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ろーたす・るとす
ろーたす・るとす
novelistID. 52985
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便利屋BIG-GUN2 ピース学園

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「少し救われた気もするが、あれが自分の末路かと思うと恐ろしいな」
「それで俺に殺して欲しいのか」
「それだけじゃあない」
 松岡は右手をかざした。震えている。
「このまま生きていれば…… 瀬里奈を殺してしまう」
 なんだと?
「君は誤解している。君に瀬里奈を保護させ遠ざけた後、あの子の仲間を倉庫に呼び出し惨殺。あまつさえその死に様を娘に聞かせて君に報復したのはニチバじゃない。紛れもなく私なんだよ」
 自嘲気味に笑いながらの言葉だった。
「どういうことだ」
 わからない、松岡は瀬里奈をどうしたいんだ。助けたいんじゃなかったのか。
「どんな弱みを握られようと私が完全にケニーを裏切るなどありえない。組織の金に手をつけてしまったが必ず返すつもりだった。だが奴等は人を縛る術を知っていた」
「麻薬か!」
 麻薬の禁断症状はどんな強固な信念も捻じ曲げる。
「麻薬の禁断症状が出ると私は凶暴化する。愛する者ほど痛めつけたくなる悪魔に変わる。君に助けを求めたのはそれで娘を殺してしまうのが怖かったからだ」
 松岡は震えていた。彼には地獄を何度も味わされた。死んだほうが楽と思うシゴキを受けた。その鬼教官が今目の前で小さくなって震えている。
「クナイトには事情を話し私を殺す様頼んだ。しかしすぐには動いてくれなかった。彼は組織の総帥としてニチバと対決するほうが優先だったのだろう。それで私は君に頼んだ」
 松岡はまだ震えていた。かつては娘と同じ色だった髪は白髪が見え東洋人にしては堀の深い顔にはしわが増えていた。
 松岡はまだ40代のはずだが俺には老人に見える。
「Jr.、君は引き受けたんだろ。だからここに来た筈だ。さぁ、任務を果たせ」
 その老人が強い口調で言った。威厳ある教官のようにも、怯える麻薬患者のようにも聞こえた。
 松岡を殺す。
 確かに俺は仕事としてそれを引き受けた。
 2年前、俺は家を出た。
 母の死が契機だったと思う。
 父のようになりたくなかった。
 違法に人を傷つけ、周りに害をなし、それで生計を立てる。
 最低の人間になりたくなかった。
 そう言い訳をして俺は親父から逃げ出した。
 だが今の俺は何をしている。
 親父と同じじゃないか。金をもらって人を殺している。
 偉そうになりたくないといった人間に俺はたった2年で成り下がった。
 そんな俺が松岡を殺していいのか。
 体が震えてきた。
 ガタガタとはたから見てもわかるほど体が震えた。
 いつものことだ。金ずくで人を殺そうとすると必ず体が震える。怖くて仕方なくなる。収める方法はあるにはあるのだが。
 松岡は震えながら優しく笑った。
「それはまだ直っていないんだな」
 返事すら出来ないほど俺は震えていた。ガチガチと歯が音を立てた。
「恥じる事は無い。それは君が人間である証だ」
 松岡は嬉しそうだった。
「ケニーとは違う」
 偉大なるBIG-Kか。風見健、Jr.、俺は名前まで親父に引きずられている。
「俺は…… 親父と絶縁すると…… 言いながら…… 親父の手先として……」
 震えてうまくしゃべれない。
「あんたを…… 殺しに来た。親父と…… あんたに…… 教わった…… 技をつかって……」
「見事な物だった」
 頷きながら言ってくれた。教官としての賞賛だ。
