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関西夫夫 クーラー7

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 まだ人通りはあるから、俺の周囲の人間も動いている。下から、サングラスしたおばはんが上がってきた。えらい勢いなんで、横にどけた。すると、おばはんは、俺にカバンを力任せにぶつけて走り去った。後ろの壁に勢いで当たったが、大したことはなかった。

・・・・なんじゃ、あれは?・・・・

 虫の居所でも悪いおばはんやったらしい。「クソババア、侘び入れんかいっっ。」 と、怒鳴ったが、もういなかった。風体からして、ええとこのおばはんらしかったが、まあ、いなくなったのでしょうない。



「ただいま。」
「おかえり。」
 ハイツの階段を昇って、玄関開けたら、俺の旦那が廊下に顔を出した。ネクタイを緩めつつ、靴を脱いで上がってから、封筒を取り出した。
「何? 」
「堀内のおっさんからボーナス。白紙の小切手やなかったから、現生や。ちょうど、病院代とかスーツ代とか、ちゃらになりそうな額やねん。好きに使こうて? 」
「なんで? 」
「ヘッドハンティングがあってな。断ったから金くれたんや。」
「え? そんなんあるん? 」
「たまたまな。」
 俺の旦那は、封筒を覗いて、「うわぁー。」 という喜んだ声を出した。そらそやろう。かなりの金額や。ネクタイを俺の旦那の肩に置いて、ワイシャツのボタンも外す。スーツの上着は、すでに俺の旦那の腕に移動させた。
「温泉行けるで? 」
「せやな。俺のほうが落ち着いたら、土日で行こか? 」
 ふたりして廊下を歩いて居間に入る。その頃には、ワイシャツも脱いでいる。
「その背中がなあ。・・・・秋ぐらいに、考える。和歌山とか最近、行ってないから、どや? 」
「どこでもええで。」
「まあ、考えるわ。先に風呂入り、用意するから。」
 俺の旦那は、その封筒をチェストの一番上の引き出しに入れた。とりあえず、貯金してくれるやろうから、それでええ。風呂に入って、出てきたら、おいしそーな匂いが食卓からする。焼きおにぎりとか煮物とかが並んでるのは、ええとして、なぜか小振りの丼が空で置かれている。
「ん? 」
「ふふふふ・・・我が家でもできるひつまぶしのアレンジや。まあ、座れ。」
 俺の旦那は、丼に焼きおにぎりを一個入れて、上から出汁をかけた。それから、薬味を適当にいれて、俺に渡す。
「どこいらへんが、ひつまぶしなん? 」
「それ、鯛のほぐし身が入ってるおにぎりやねん。それを出汁茶漬けで食うわけや。味見したら、焼いたほうが美味かったから、おにぎり焼いたんよ。つぶして、スプーンで食べ。」
 はい、と、木の匙を渡された。おにぎりをぶちぶちとつぶして口にしたら、美味しかった。
「うまぁ。これ、ええやんっっ。」
「せやろ? せやろ? 俺を褒め称えろ、俺の嫁。我ながら上出来やと思う。」
 半額の鯛の切り身がスーパーにあったので、考案したと俺の旦那は威張っている。確かに、鯛は高いから、うちでは半額でないと、こんなことはできひん。あっさりしてるし、俺でも食える温度の出汁やし文句はない。
「うなぎほど、しつこくないからええなあ。」
「夏バテやったら、うなぎやねんけど高すぎてあかんわ。一匹で二千円とか心に痛い。」
「え? うなぎって、そんなすんの? 」
「せやねん。うなぎは高いんや。せやから、あの堀内のおっさんのひつまぶしやったら万札飛んでると思う。」
「はあぁぁぁ? あれで万札? 」
「あれ、絶対に一匹の分量やなかったからな。二匹として四千円。ほんで、入れ物とかついてたから、その代金も込みやろ? 」
「あれ、あっちで食わせてもろたらしいけど・・・そんなすんの? 」
「するんやろうなあ。まあ、ええがな。タダやったんやから。」
「まあ、せやな。俺らは一銭も使こてないわな。」
 わしわしと匙で、ひつまぶしを食べた。俺は、こっちのほうが好きな味や。濃くないし、茶漬けやし、これやったら、おかわりできる。おにぎりは、あと四個。俺の取り分は、あと二個ある。
「無理して食わんでも冷凍できるからな。」
「いや、あと二個はいける。これ、毎日でもええ。」
「ドアホ。毎日、半額の鯛があると思うな。まあ、気にいったんやったら、よかったわ。」
 俺の旦那も、ばくばくと茶漬けを食って笑っている。
作品名:関西夫夫 クーラー7 作家名:篠義