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真田 サヤ
真田 サヤ
novelistID. 53316
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キラー×ポリスガール

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 夜中の廃工場の中でオレンジ色の髪をした少年が拳銃を持って立っている。歪んだ笑みを浮かべながら、
「隠れてないでさっさと出てきたらどうです? それでも僕らチルドレンの番犬ですか?」
 少年の挑発にのるように特殊部隊の格好をした男達が少年に向かって軽機関銃で銃撃してくる。しかし少年はその弾丸の嵐を回避した。弾幕を浴びせた一人が呻く。
「な、何で弾が当たらない!?」
 隣りにいたもう一人が、
「あ、あれがファースト……。動きが素早すぎて照準が!」
 少年は瞬時に軽機関銃を放った男の一人を射殺する。それを見たもう一人の男は取り乱し逃げ出した。
「ば、化物だ! 助けてくれー!」
 ファーストと呼ばれた少年はうんざりした顔をして、呟く。
「おしまいか、つまらないな」
 少年は逃げ出す男を振り返りもせずに後ろ向きのまま射殺する。少年は高笑いをして、
「アハハハハハハ! これで僕らを抑えようとしてたのか、呆れるのを通り越して笑えますね」
 少年の死角の柱に身を隠したイカツイ顔をした大男が少年を狙い撃とうとするが、引き金を引く直前に少年のオレンジ色の瞳と目が合う。
大男は一瞬、驚愕した。「何故位置がわかったのか?」そう頭によぎった瞬間、肩を撃ちぬかれる。
痛みと衝撃に構えていた拳銃を思わず手放す。少年が銃を構えながら素早い動きでこちらに駆け寄る。大男は死を覚悟した。
すると、突如、スペツナズナイフが少年の死角から撃ち出され、少年の持っていた拳銃の銃身に当たり、拳銃がはじき飛ばされる。少年が立ち止まる。気付くと大男の側に少年と同じくらいの年齢の少女がいた。少年と違うのは大きくツリ上がった両眼に、ショートカットしたさらさらな黒髪ということと、大男と同じ特殊工作員のような服装だろう。ツリ目の少女が大男に小声で話しかける。
「ボス、今のうちに逃げましょう」
「レイ、しかし奴をこのままにするには……」
「ボス!」
「くっ! 化物め!」
 ボスと呼ばれた大男は同意を表すように頷き、肩の傷を押さえながらレイと呼ばれた少女とその場を後にする。しかし、少年は獲物を定めた獣のような顔つきで迫ってくる。
 二人に戦慄が走った。
「逃がさないよ」