「俺は…… 親父の…… 手の平に…… いる。親父の…… 呪縛から…… のがれ…… られない。親父には…… およば…… ない。そう、言いたいのか」
 教官は悲しげに首を振った。
「そうじゃない、Jr.そうじゃない」
 松岡は立ち上がった。
「君がたとえ親父さんと同じ行動をしようとも同じ過ちを犯そうとも君が判断してやったことなら、それは親父さんに縛られているということじゃないんだ。君は確かにまだ一人前の人間じゃないかもしれない。人の助けを、クナイトや親父さんの助けを借りなければならない事もあるかもしれない。が、それも君が親父さんの手の中にいるということじゃない」
 松岡は何かを堪えるように天を仰ぎ大きく息を吸った。
「君はBIG-Kに逆らった。誰もが恐れ反抗できない人間に逆らって家を出た。独り立ちした人間なんだよ。自信を持ちたまえ」
 松岡はまた一息ついてから引きつった笑いを見せた。
「君は私の自慢の弟子なんだよ」
 松岡は震える指で俺の左脇を指差した。
「持ってきてるんだろ? ルガーP08」
 ルガーP08。ドイツが1世紀以上前に制式採用した軍用拳銃だ。上部が尺取虫のように動くトグルアクションという特殊な構造を持っている。曲線を主体とするグリップ部と複雑な直線的メカニックを持つ上部の組み合わせ。機能美に満ちたそのスマートな概観は計算しつくされた美すら感じる。
 親父がくれた最初のおもちゃ。
 俺が人を殺した最初の道具だ。そして俺の安心毛布である。
 そいつは今俺の懐にしまってある。
 手が震えてグロックを持っていられなくなってきた。俺は振りほどくようにベッドにグロックを投げた。
 すると松岡の表情が変わった。
「禁断…… 症状だ…… Jr.早くしてくれ」
 松岡は苦しげに言った。
「せめて…… 人として…… 死なせてくれ」
 松岡の顔面は真っ青だった。禁断症状のためなのだろうか。
それとも恐怖…… なのか。
 俺は震える右手を無理やり懐に突っ込んだ。
 鋼鉄の冷たさと細かいダイヤ模様に刻まれた木製グリップの感触が手の平に伝わる。何とか握り締め引き出す。
 細身の銃身を持つ世界一美しい自動拳銃ルガーP08。
 上部の丸いトグルに左手の指をかけ力任せに引き上げる。尺取虫状に上部は折れ曲がる。中に薬室と世界で最も流通している弾丸9mmパラベラムが見えた。
 指を離すとシャキンと滑らかな動きでトグルは元の位置に戻り9mmパラベラムを薬室に送り込んだ。
 俺の震えはぴたりと止まった。
 ルガーに弾丸を装てんする事で俺の安心毛布は完成する。
 恐怖は全て消え失せ俺はただの殺し屋になっていた。
「言い残す事はあるか」
 厳しい教官だった松岡。
「娘は君と会って楽しそうだったか?」
 しかし訓練を成功させると顔をほころばせ常に褒めてくれた。
「再会してから笑った顔は見ていないが」
 俺を過小評価する者がいればいつも批判しかえしてくれた。
「君と引き離したあと、あの子は母も失い見知らぬ学校に押し込まれ孤独だったはずだ。虚勢を張って生きるしかなかったのだろう。遠くから見ていた事もあったがいつも辛そうだった」
 たとえ親父が相手でも盾になってくれた。
「その状況から助けてくれる者…… それはもう君しかいなかったのだろう。あの子は時々君の店の側に来て店を見つめていたよ…… だから親として最後に君に助けてくれと頼んだ…… 娘の願いを一つ位叶えてやりたかった」
 いつも人の事ばかり考えて自分は損をする…… そんな男だった。
 俺が松岡にかける最後の言葉は…… 考えたがこんな物しか思いつかなかった。
「あんたには感謝している」
 松岡はまた笑った。瞳に涙が見えた。
「よせ、私は立派な人間じゃない。私はただの悪党だ」
 松岡は俺の目を見て頷いた。
 俺はルガーを構えた。
 引き金を引く。
 その瞬間、松岡は変貌した。