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ろーたす・るとす
ろーたす・るとす
novelistID. 52985
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便利屋BIG-GUN2 ピース学園

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 味をごまかすべく大量のからしを皿のふちに持ってから俺は大根を口にした。
「?!」
「おいしいじゃない」
 ジュンが嬉しそうに言った。
 マスターは上機嫌で「ありがとう」といってジュンに奢りとコーラを出した。おい、俺のも奢りなんだろうな。
 しかし確かにおいしくなっている。以前は俺が家庭でめんつゆ使って作ったやつの方が遥かにうまかったのだが。
「ぬう、腕を上げたなマスター。これはコンビニに匹敵する」
 俺は冗談で言ったのだが、途端マスターの肩がビクンと振るえ顔が強張った。おい…… あんたまさか。
「ますたー…… これコンビニの……」
「風見君!」
 マスターは突然シリアスな声になった。両手をカウンターにつき俯いて語りだした。
「俺達はオリンピックの栄光の陰で島を追いやられ街のはずれで開業した……」
 いやあんたじゃなく先代だろ。
「だから、泥の中から這い上がる根性だけは誰にも負けないつもりだ! な?」
 いや…… 何が言いたいんだかさっぱりです。俺はこれ以上突っ込んでも得策ではない事を悟りとっととおでんを平らげると席を立った。
「さて、山さんいる?」
「ああ、奥へどうぞ」
 俺は用事があるからお前一人で食ってろとジュンに告げた。やつは「うんいいよ」と何も突っ込まず食事を続けた。
 これとこれとこれも頂戴とマスターに注文しながら。
 よく食うな女子中学生。
 絶対に俺に奢らせるつもりだな、こいつ。
 ため息をつきつつ俺は奥の扉をくぐった。
 
 奥の扉の向こうにはトイレのドアがある。その横の一見壁にしか見えない所を右へ押すと隠し扉になっていて地下室に向かう階段がある。勿論普段は鍵が掛かっていて何も知らない客が開けてしまう事は無い。
 階段を下りていくともう一つ扉があり、ノックしてあけてもらうと6畳ほどの地下室があった。コンクリート打ちっぱなしの壁。乱雑に置かれた木箱。奥にちょっとしたカウンター。
 ここが闇の武器屋オーディーンだ。
 この街では拳銃もライセンスを持っていれば誰でも買える。ライセンスは16歳以上で精神疾患がなく前科(少年の場合正確には前科じゃないんだろうけど)が無ければ簡単に発行される。逆に言えば前科者やライセンスを習得できない者は銃を所持できない。マシンガンなど強力な武器もA級ライセンスが必要になり税金の納入や試験を通らなければならない。
 つまり面倒なのだ。
 そういう人間に武器を垂れ流す裏の武器屋。
 それがオーディーンだ。
「安いスナブノーズ(短銃身)のリボルバーと小型のサブマシンガン5丁だったね」
 この店のオーナー山さんは入るなり口にした。しわだらけの顔にスキンヘッドでちょっと年齢不肖な感じの白人だ。赤いベレー帽にポケット付のベストを着ているので武器商人というよりカメラマンに見える。
「そんな物持ってるんじゃないの?」
 山さんは笑顔を見せた。俺は、というかBIG-GUNはお得意さんだ。
「あるよ、だけど俺達が使うんじゃないんだ。暴発しなけりゃいいから適当に見繕ってくれ」
 彼はふふっと笑って在庫表を開いた。紙の在庫表か。古風な。
「素人さんが使うのかい?」
「ノーコメントだな」
 山さんはわらった。
「失礼失礼。何も聞かないのがルールだわな」
 俺はにやりと笑った。
「それがお互いのためだろ」
