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ろーたす・るとす
ろーたす・るとす
novelistID. 52985
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便利屋BIG-GUN2 ピース学園

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後で知った事だが先日補導した高校生が強度の麻薬中毒で病院に搬送する間もなく禁断症状で暴れ自殺してしまったらしい。麻薬販売ルート解明の手がかりを失ってしまった事と若い命を救えなかった事。それでシェリフはいらついていたのだろう。担当した麻薬課のデーブ刑事は責任を感じて辞表を提出したそうだが、署長は受理しなかった。仕事で取り戻せと言う事だろう。上司も部下も熱いやつらだ。
「あたしは人生に逃げ道なんか作らないけどねー」
 などと巨乳な婦警さんアリスはほざいていた。
 ネットゲームとホストに逃げている女が何を抜かす。俺のように世知辛い世間の荒波に立ち向かってから発言して欲しいものだ。
 ところでこの巨乳なおねーさん、この間まで受付嬢だったのだが署長室付に配置換えになっていた。出世といえよう。
 大した仕事をしていたわけではないのに何故?!
 署長が巨乳好きだったか、あんなのを受付に置いておくと性犯罪増加に拍車がかかるとやっと気がついたのか。
 まぁなんにせよ、顔見知りが署長室に行ったおかげで署長とは会いやすくなった。警察の情報も得やすくなった。俺には悪い事では無いだろう。

「治安悪化と言っても周りの街に比べれば犯罪発生数も検挙率もずっと高ポイントだ。署長も市長も支持が下がる事は無いだろう」
 情報屋からの報告ついでに三郎がまとめた。
 ふむむ、では下がるのは我がベイブルース(俺贔屓のプロ野球チームだ)の順位だけか。いや下がってないか。ここ数年ずっとドベだ。
「なんにせよ情報が少ない。兄貴の言うとおりピンフに潜入して瀬里奈と接触するしかないようだな」
「なんでわざわざ入学しなきゃならん。どう考えても不自然で目立つぞ」
 三郎の意見はごもっともだ。なんとなく俺にちゃんと学校くらい行けという兄貴のありがたい陰謀のような気もした。
「そう思うが奴は寮住まいで学校からほとんど外出しないらしい。まあ、内気な奴だったからな。お前代りに行く? 女子高生好きだろ」
 俺の軽口に三郎は気だるそうに答える。
「俺が女子高生好きなんじゃない。向こうが俺に寄ってくるだけだ。お前のフィアンセなんだ、お前が対処しろ」
 こんなことを真顔で言うからいつもカチンとくる。しかし確かにこいつの周りには女が絶えないから反論も出来ないのが悔しい。
女の子といえば先日ボディーガードしたジュンは何してんだろう。
「今度近くに行くから顔出すねー」
と、メールが来たっきり現れない。まぁ今取り込んでるからいいけど。
「ピース学園に関してはネットでも調べておいたが大した情報は無い。不良グループもいるがリーダーが突然転校しちまったんで今は比較的静かな学校だ。変わっているのは生徒会ががんばっているらしい事位かな。これがクチコミ情報と裏サイトのアドレスだ。入学前に目を通しておいてくれ」
ジムがスマホを操りメールをくれた。
同じ長身のハンサムさんでも三郎とは言葉の柔らかさが違う。素直にありがとうと言わせてくれる最近では稀有なタイプの人間。それがジムだ。
ぱぱっと目を通す。シェリフは薬物がどうとか言っていたがさすがにキリスト系元お嬢様学校だ。そんな噂はかけらも無い。せいぜい2ちゃんで脱法ハーブ試してみたいよねー、えーやばいよー程度だ。松岡瀬里奈の名はどこにもないか。
そこへ宅配便が届いた。入り口には一応センサーがついている。危険物ではないようだ。
兄貴からだ。
慎重に開けてみると中身はなんとピンフの制服だった。手配早。やっぱり松岡と組んでのドッキリじゃないのか?
と、入り口にもう一つの影。
殺気。緊張と共に懐のベレッタに手が伸びる。しかし。
「風見ちゃーん」
 現れたのは駅前のラーメン屋のおばちゃんだった。
 主人である親父さんは小柄で痩せた人懐っこいタイプの人だが、こちらはその英気を吸い取ったかのごとくデカイ。
 主に横に。
 そのおばちゃんが獲物を狙う怪しい笑みを湛えながら店内に侵入してきた。こ、怖い。
 おばちゃんはおもむろに口を開いた。
「ピース学園入るんだって?」
「情報はやすぎんだよ、いつも!」
 ラーメン屋「チューリップ」は5人がけのカウンターがあるだけの小さな店だが街の名物とまで言われるほどの有名店だ。
 が、それとは違う顔がもうひとつある。
街一番の情報屋なのだ。
 仕事柄度々利用して重宝しているが、問題は一番得意とする情報は「俺」であるということだ。
 この情報屋、特におばちゃんの方だが俺の成す事全てを知っていると言っても過言ではない。ストーカーと言っていいだろう。
「おばちゃん、いつも風見ちゃんの事見てるからね」
 自分から白状しやがった。
「で、ご実家がばたついてると思ったらピース学園に入学手続きなんかしてるじゃなーい」
 なんで俺の実家内部の事まで知っている。細胞分裂して一人派遣しているのか?
「あいかわらず大した情報収集能力だ。だがなんでここまで来た」
 するとおばちゃんムフフと笑っていった。
「制服まで用意してたから、おばちゃんここで張ってたのよ」
全然気がつかなかった。さすがプロ。
「で、だからなんで張ってたんだ」
「おばちゃん一日でも早く風見ちゃんの高校生スタイル見たくて。さ、今届いたでしょ。早く着替えて」
 と、おばちゃんすでに右手にカメラ構えてやがった。
 フジフィルムX20か。コンパクトカメラでありながらレンジファインダーカメラ風のルックスとアナログな操作感をもつ高級機。中々いいカメラ用意しやがって。
「なんで俺がファッションショーまがいの事を……」
 反論しようとしたが巨大なおばちゃんは店の前で時間が止まったようにムフフと笑って動かない。こ、怖い。
「おい」
 三郎の冷たい声がした。
「とっとと着替えてやれ。そのままだと仕事にならん」

「Jr.真実は一つというが見方によって違って見える。人も物事もそれは同じだ」

 悪夢を振り払うように時間は現実に戻る。
 ビジョンがセクハラカメラマンおばちゃんから黒髪の美少女に変わった。
「というのがここにきた事情だ」
「ふーん、で結局写真撮らせてあげたの?」
 蒸し返すな! 消したい記憶だ。
 松岡瀬里奈はすっかりさっきまでの冷ややかな瞳に戻り俺の腹の中まで探ろうとしていた。
「助けろって言ったって私ちっとも危険じゃないわ。強いて言うならあんたが今一番の危機かしら」
 うーん、ごもっとも。
 俺達は倉庫を出て校舎裏に出てきていた。取り巻きが目を覚ましたら、また張り倒さなくちゃならんのでめんどいというのが主な理由だ。
瀬里奈は長い髪をはらいめんどくさそうに続けた。
「そんな情報でいちいち入学までして押しかけてきたの? そのあげく何人も張り倒して。どういうつもり?」
 どういう事なのだろう。300万もの金が動いている。そりゃあ兄貴たちから見ればはした金かもしれんが今更俺を学校に入れるためにこんな手の込んだことはするまい。
「張り倒したのは突っかかってきた奴だけだ。降りかかる火の粉を振り払ったにすぎん」
 そう、突っかかってきた奴をだ。
 瀬里奈は何か反論しようとしたが、わざとらしい咳払いに遮られた。