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ろーたす・るとす
ろーたす・るとす
novelistID. 52985
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便利屋BIG-GUN2 ピース学園

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 突如邪悪な表情になり俺の視界から消えた。左下へ飛んだ。感覚で解る。そちらに銃口を向ける。
 ドンっと左胸に振動がきた。
 飛びながら松岡は銃を抜き打ちしていた。
 松岡の銃はS&W M13。3インチのブルバレルリボルバー。
強力な357マグナム銃だ。
 松岡の勝ち誇った醜悪な笑み。
 だがそれもすぐ凍りついた。
 俺の放ったルガーの弾丸で。
 トグルジョイントが作動し空薬きょうを勢いよく上に跳ね上げる。左胸に赤い点を作りながら松岡は何故…… と呻いた。
「あんたが357マグナム使いなのは知っている。防弾チョッキを少し増量してきた」
 BIG-GUN活動服とその下に着込んだケプラーのシャツで弾丸は辛うじて止まっていた。
 胸に痛みは走っていたが。
 松岡は仰向けにごろりと転がり、またさっきまでの優しい笑みに戻った。
「合格だ…… 完全に卒業だよ、Jr.」
「Jr.はやめろよ」
「私にとっては風見健は一人だけ…… 君はいつまでもJr.だよ…… 瀬里奈を…… 頼む」
 勝手な事を……
 松岡は止めを促すように頭をトントンと指差した。
 ああ、わかっているさ。
 ルガーの引き金は、思ったより重くも無かった。