 山さんは2回頷いて指を立てて提案した。
「安くて性能にこだわらないならこれはどうかな」
 山さんはカウンターに置かれていた箱を開けた。
 中に古ぼけたリボルバーS&W M36とミニウージーが入っていた。
 M36は通称チーフスペシャル。リボルバーの王者S&Wで最も小さいJフレームを使用する小型リボルバーだ。弾丸は一般的な38スペシャルを使用するがコンパクト性を高めるため装弾数を通常のリボルバーより1発減らし5連発になっている。銃身は2インチ、グリップは丸いラウンドタイプ。携帯性優先の優れた護身用拳銃だ。
 ミニウージーは名高いイスラエル製傑作サブマシンガンウージーの小型タイプだ。古風で美しいデザインのウージーを小型軽量化したもので使いやすく信頼性も高い。
 品物としては申し分ないが、こいつはいささかボロッちくないか? しかも1丁ずつしか入ってないし。
「5丁だよ?」
「これの同等品が10丁ずつくらいある。まとめて10万でどうかな」
 安すぎる。
「それってつまり」
「うんジャンク品だ」
 動作保障なし。動かなくても知らんよ、という商品ということだ。
「さすがに動かないと困るよ」
「だから10丁なんだよ。使えるパーツ組み合わせれば5丁くらいは出来るよ。お宅のメカマンなら難しくないだろう」
 ふむ…… たしかに。ジムなら仮にパーツが足りなくても削りだして作るかもしれん。
 念のため手にとって確認する。冷たい鉄の手触り、油と火薬の香り。おでんより馴染みがある。
「銃身が割れて爆発なんて事は無いね?」
「それは大丈夫だ。私もお得意なくしたくないからね」
 ふーむ。
「よし、信頼しよう。買った」
俺はポンと現金をカウンターに置いた。
山さんは素早く数えると部屋の隅を指差した。木箱がある。
「品物はそこにあるが今持っていくかね? 明日届けてもいいが」
「持っていくよ。明日には使うんだ。だけど重いな」
 チーフ10丁で約10キロ、ウージーで30キロくらいはあるかな。
「マスターに運ばせるよ。暇だっただろ?」
「ああ、客は連れの女の子だけだったよ」
 すると山さんの顔色が変わった。
「なんだって? あいつと女の子を二人きりにしてきたのか?!」
 いやいくらマスターでも俺の連れに悪さは……
「人を信用しすぎるな」
 山さんは真剣な顔で言った。これは…… まずいかもしれん。
 俺は部屋を飛び出した。
 泣いていた。くすんくすんと忍びなく声。
 遅かったか! すまん、俺が迂闊だった。
「まあ泣くな、マスター」
 俺はむせび泣くマスターの肩に手を置いた。ジュンは何事かとおろおろしていた。
「この子見てたら…… 娘を思い出しちまって……」
 マスターは声を詰まらせていた。俺は極力優しい声をかけた。
「そうか…… 辛い思いさせたな……」
 マスターは泣きながら首を振った。
「いいんだ。だがせめて今夜一晩、娘と思ってこの娘と話をさせてくれ……」
 タオルで顔を覆いながら懇願する。答えは勿論。
「だめだ、もう帰る。地下の荷物運ぶの手伝え」
「ひどい…… 風見君」
 うう、と崩れるマスター。
「ケンちゃん……」
 ジュンが心配そうに口を開いた。
「そういうことなら話し相手くらいなってもいいけど?」
 意外とお人よしなんだな。その半分くらい俺にも優しくしてくれ。
 俺は声のトーンを元に戻して話した。
「ヒント。お前アングロサクソン、こいつ東洋人。この髭面、女が近寄るはずが無い。つまり独身」
 ジュンはまだキョトンとしている。
 俺はまだ泣いているマスターに言った。
「さ、騙された振りしてやってるうちに荷物運ぼうな…… お互いのために……」
「うん」
 マスターは立ち上がって地下へ消えて行った。
 このロリコン親父め。何が話し相手だ。おまえにゃ危なくてメス猫も預けられねーよ。