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私の読む 「宇津保物語」  田鶴の群鳥

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 驚いて宰相中将達は上達部に御子達をつれて参内する。ほとんど全員が帝の前に揃う。みんなが話し合ったり楽器をならしたりしていると、仲忠の母、内侍督から、仲忠が幼い頃から母に習っていた、内侍督は父親の俊陰から教えられた琴の「細緒風」を

「おそらくこの琴で習い覚えた曲がございましょう」

 と言って、仲忠に渡そうとすると

 右大将の兼雅がそれを取り次いで
「里から細緒風が届きました」

 と、仲忠に細緒風を手渡した。仲忠は、
「誠に覚えていなければなりませんでした」

 と、言いながら琴を受け取った。

 そうして、涼宰相の手元に弥行(いやゆき)が唐から持ち帰ってきた十三風という琴、はし風と同じような南風に似た琴がある。

 それを、紀伊の守(種松)の北方(涼の祖母)が吹き上げの里から種松の使いとして、涼に、

「お忘れになられたろうが、今夜は思い出すでしょう」

 と言って涼に渡した。

 その琴を、左衛門督が手にとって

「涼の里からかようなものが」

 と、帝に十三風を差し上げる。涼は、
「そうでした。こういう琴があったことさえ忘れていました」

 と言って、帝から賜る。

 これより音楽が始まって、帝まで唱歌をされる、

「おそいではないか」

 帝はいっこうに琴を弾かない仲忠と涼に言われる。涼と仲忠は帝から催促されて、やっと琴を弾き始めた。

 仲忠が神泉苑で弾いた「なむ風」の音は驚くほど壮大なものであったが、今夜の「細緒風」の音は高く荘重で静かに澄んで、哀れに聞こえ、細い声は、清涼殿の上にかかる十五夜の月が煌々と照るのに面白く静かに響いた。

 帝を始め涙を流さない人はなかった。帝は、

「今夜は、珍しいことがあったという記念日になった」

 と、仲忠に杯を賜る。

 撫でおほす松の林に今宵より
     千世をば見せよ田鶴の群鳥 
(大切に育てた松(女一宮)の林に降り立った田鶴(仲忠)よ、今夜から、林のように群鳥のように繁栄して幾久しく仲良くしてくれ)

 仲忠

 松陰になみゐるたづの村鳥も
代々を経たれとおもふものぞは
(松陰に並んでいる多くの田鶴もそれぞれ久しく栄えたいと思うことでございましょう)

 左大将が杯を仲忠から受けとって婿の涼宰相に渡そうと、
.
 住の江の数にもあらぬ姫松を
     雲井にあそぶ田鶴いかにみむ
(数の中にも入らない住の江の姫松(今宮)を、そら高く舞う田鶴(涼)はどう見るでしょう、お気に召したでしょうか)

 涼宰相

 ながき世をゆづる田鶴こそ数知らね
       岸の松をばいかゞ数ヘむ
(姫松には数え切れないほどの田鶴が、各々の長い齢を捧げることでしょう。その一羽にすぎない私がどうして、有数の美しい姫を喜ばないことがありましょう)

 右大将

 蘆原の田鶴の数とも見ぬ物を
     雲井ちかくもこゑのするかな
(蘆原にいる田鶴の数の中にさえ入るとも思われない不束な私が、畏くも女一宮を得て有り難いことでございます)

 と詠って、式部卿の宮にお渡しする。

 むすぴつる岩根の松は年をへて
     涼しくのみも思ほゆるかな
(しっかりした岩根の松は互いに固く結ばれて、やがて年を経て涼しい木陰をつくる事でしょう)
仲忠、涼を祝う

 左大臣

 姫松をねたくみるらむ葦田鶴の
     おのが齢におひやまずとて
(姫松の美しさ若々しさを芦田鶴は羨ましがっているようだ。自分の齢に比べていつまでも若いから)

