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私の読む 「宇津保物語」  梅の花笠

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(春日社の氏子の正頼一家が揃って氏神に集まった目出度い今日は、春日野の松にかかった藤の花が咲くらしい)

 左衛門の督(かみ)藤原清正「花の鴬」

 枝ごとに妹背つらぬる鴬の
     鳥座(とぐら)をせばみ花ぞちりける
(花の枝毎に夫婦の鴬が並ぶので、塒が狭くなって花が散っていく)

 中納言平の正明(まさあきら)「松の蝉」

 松風のこゑにくらぶる琴の音を
しげるゝ蝉は調べざらめや
(松風の声に似た琴の音を、蝉しぐれが見事に奏でている)

 左大辨源の忠純  

 琴の音に春の草木のおどろくは
己を人やひくとなるべし
(琴の音に春の草木が驚くのは、自分を人が弾くと思うからだろう)

 右兵衛佐源師純(もろずみ)「時にのぞめる桜」

 さほ姫のほのかに染むる桜には
灰さしそむる藤ぞうれしき
(佐保姫は立田姫の秋に対して春を司る女神。染色機織の仕事をする。椿の灰を加えると紫がよく染まる)(意味が分からない歌)


 右近中将祐純(正頼三男)「はつかなる藤」

 松よりもはびこぼるゝ藤の花
いま一しほのあかずみゆるは
(松に這い絡まっている藤の花がこぼれるように咲いてる。もうひとしお染めたいと思う)

 右近中将在原元行「結べる柳」

 花さかぬ枝にも蝶はむつれけり
       柳の糸もむすぼゝるらし 
(花の咲かない柳の枝にも蝶は戯れている。そこで糸のように細い柳の枝がまつわって離れようとしないらしい)

 宰相実忠「春の雨色に出でて」

 花をのみ村濃に染むる春雨は
       常磐の松やつらく見るらん
(春雨が花にばかり心を奪われて、或は濃く或は薄く美しく鮮やかに染めるので、常に緑の松は春雨を無情だと恨めしく見る事だろう)

 宰相なほまさ「風に失ふ花」

さほ姫や物うかるらん春の野に
       花の笠縫ふ枝の見えねば
(春の野に、花笠を縫う枝という枝の花が風で散らされてしまったのを見ては、流石の佐保姫も憂欝であろう)

 とて、むかひたる人の四位より始め殿人に給フ。給はりて (意味不明)

 左中将實頼「おとろふ梅」

白妙の衣ににたる梅の花
       めにみす/\もおとろふる哉
(白妙の衣に似た美しい清らな梅花が、みるみる褪せて行く事よ)
 
 左近少将源仲頼「あしたの霞みどりなり」

 鴬のはかぜを寒み春日山
       かすみの衣けさはたつかも
(鴬は白分の羽風が寒いので、春日山の霞の衣を今朝は着ようとして裁っている)

 おなじき少将元方「雲のにしき」

大ぞらに風のおりしく錦をば 
       谷より雲のたちわたるらし
(夕日を浴びた大空一杯に風が錦を織りつづけている。それは谷から雲が立ちのぼるからだろ)

 おなじき少将員政(かずまさ)「冬わかく春老ゆ」

 見わたせば雪ふる山もあるものを
       野邊の若菜の老いにけるかな
(遥か向うの山にはまだ雪が降っているのに、まあ何と野辺の若葉の成長した事よ)

 左丘衛の佐顯純(あきずみ)「雪をうつす山」

 ふじの嶺は春日の春をよそにみて
       鹿の子の雪もいまや消ゆらん
(春日はもう春になっているのもかまわずまだ冬の富士山では鹿の子斑の雪がやっと消えるところであろう)

 おなじき行正「雪の下草」

雪のうへにしひて草木のみゆればや 
       春日に飛ぶ火ありといふらん
(わざわざ雪間をわけて草が萌え出るから、それで春日野に飛ぶ火があるというのだろう)

 兵部の大輔兼純「霜のうへの菜」

 春日野の雪間に生ひし若菜をほば
       野守は見きや今日摘まんとは
(「飛火の野守」の歌の作りかえ。
あかねさす紫野行き標野行き野守は見ずや君が袖振る(万葉集巻一・二〇)
春日野の飛火(とぶひ)の野守いでて見よ今いくかありて若菜つみてむ(古今集18)                              
 侍従仲純「はつかなる木の芽」

春を浅み野邊の木の芽もまだしきを
       いづこより摘む若菜なるらん
(春が浅いので、野邊の木の芽もふくらまないのに、どこから摘んできた若菜であろう)

 おなじき侍従源たゞまさ「紅の梅」

春雨の花にふりおく紅にそめて
       そむらし春のさほ姫
(この鮮やかな紅梅は、春雨が花に降りそそいで置いた紅で、佐保姫が染めたのに違いない)

 侍従藤原の仲忠「蕨に消ゆる雪」

 雪とくる春のわらびの萌ゆればや
       野邊の草木のけぶりいづらん
(雪がとけて春の蕨が萌え出たのであろう。それで野辺の草木が皆けむりはじめたものと見える)                         
 侍従かねとき「石の火にとくる氷」

春わかずさゆる河邊の葦の芽は
       石よりいづる火にや燃ゆらん
(春秋のけじめもなくいつも冷えている河辺の葦は、春の光に温たまった石の火で芽が萌え出たのであろう)

 侍従これかぜ「時をさとらぬ松」

 見る人のよはひは千世のあなたをや
        緑の松は春とまつらん
(人の見るところでは、松の齢は限りがなくて、千年よりもずっと先を春として待ち迎えるのであろう)                                            
 侍従もとまつ「春をかさぬる花」

ふたゝぴやこぞの桜はにほふらん
        おなじ花にも春をそふれば
(年内に春が来て桜が咲いたが、その桜が再び春に遇って匂うであろう。去年の同じ桜花にまた春がきたのだから)
                       
 大夫親純(ちかずみ)「野邊に静なる人」

春ふかみ汀の芹も老いぬらし
        いまはものうし若菜つむ人
(春が深くなったので、水際の芹(せり)も伸びて剛くなって食べる人もないらしい。それで今は、若菜を摘むのもおっくうになって、野辺は静かになった)

 式部の丞清純「山にさわぐ鹿」

萌えわたる草木もあらぬ春べには
        山邊にいそぐ鹿ぞふむらし
(一面に芽の出た新鮮な草木も今はない晩春の野辺には、(人影もなくただ)山に帰りを急ぐ鹿が踏むだけらしい)                 

 右兵衛尉頼純「風になびける枝」

 鴬の冬のとぐらや春たてば
       風のなびかす柳なるらん
(鴬が冬中、塒にしていた柳の枝を、春が来ると風がのどかになびかすであろう)

 蔵人藤原なかとほ「雨にしたがふ草」

春雨のふる岡のべの草木をや
       秋のやどりと虫は頼まん
(春雨の降る岡のあたりの草木を、やがて秋にもなれば、虫は宿とたのむであろう)

 木工の助これもと「春を惜しむ花」

さほ姫はいくらの春を惜しめばか 
       そめいだす花の八重に咲くらん
(佐保姫はどれほど春を惜しんでいるせいだろうか、染め出す花が晩春八重に咲くのだろう)