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悠里17歳

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9 勝負



 3月31日、アメリカの街はイースター(復活祭)の季節で学校も休みになる。日本では馴染みが薄いが、クリスチャンの多いこの国ではクリスマスに並ぶ大きな年中行事の一つだ。昨日は聖郷と一緒に卵に色を塗って遊んでその準備をした。
 イースターとは別に、私にとっては今日は特別な日だ。倉泉悠里の17回目の誕生日なのだ。私は今日も道場に顔を出し、同じく今日が誕生日の篤信兄ちゃんも稽古に参加している。今日はLAでツアー中のお兄ちゃんも西守邸に来ることになっていて、稽古が終わればささやかに私と篤信兄ちゃんをお祝いしてくれるみたいだ、私には何も聞かされていないけど聖郷がそのような事を漏らしていた。小さかった時は家が荒れていて誕生日と言っても何かしてもらった記憶は遠い遠い前の話で、17にもなって祝ってくれると返って恥ずかしい。自分的には久し振りにきょうだい三人(今は四人だけど)が揃うだけでも私にとっては大きなプレゼントのようだ。
 今日はアメリカ遠征の仕上げとも言える試合稽古。エディは実力を考慮して対戦相手を組み、私はというと特別に多く試合を組んでいただきなかなかハードなものとなった。ステファンを含む練習生相手には引き分けはあったが何とか負けることはなかった、今日は得意のメンが遠くから打てている。
 続いて篤信兄ちゃんとも試合をした。私をこの道に引き込んだ「先生」相手に負けはしたが二本は取られなかった。
 最後に加州剣倉館長、エディ・クライズミ。相手になってくれるだけでも光栄だ。エディは終始私に打たせる試合運びで、時折見えないスピードで襲ってくる一撃が来るが体が無意識に反応している。結局は私のメンが弱かったのか、エディが打たせるのが主体であまり打ってこなかったのか勝負はつかなかったが、周囲の拍手はそれが手を抜いた凡戦ではないことを評価してくれたようだ。

 試合稽古が終わるとこの流れなら地稽古に入るところだが、篤信兄ちゃんとさっきの試合稽古を振り返っているところに、神棚の下で立っているエディが私を呼びつけたので、私は足早に駆けつけた。
「今日の悠里はメンが走ってる。得意を使えば相手も手を変える、その調子だ」
「はい、ありがとうございます」
 ちょっと嬉しいけどここは顔に出さない。私は礼を言って頭を下げた。
「ところで悠里、もう一試合するけど準備はいいかい?」
「――はい、先生とですか?」
 自分的には道場主である叔父と善戦したところで留めておきたい。でももうひと試合というのなら喜んでしたい。
「いやいや、じゃあ呼んでくるよ」
「相手はエディじゃないのか」心の中で呟いた私は不思議に思ってエディの顔を見ると、どうやら私の意思は伝わっている様子だ。エディは裏の戸の方へ歩いて行くと、外に向かって武道家らしい通る声で新たな対戦相手を呼び出した。
「OK, come in Steve!」

作品名:悠里17歳 作家名:八馬八朔