「Jr.後は好きに生きればいいのさ」

 2週間後、ピース学園球技大会は開催された。
 思ったより大げさに開催された。
「麻薬による汚職、誤認逮捕、放火殺人など数々の苦難に屈せず、ここ私立ピース学園は本日大球技大会を開催し内外にその活力を示します!」
 FMシー、アナウンサー三ツ沢さんが中継にやってきていた。
 どうせならニュースで流してもらって派手にやろうと思い三郎を通じて取材に来てもらったのだが、やけに乗り気で今日一日張り付いて逐一経過を放送するらしい。
 高校の球技大会の内容何ざ誰が知りたがるんだろう。
 大体麻薬の拡販にFMシーも利用されていたし社員も噛んでいたはずだが、その事はスルーらしい。
 生徒が警察内部で口封じされ一人死亡、放火殺人で4人死亡。あまつさえ教師が共犯者として逮捕。普通なら休校だが、そこを乗り越え学校生活を復活させる。マスコミも世間も好みそうなネタという事か。ま、好きにやってよ。
「ただいまから球技大会「白井祭」を開催します!」
 生徒会長が高らかに宣言した。
 そもそもこの大会は死んだ白井健吾が発案したそうだ。その慰霊と敬意をこめて「白井祭」と名づけたそうだ。
 嘘でー。
 あまりにも白々しい嘘だが庶民好みではある。あっさり受け入れられて採用されてしまった。そういえばここはキリストのお膝元だった。先生方もこういう話はお好きなんでしょう。
 開会式のあと試合開始まで少し時間があったので俺は主賓としてお見えの名誉理事に挨拶に行った。
「こんにちは、鍵さん」
 学校関係者テントの一番前に背が高くがっちりとした体格の初老の人が座っていた。その傍らには黒い背広の青年が控えている。
 鍵さんは振り返ると立ち上がって俺に握手してくれた。東洋人にしては堀が深くハンサムだ。ややいかつい顔つきだが今はこの上なく優しい笑顔を湛えている。
「やぁ学校生活楽しんでいるようだね」
「残念ながら今日で終わりですが」
 1学期終了まで居座れるのだがいる理由がもう無い。その事はクラスの皆にも打ち明けてある。
 鍵さんはこの街に多くの土地と企業を持つ経済界の顔だ。市長以上の権限を持っているといえるだろう。ふとした縁で知り合いそれ以来何かと世話になっている。
 鍵さんは「まぁこっちへ」とテントから離れた。横にいたボディーガード黒沢さんも従う。
「今回もお世話になりました。俺の入学、口聞いてくれたんでしょ」
 鍵さんは「いやなに」と笑ってくれた。
「クナイト君とも以前からの付き合いだし気にしなくていい。こちらとしても礼を言っておくよ。私の学校から悪党を排除してくれたんだからね」
 今度は俺が「いえ」と言う方だった。
「4人も死なせちゃいました」
 その事に触れた途端、鍵さんの顔が険しくなった。凄みのある怒りの表情。どんなやくざでも尻込みしそうだ。
「君の責任では無いさ。だが奴らには責任を取らせる。私の子供たちに手を出しおって。私の目の黒いうちは奴らにこの街で商売はさせん」
 頼もしい言葉だ。この人が本気になればヤクザとておいそれと街に出入りは出来ないだろう。
 鍵さんの顔がふっと笑顔に戻った。
「ところで、どうだね学園生活は。もててるそうじゃないか」
 さすが情報網は凄い。
「ぼちぼちです」
 とごまかす。
「君がもたもたしているなら私が誘うぞ。最近社交ダンスにはまっていてね。彼女なら踊れるだろう」
 その彼女ってどれの事だろう。金髪のお嬢様だろうな、やっぱり。
 そこへバスケチームがやってきた。そろそろ時間か。
 俺は挨拶し失礼した。
体育館に向かう途中、駐車場で帰り支度の警察署長に会った。
警察は今日は悪者だ。何しろ白井を犯罪者扱いにしムザムザ殺している。普通なら恥ずかしくて顔なんか出せないが、この人は別のようだ。
開会式で鍵さんのあとに登場し深々と頭を下げ詫びた。
その上で関係者の逮捕を報告し麻薬の撲滅を誓ってくれた。
「よお、そうしていると普通の高校生みたいだな」
 エバンス署長、シェリフはダンディに笑った。
 失礼な。俺は普通に高校生だ、今は。
「ヤクザ間の派手な抗争があったが連中はこの街から手を引くようだ。まぁ安心してバスケに精出せ」
 あの日、俺が襲撃した別荘以外の場所でも派手などんぱちがあり大量の死者が出た。兄貴の仕業だ。その他にも補導された高校生たちの証言で小物たちも逮捕が相次ぎ事態は収束に向かっている。
 警察、経済、裏社会全て敵にまわしたニチバはもう駄目だろう。少なくともこの街では。
「お前のクラスメイトはそろそろ退院だ。初犯だし多分保護観察処分って事で済むだろう」
「細かい事までよく知ってるな。忙しいのに」
 その問いに、この街一番のヒーローは顔をしかめた。
「新しい秘書があれこれ情報を持って来るんだ。あいつ仕事しているのかな」
 新しい巨乳な秘書に振り回されているシェリフに思わず苦笑した。
 俺は手を振り別れを告げると体育館に入った。
 入ったとたんに甲高い声が俺を迎えた。
「新聞部です! 風見先輩、調子どうですか!」
森野記者だ。お下げを弾ませて走ってきた。立ち直りが早い奴だ。やけに元気だな。
「まぁ馬体重は重めですがローテーションはこの試合一本に絞ってきましたし、勝ち負けのレースでは自信があります」
「競馬じゃないですよ?」
 む、よく突っ込んだ。なかなかやるな。
「お前は完全復活なのか? ハイテンションだな」
 森野は照れたように笑った。
「わかりますぅ? 実はまた気になる男性がいて」
 女ってのはこれだ。
「今度はどんな奴だ。タレントかスポーツ選手か」
 そういえば俺も今はスポーツ選手だな。
「近いです。ラジオで恋愛相談してる人なんですけど」
「…… まさか北下三郎?」
 森野の顔がぱっと輝いた。
「知ってるんですか?! かっこいいですよねぇ、言いにくい事をズバッと言っちゃって。しかも真実を捉えているから心に響くんですよ」