       ○
   八月二十五日  午後二時 南米メキシコ ヤキ平野

「お前らで最後だ」
 カナタは、逃げ遅れた敵兵士の二人を射殺する。周囲を見渡すと自分一人だけしか残っていないことに気付く。最後までカナタに憎まれ口を言っていた味方のフランス人の亡骸を見つめながら、
「また生き残ったのは俺一人か……」
 カナタは気が抜けて、その場で大の字で寝そべる。メキシコの陽差しは眩しい。瞼を閉じて、
(そろそろくたびれちまったな……)
 すると地面から地響きが聞こえ出す。身体を起こし、音の方角を見るとガントラックが襲って来ていた。
ガントラックから大声が聞こえる。
「あいつだ、あの赤髪の死神だ! 奴を生かすな!」
 迫ってくるガントラックには殺気を帯びた十数人の兵士達がいた。カナタはそれを一瞥して深く溜息をして、再び寝転がる。
(もう終わりだな……。心残りは死ぬ前に一度だけ女を抱いてみたかったことぐらいか……)
「やっと見つけた」
 声に反応し、瞼を開けるとカナタの側にショートヘアの黒髪をした東洋人風の顔立ちの少女が映った。ツリ上った眼が印象的だ。
「な、なんだ!? こんな天使みたいなロリータが現れてくるなんて神の思し召しか?」
「何言ってんの? さっさと逃げるわよ」
 ツリ目の少女の言葉から日本語が出た。驚いたカナタは、
「日本人か!? 俺が一番好みな人種だ」
しかしツリ目の少女は有無を言わさず、カナタの手を引っ張り、その場から逃走する。するとジープが二人の前を遮るように急停車した。
すかさずツリ目の少女はカナタを無理矢理後部座席に押し込む。運転席から、ツリ目の少女と同じ、東洋人風の面相の若い女がカナタに向かって声をかける。
「少年、死ぬにはまだ早いよ。ボス! 後ろは任せたよ!」
 ジープの荷台に乗った大男がRPGを構え、爆音を響かせ、ロケット弾を射出した。
直撃を受けたガントラックは炎を上げ、乗組員ごと爆散する。あまりの唐突な展開に取り乱すカナタ、
「な、なんだお前ら!?」
 カナタの質問を無視し、運転席の若い女が書類を読み上げる。
「ふ~ん、十七歳でフランス外国人部隊に所属、出身はアメリカのフロリダ州、日系アメリカ人か。私達と同じ日本人じゃないのね。いやいや、所属した部隊は君を残して全滅の繰り返し、ついた通り名が赤髪の死神か。面白い経歴もってるね、少年」
この若い女も日本語を話すことから、日本人の集団であることを理解したカナタは彼女達の言葉で、
「俺の質問に答えろババァ!」
「まだ二十三歳よ! 失礼な奴ね。レイ、こいつウザイから眠らせて」
「ウザいとはなんだ! このビッチジャップめ!」
 レイと呼ばれたツリ目の少女がナイフのグリップの尻でカナタの脳天に直撃させ、カナタはたちまち気を失う。
 そして気絶したカナタを乗せたジープはメキシコの高原を走り出す。

           ○
    九月一日 午前一時 

「もう少し、あと少しで日本は変わるよ、父様」
 薄暗がりの小部屋の中、窓際のベッドで横たわる老人に語りかける少年。
「父様にも聞かせてあげたいですよ。その新しいユートピアの産声を」
 しかしベッドに横たわる老人は答えなかった。すでに老人の意識はそこには無かった。小さく目は開いているが少年の言葉は届いていない。そう老人はベッドに横たわる、それだけの存在だった。しかし少年は構わず語り続ける。
「僕らが、父様が作ってくれたチルドレンが変えて見せますよ。父様が実現したかったユートピアを、だから後もう少し、もう少しだけ待って下さい。このファーストが父様の代行者になります」
 少年は老人に向かい深く頭を下げ、右手を老人の顔の前に差し出し、優しく老人の開いた瞳を閉じた。そして後ろに振り返り、薄暗がりの小部屋を出ようとゆっくりと歩き出した。そして少年がドアノブに手をかけて囁いた。
「そろそろ幕間劇を始めましょう。観客も待ちわびている」
 少年は歪んだ笑みを浮かべる。少年の瞳が美しいオレンジ色に輝き出した。そして少年は扉を開いた。その先にはより深い闇の静寂に包まれていた。少年の瞳だけが妖しく光を放つ。
    十年前  ~いつかの始まり~
 街路灯もつかない人里離れた山中。かつて建築材として杉の樹林が行われたものの現代では誰も手をつかず放置され、原生林として自然に還りつつある、人から忘れ去られた雑木林。真夏のせいか、虫のやかましい鳴き声が耳障りなぐらい響き渡る。人気は無く、普段は車すら通らない暗い夜の山道。その道に真新しく残ったタイヤの痕跡を懐中電灯の微かな光で照らしながら、学生服姿の少年が歩いていた。道沿いを見渡し目当てのものを見つけて立ち止る。そして周囲を見渡す。
一見優等生そうな風貌の少年の名前は夏山明。彼は目の前にあるワンボックスカーの後部座席を勢いよく蹴り飛ばした。車体が揺れ、車内から男の呻き声がもれる。夏山は車内にいる人間に聞こえるような声で呼びかけた。
「海原龍一、出ろ」