 右大臣

 いはふめる田鶴の卵は今宵より
    かへる/\や干世をますらむ
(卵が孵るように、繰り返し繰り返し千年を重ねるだろう)

 兵部卿の親王

 なよ竹の茂れる宿にまとゐして
    たゞ世にそへむかずはしるやは
(しなやかな竹の茂っている宿に団欒して幸福な世を送るだろう。幾久しく栄える年の数を知ることは出来ない)

 民部卿の親王

 もろともに千世をぞあまた敷へつる
     磯なるかめもかたくみるまで
(諸共に千代を数え幾久しく祝福しましょう。磯にいる亀も、しかと見るまでに万年の齢を重ねるでしょう)
.
 などと皆さんが楽しんでいるうちに夜も更けていった。

 帝は
「こんなにみんなが楽しんでいるとも知らないで、仲忠の北方一の宮、涼の北方今宮が、待っている正頼の大殿では、二人の宮は本当に待ち遠しく感じているだろう。その罪の償いとして私は官位を差し上げよう」
 と、仰せになって、

 太政大臣に左大臣源朝臣季明
 左大臣に右大臣藤原朝臣忠雅(兼雅の父)
 右大臣に左大将源朝臣正頼
 大納言に中納言忠俊
 中納言に涼と仲忠
 権中納言に忠純(正頼の一男)
 左大弁に師純(正頼の二男)
 宰相に祐純(正頼)の三男)
 宰相中将に行正

 と発令なさった。

 正頼の一族九人が昇進して、大納言に昇進した忠俊と 宰相中将行正を除く七人が連なって、正頼の殿に向かった。

 中納言に昇進した仲忠は、まず左大将に昇進した父の兼雅に喜びを申し上げに、正頼殿に向かう者と二条で分かれて三条の兼雅の殿に向かう。

 二条大路で左と右の大臣は車を静かに止めて新左大将兼雅を待つほどに、兼雅が宮中から下がってこられて、この度の昇任ののことを告げる。

 中納言仲忠は、昇任の挨拶をする。
 兼雅は、
「改まってわざわざ来るには及ばない」
 仲忠は、
「思いもかけず昇進いたしましたので、このような喜び事を頂戴しまして」

「そうかそれは嬉しいことだな」

「お側にいたいのですが、皆さんが車を止めて待っておられるので」

 と、急いで父の許から去る。

 仲忠が出ようとするときに母親の内侍督が息子の晴れがましい姿を見ると、悲喜交々で、夫の兼雅に次の歌を詠む

 身を棄つと思ひし物を岩の上の
松の種ともなりにけるかな
(かっては零落の底に身を沈めたと思いましたが、しっかりと生えた岩の上の松の種となったので御座いますね)

 夫の兼雅は

 おもひ出て小だかき松を見る時は
身をすてたるもうれしかりける
(成長して、小高くなった松を見ると、あなたが身を棄てたのもいい結果を生むことになったと嬉しくなりました)

 あなたに悪かった、気の毒だったと思っていたことも、今日こそ晴々しました」
 と、言う。


絵解
 ここは右大将の殿。兼雅と内侍督の妻とが話をしている。女房が三十人ばかり侍している。

 二条の大路で仲忠を待っていて、七人ともに正頼の殿に向かう。そうして、まず北方の大宮が住む北の大殿で北方の前に並んで昇進の報告とお礼の舞をする。

 大宮
「ご報告畏れいります」

 左大臣ほか六人の方々は、
「今日の喜びをみんなに知らせよう」

 と、中に入る。


 藤中納言仲忠と源中納言涼の二人の婚礼が昇任を伴ったのだから、正頼の殿での饗応も特別だろうと思われるが、誰も誰もまだお見えにならず。結婚して三日夜と昇進の祝いの儀式が清らかにそして奥ゆかしく行われる。

 仲忠は靱負(ゆげい)女房を使者として女一宮に
「ただいま退出しました。昇進の喜びなどを申し上げたいと思います。お出でになりますか」

 と、伝えた。宮は、