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漢字一文字の旅  紫式部市民文化特別賞受賞作品

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9―2 【雨】

 【雨】、天から「あめ」が降る形の字。

 そんな【雨】、少し科学的に解釈すれば、空から落ちてくる直径0.5ミリメートル以上、大きなものは直径3ミリメートルの水滴のこと。
 それより小さい雨滴のことを、「霧雨」(きりさめ)と言う。

 【雨】は平らな饅頭の形状をして、毎秒9メートルの速さで落下してくる。
 そんな【雨】、必ず降る日がある。
 それは曾我兄弟が討たれた陰暦の5月28日。

 十郎祐成(じゅうろうすけなり)には契った遊女の虎御前(とらごぜん)がいた。その彼女が流す涙で、「虎が雨」(とらがあめ)と呼ばれている。
 そして時代を経て、さらに情が入れば【雨】は詩となる。

  雨はふるふる 城ヶ島の磯に
  利休鼠(りきゅうねずみ)の 雨がふる
  雨は真珠か 夜明けの霧か
  それともわたしの 忍び泣き

 北原白秋は城ヶ島の雨でこう詠った。
 この中にある「利休鼠の雨」、それは抹茶のような緑色を帯びた鼠色。
 イメージからすると暗い感じがするが、「利休鼠は早緑(さみどり)の上に降る雨で、決して暗い鼠色ではない」と、後日、北原白秋は説明を加えている。

 そんな風情一杯の【雨】が、初夏に降る。