涼
「そうですよ、平中納言も遠くで苛々しているのですよ」

 聴いていた人は一人合点して
「だからそうだったのか」

 と口々に言うのを、御簾の中で聴いていた藤壺の兄弟達は、このようなことを言われて、と思っていた。

 宰相中将の祐純、
「今夜、私はひどい目に遭いました。碁にひどい負け方をしてしまい、はたまろ(宮はた)が声を上げて泣くだろうと思って、碁代を借りましたら、はたまろが、盗人呼ばわりしますので、弱り果てました。この碁代というもの少し盗ませておきましたので、まあ、このように多くあるのです」

 と言って沢山手にしていた。

 仲忠
「宮はた、は、清い性格ですよ、、宮はたとは、内裏で一夜ともにして契りを交わしましたから」

 祐純
「どのような契りですか」

 仲忠
「それは誰にも言わないことにしているのです」

 暁になった。杯をまた交わす。御簾の中から参会者への被物を正頼の子息達がされたので、涼が受け取って、参会者に渡す。

 赤い色の織唐衣、綾掻練の綾摺の裳、三重襲の袴、児の衣、襁褓を添えて。

 殿上人には織物の細長、袷の袴、などいろいろと。

 こうしていると、西の方涼の伯母から織物の袿一重、唐綾の掻練、袷の袴などを、上達部・殿上人の被物のためにお出しになった。

 仲忠が帰ろうと、涼に、
「実は申し上げたいと思ったことは、明日お車を拝借したいと言うことです」

 涼
「何のご用ですか」

 仲忠
「女三宮を三条の殿にお迎えしたいためで御座います」

 そのことを聞いた周りの人々は大変に喜び、また驚く。

 涼は
「今の三宮のご様子は大変に痛々しく、私まで辛い思いをしていましたのに、お安いことですよ。

 どうされたのです、父上兼雅様の心からの思いですか、それとも、貴方がお勧めになったのですか」

 仲忠
「こういう事は本人以外には分かりません。そうしようと父上が仰るからそうするだけです」

「それは大変に結構なことです」

 周りの人々が集まってきて喜びの言葉を述べる。

 涼
「車は差し上げますよ。実は藤壺が明日里へと退出されるそうで、そのために必要と思われますが」

 仲忠
「そうは言われても、退出されることはないでしょう。退出なさるとしても、明後日の暁時にやっとお許しが出るくらいでしょう

 それも車は不要なのでしょうか、ここにはありません。お昼頃に三宮に用立て願って、藤壺の明け方の退出に間に合わせましょう」

 涼
「それで結構です」

 このように話をしていると、種松紀伊守が上達部に被物を用意していたが、渡す前に全員が帰ってしまった。

 仲忠の琵琶の演奏に拍子を扇で取った「これこそ」は、仲忠から貰った被物を手にして、

「被物だけ下さるおつもりなのだろうか」

 と少し不満げによくよく被物を見ると、腰に当たる部分に文が括りつけられていて、読むと、

 人知れず渡りそめにし名取川
なほ見まほしや告げよいづこと
(人に知れないようにそっとあなたを思い初めて浮き名を流すかも知れない名取川を渡りそめたのですが、やはり会いたいと思いますよ。何処にいるか私に教えなさい)

 あなたを見初めた宮中のあのあたりを忘れかねています。あなたが寒そうに見えますから、これを重ねて着てください。

 と、書いてあるのを見て、この仲忠の文こそ手に入れたのは大変に嬉しいと「これこそ」は思う。あのように世間が大騒ぎをする仲忠の筆跡を誰も持っていないのに、特に宮中の女房達は仲忠の筆跡を探し求めている、というのに我の手にある。仲忠の筆跡はただの一行でも持っている者は心憎いほど大切にしているのに。そう思うと勿体なくて、「これこそ」は、仲忠から貰った織物の立派な細長を袷と単衣に分けて、袷は同僚の兵衛の君に、単衣は同僚の中将の君に与えて、後の被物は自分が持って部屋に入った。

 こうして昨夜の頂き物を引き下げて、苞萓(あらまき)十枝、魚鳥(いおとり)十枝、たかつき五、人に言われて正頼、仲忠、藤壺女御に差し上げた。

 仲忠の北方一宮にも内裏から派遣された内侍典は、今回の今宮の出産にも派遣されて、事が終わったので帰ろうと、

「『犬宮の御湯殿のために参上致しましょ』と仲忠に言っておきながらこうして涼の方へ来ているのを、本当に悲しく思ってお出でであろう。並々ならず仲忠が悲しくしておられるのは、いかに日頃の入浴を大切に思っておられますか」

 涼の北方今宮は、
「こちらも心得た者が居ませんので、貴女の指図が大事なのです」

 内侍典
「時々通って参ります。仲忠様に此方様が私を大変いたわって下さるので、長居しているのだろうと思われるのが、大変に恥ずかしいのです」

 今宮
「本当にそうだわね」

 正頼北方大宮は、
「犬宮はどんな児だろうね。私は心配で先日仲忠が宮中に上がっている留守に見に行ったが、見せてくれない。どうしてだろうね、不具なのかしらん」

 大宮が犬宮を不具ではないかと言われるので、内侍典は、

「縁起でもないことを仰います。ただ父仲忠様を少し小さくしたような赤児でいらっしゃいます。一日に二度三度とある御文に