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私の読む「宇津保物語」 蔵開きー3 -

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 天下広しと雖もあて宮ほどの女はいましょうか、姿美しいうえに、諸般のことについても評判はよろしい」

 仲忠
「どのようにですか」

「あて宮のことは私はよく見て知っていますよ。髪は麗しく、色白で目鼻は整っていて美しい」

「それだけですか、心の中はいかがですか」

「さてそこまでは知りません」

「今夜はどうなさったのですか、調子が変ですね」

 と、仲忠は笑う。

「実はここに、見たことのある童がいますが、誰ですか」

 涼
「さて、多くいますので分かりませんね。誰でしょうか。あの中に、承香殿女御に仕えた者がいます」

 仲忠
「もしや。、私が中将であったときに、灌仏会の時に堂童を勤めた童では・・・・・・」

 涼
「そうですね、あの童ですね、これこそ、という名前でした」

 仲忠
「私がいつかここに参りましたら、扇を鳴らして、
『夕方いらっしゃい』 
 と言ったので、なかなか物慣れた童だと思いましたが、その子だったのですね」

 涼は
「誰かと言いますと藤壺に仕える『あこぎ』ですね。只今あれだけの子はいません。兵衛の君(藤壺女御)の弟だそうです」

「『あこぎ』は、木工の君の弟でしょう、先頃宮中で『あこぎ』を相手にして暮らしました」

 と、仲忠、涼は話をして管弦の方はしなかった。

 そこで、仲忠は、

「どうして涼は、琴を演奏しないのですか。人を呼びよせて雑談の相手にされる」

 涼中納言の産養の宴会は盛り上がって杯の交換が頻繁になり、特にこの夜は偉い人の出席がなかったので、参加した全員が千鳥足で歩き回り酔い乱れて管弦を奏でたり、舞をしたりして、夜半が過ぎた。

 仲忠が東の簀の子に立ち上がって、柱に寄りかかって見てみると、御簾を二尺ばかり巻き上げて御簾の内を見ると、中に女房が四十人ばかり赤色や青色の唐衣の上に草摺りで模様を出した綾の裳を着て並び、今夜の歌を書いたり詠んだり、ある人はこうだああだ、と批評していたりしている。童が十数人青色の五重襲、表袴、綾の掻練の袙(あこめ)、三重襲の袴を着て、一人一人前に白い銭を置いていた。

 簀の子には柱ごとに灯籠が掛けてある。蘇枋色の大きな櫃に銀の箸を添えて火を起こして、宴会所の彼方此方に置いてある。東の渡殿にはすみ物を棚に据えてある。

 しばらくして涼の父親の紀伊守(種松)やその下官達が郎等を引き連れて来て、藁や薦で包んだ鮮魚(あらまき)・鮭十匹を一つに包んだもの、を差し出した。

 さらに十二月には珍しい大角豆(ささげ)・鯉・鯛を一つに纏めた物。雉子と鯛と 大角豆三を一つにした物を枝にぶら下げた。鳩と大角豆二を一つにした物。銀で餌袋の形に作った入れ物二に、密と甘葛を入れてある。

 それらを一行は東の渡殿に並べて置いた。

 また、紀伊守の北方より、衝重(ついかさね)三・高坏に台が付いた物四・口を結んだ壺四を贈られた。

 これらは涼夫妻御前の簀の子に並べて置かれた。

 その贈り物を開けてみると。鰹・壺焼きの鮑(あわび)・海松(みる)・甘海苔等が入っていた。

 仲忠大将が急に御簾の中に入ってきたので、女房達が驚く。仲忠は、

「貴女方女房と私はお互いに奥の方に出入りすることを許すと固い約束をした仲ではないか」

 と、言って入ってしまわれた。

 母屋の御簾の前には彼方此方からの産養の祝い物が置かれてある。正頼、左大臣忠雅、種松達が贈られた物である。中でも種松の贈り物は他とは比較できない物である。

 母屋の御簾の内には、白装束の産屋姿の者達が大勢いる。仲忠は、

「今はこのように大人におなりで、ご自分のお子さんをお抱きなさろうとは思いも掛けないことでした。ああ、私の方が恥ずかしいくらいです」

 涼の北方の宮は奥の方から、
「仲忠はすでに見慣れてお出でのはずです」

 仲忠
「今宮は恥ずかしがって直接お返事なさらないという評判でしたが、近頃はちゃんとお声をお聴かせなさいますね。兵衛府のあの方からご消息がありましたでしょうか」

 今宮
「消息など、思いもよらないことです」

 仲忠
「私が近衛大将でなくては、どうしてこのように会いに来ましょう。いいところに来合わせたものですね」

 と、重なるように置いてある果物を見て、銀の四寸ばかりの高さの皿に、それよりも高く盛ってある果物があり。御簾の中から仲忠に今宮が杯を賜うと言って出されて、

 年を経てふた度あらむかゝる日の
     土器(かわらけ)幾代君にさゝまし
(この先幾年たっても二度とはないことでしょう。今日のように幾千代かけて貴方に祝盃を差し上げることは)

 と、あるので仲忠は

 生まれ出づる世々の土器まつほどに
まづ一たびの見を見せなむ
(いいえ、度々産養の祝盃を頂くことでしょう。それにはまず、最初のお子さんをお見せになることですね)

 と、詠って、
「お声のするのはどちらでしょう。・・・・・どのようなお役でしょう」

 二人の会話を聞いていた女房達が
「お酒を飲まない人を咎めようというのです」

 南の方で、宮はた、が言う
「仲忠大将こそ。この父の物を盗みます。ここにある物をみんな盗みます」

 t、騒ぐので、仲忠は、
「盗みをする者は打ちなさい」

 と、答えると御簾のなかより度々盃が回ってくる。

盃のめぐりあひつゝ萬世を
     かぞへて君に幾世知らせん
(盃が廻って自分のところに来る度数を算えると、万世ともなるように、貴女の栄えをお知らせしようとしてもどのくらい続くか分かりません)

 詠って御簾の中に差し入れる。御簾の中には今宮の兄達が並んでいて、ああ言えばこう言う、仲忠に酒を強いる。仲忠、

「大変なところに来てしまった」

 立ち去ろうとすると、式部卿の宮のお方が、世に有名な琵琶を涼中納言が持ているのを、少しばかりつま弾かれて、御簾の中より仲忠に差し出される。

 仲忠は手にして少しばかりつま弾いて、

「これは名高い琵琶ですね」

 と、言って、先日女房達が歌っていた歌を、面白く編曲して演奏する。

 仲忠は琵琶の演奏を止めて。、
「どこにおられるのです。この際こそあの扇拍子が合いますのに」

 と、言ってもう少し演奏をして、仲忠が立ち上がると、兵衛の君という女房が立ち上がって道を塞ぎ、

「こういう女房達がいますところにお入りになって、そのままお帰り頂くわけには参りません」

 と、引き止めると、

「煩わしいこと、猿の群れのような気がいたします」

「仲忠様の舎人どもですよ」

「煩い随身ですね」

 と、言っていると、御簾の中で綾掻練の大変黒いのを一重ね、薄紫の織物の細長一重ね、三重襲の袴一重ね、どれも、言葉がないほど清らかであるのを差し出されて、中将の君女房が受け取って仲忠に渡す。

 仲忠は、女房達が歌を書き付けていた硯の所に行って。筆を執って懐紙にこのように書いて腰に結びつけた。

 高欄に寄りかかっている者、この男こそ扇拍子の人、の側に寄っていって、

「この間会ったときは貴方を知らなかったのでそのまま別れたが、今日からはせめて知り合いの仲だと思っていただきたい」