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関西夫夫 クーラー7

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東川さんが、追い出して引き返してきた。やれやれ、と、扉を閉めて息を吐く。
「あれ、第二段とかあるかな? 」
「いや、あれだけ派手に怒鳴ったら、あっちも出向けるわけはない。もう、ええやろう。・・・・とんでもないな? 」
 万が一のことも考えて、この部屋の様子は盗聴して録音していた。東川さんは、ダイレクトに会話を拾っていたらしい。
「そういう人らなんや。・・・親の言うことには逆らわへんって思いこんでるんやろうな。」
「二十年も昔に縁切りしといてなあ。それは無理な話やと思うぞ。なんぼなんでも、そういうことやったら直接、おまえの父親が出張るのが筋やろうし、頭の一つも下げてしかるべきや。」
「それができるような人間ではないんや。俺は失敗やったと言い放つような人らやからな。・・・・失敗したんは、俺の所為やないちゅーんよ。作ったんは、我がらやのに。出来ちゃった婚やったらしいから。じじいが、いつも言うてたわ。」
 祖父母は、この結婚には反対した。それを打破するために、妊娠という手を使ったのだ。育児ができないから、と、俺を祖父母に押し付けたのも、両親で、そら、じじいとばばあも怒るっちゅーんよ。次の子は、ちゃんと自分たちで育てたから、俺のことは失敗作やと言うた。俺は、別に気にしてへんかったが、祖父母は激怒した。だから、俺は祖父母の下で育ったのだ。
「よう考えたら、じじいとばばあが、俺を育ててくれたから、俺はマトモに育ったんや。そうでなかったら、とんでもないことになってたんやろうな。」
「せやろうな。おまえがマトモってとこは、わし、ちょっと頷いてやれんけど。」
「なんでやねん。金稼いで生きてるがな。至極マトモやろ? 」
「それは人間として最低限の義務や。それはやってて当たり前であって、マトモと判断する材料やないわ・・・しばらくは嘉藤と帰れ。それでも接触がなくなったら、それで終わりや。」
「はいはい、了解。」
 来訪しても電話でも取り次がなければ問題はない。あとは、通勤時間だが、これも嘉藤と帰れば接触は難しい。今更やろう、と、水都は冷たく顔を歪めた。どんなに血の関係があるといっても、あちらから切った関係だ。今更、何をしても蘇るものではないし、元々、両親とは会話もなかったから、傷つくこともない。




 嘉藤との同伴は一週間続いたが、それからは相手からの反応はない。だというのに、なぜか、東川から同伴を解くという話も出て来ないので、不思議に思っていたか、まあ、裏でなんやかんやあるんやろうと水都は気にしなかった。
「白紙やないけど小切手を送ったから、ボーナスにせい。」という堀内からの連絡が入った。もちろん、本社からの連絡便の一部として送られて来たが、額は想像以上だった。ただし、東川たちにも分配するように指示がついてたので、水都の手に入ったのは、予想より大目だった。これで、イレギュラーの出費とスーツ代はおつりがきたから文句はない。
「よかった。入院費がチャラや。」
「ガレージの修繕費は経費でええそうや。沢野はんから言うてきた。浪速のほうも音信不通やから、もう普通に帰宅してもええで。」
「嘉藤さん、おおきに。」
「なんのなんの、ただ帰宅してるだけやからな。」
 何も知らない水都のほうは、それで一件落着と胸を撫で下ろしている。もちろん、この小切手には裏がある。佐味田が、ポリにチクった情報と、諸々、沢野が仕掛けた悪戯で、どっかのボンボンは逮捕された。そこいらをつついて、この金は現れたものだったからだ。水都の轢き逃げ事故は、公けにはしなかった。しないかわりに治療費諸々で、これの三倍以上の金が動いたのだ。東川たちは、部長室を出て、タバコ休憩と称して外へ出た。
「脱法ドラッグだけやなくて、適当に重いのも仕掛けたらしい。・・・えぐいわー。」
「それでええんちゃうか? 」
「結局、また轢き逃げしようとしとったんやろ? 場所は、北やったらしいが・・・」
「飲みすぎて、頭をいわして、ここまで来られへんかったんや。それで、無謀運転で、また轢き逃げして電柱に突っ込んだんやとさ。それは現行犯逮捕やったから、示談にするにしても金はかかるやろう。ざまあみろや。」
 犯人は、もちろん、水都の実弟で、それについてポリのほうには連絡をしていたから現行犯逮捕ができた。これで、とやかく言うてくることはない。そこいらの仕掛けは沢野がしたらしい。どうやって、あのボンボンにクスリを楽しませたかは知らないが、のめりこんだのは当人の責任で、誰も同情なんかしない。逮捕されて邪魔者は消えたから、堀内もボーナスを用意してくれた。跡取り息子が、どうなろうと、こちらには影響がない。ただの逆恨みなので、東川たちにも罪悪感はない。
「みっちゃんの実家からは、なんも言うてきてへんのか? 」
「沢野はんの弁護士から苦情を言わせたらしい。・・・まあ、あんだけ怒ったら、普通は来られへんやろう。電話は何回かあったみたいやが、バックレさせといた。それもなくなる。ボンボンのフォローのほうが大変やろうからな。」
「余罪の確認は、きつめにしてくれるようにナシはつけといた。うまいこといったら、轢き逃げのほうもバレる。」
「いや、それはないやろう。あっちにも弁護士くらいはおるやろう。そっちは、これでチャラや。」
「しかし、代取から外されたんは、自業自得やのに逆恨みするって、どういう生き物なんや? みっちゃんは、なんも知らんのに。」
「最近の若いのは、いろいろとおかしなんが多いから、それなんとちゃうか? 生活全般、親にみてもろて、ほんで、なんで、一文ももろてないみっちゃんに八つ当たりするんや? 俺には意味がわからん。」
「みっちゃんに罪被せたんは、両親のほうや。それしか知らんから、みっちゃんが極悪人みたいな印象なんやろうなあ。・・・・自分の腹を痛めた子供に、そんなことするのが、そもそもおかしい。」
 東川には、子供がいる。自分には、そんなことできそうにもない。自分の子供か可愛いとしか思えないからだ。水都は、かなりおかしな生き物ではあるが、仕事に対しては常識的で真面目に取り組んでいる。堀内が手ずから教えてしごいたから、この業界の仕事なら、一通りこなせる。そこまで教育したのは堀内で両親ではない。だからこそ、堀内は引き抜きなんか阻止したのだ。
「今日は、打ち上げと洒落こむか? 嘉藤。」
「そらそうやろう。あんたも来るか? 東川はん。」
「たまには付き合うわ。割り勘やけどな。」
 三人も、面倒事が片付いたので、打ち上げをしておくことにした。本来は主役の浪速も誘うべきだが、下戸で亭主持ちなので誘う意味が無いからスルーされていたりする。



 普通に九時に会社を出て、地下鉄へ向かう。今日から通常通勤になったので、やれやれと俺も息を吐いた。手にした金は、花月に貯金してもらうか、イレギュラーの出費の補填にあててもらえばええから、カバンの中にある。おつりがあるから、これで安い温泉旅行が出来る。俺の亭主の忙しいのが終わったら、それに使ってもええ、と、考えて階段を下りた。
作品名:関西夫夫 クーラー7 作家名:篠義