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ろーたす・るとす
ろーたす・るとす
novelistID. 52985
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便利屋BIG-GUN2 ピース学園

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 俺はからかうように言ったのだが瀬里奈は笑いもしなかった。
 マンスリーのワンルームマンションだ。家具なんかほとんどない。ベッドとパソコンデスクがあるだけだ。
 パソコンデスクには俺が座っているから瀬里奈はさっきから立ちっぱなし。ベッドに腰掛けるよう薦めたら赤い顔して睨みやがった。ガード固すぎだぞお前。
瀬里奈はしばらく黙っていたが静かに口を開いた。
「本当にあいつらを使ってヤクザと戦う気?」
 俺は外を見て全員がマンションから出たのを確認してから答えた。
「まさか」
 しれっと答えた。
「連中をだますの?」
 瀬里奈は俺の真意を覗き込むように睨んできた。
「そのつもりだ。正直いても足手まといだ」
 瀬里奈は少し怒ったような顔をしたがため息をついた。
「なら安心した」
 まったく、このお嬢さんは……
「お前が全部背負い込むな。あいつらは自分で判断したんだ。お前に引っ張られてきたわけじゃない。何かあってもお前のせいじゃない」
 瀬里奈は少しうつむいた。
「だけど私がいなかったらあいつらこんな危険なことには首を突っ込まなかった」
「お前がいなかったらじゃない。クズが麻薬なんざ売りに来なければ、だ」
 瀬里奈は沈黙した。
 不良グループのリーダーなんてこいつには合いもしない立ち位置なんだ。
「お前がこの10年間どう生きてきたかは知らない。だが今のお前はものすごく無理して生きているように見える。あいつらもそれは感じているようだ。アスカってのはともかく、お前には一歩置いてくれているようだな」
 瀬里奈は答えない。俺は無視して続けた。
「親父さんはこんな仕事。お母さんも去年亡くなったそうだな」
「調べたのか」
 ため息交じりだった。
「まあな」
 本当は携帯番号も知ってたんだけど、本人から聞いたほうが感じよかったんでな。
「親父さんへの反発、不安。居場所はあいつらの所しかなくなった…… そんなところかな」
 瀬里奈は目を上げた。
「なにがわかる。何でもわかった気になるな」
「わからないさ、他人の気持ちなんかな。興味もない。ただ俺がこの10年そうだったからな。なんとなくお前もそうだったんじゃないかと、な」
 無言。それが返答か。
 俺もこいつに一つ確認しなきゃならん事があった。
 質問し回答を得た。予想通りの答えだった。
 残念ながら。
 会話が途切れると瀬里奈は90度ターンした。
「帰る」
 そうしてくれ。どうもお前と二人きりだと緊張しちまう。
 ドアをくぐろうとするとき俺は用事を思い出した。
「米沢さん、大事な友達か?」
 しばし考えた後背中を向けたまま「ああ」と言った。
「昨日喧嘩になったようだな。明日学校で仲直りしとけ。必ずだ」
 瀬里奈は一瞬だけ間を空けた。その背中がやけにか細く見える。
「何でそんな気を使う」
「さあね。ただのおせっかいさ」
 瀬里奈は返事をせず出て行った。
 俺は窓からあいつらと合流し帰っていく黒髪を眺めながら思う。
 瀬里奈、勘違いするな。俺はヒーローなんかじゃないぜ。
 ただの悪党だ。

 夜。さて、夜食でも食いに行くか。
 瀬里奈一味が引っ込んでくれなかったせいで余計な仕事が増えた。経費も掛かる。松岡に会ったらきっちり請求しよう。
 電話が鳴った。またジュンか。
「ねーねー、おなかすいた」
 お前、どっかで俺をストーキングしてるのか? ラーメン屋のおばちゃんだけで十分なんだよ。
「おでん屋に行くところだから連れて行ってやっても構わんが」
「おでん?! この暑いのに?」
 ごもっともな反応だ。しかし。
「この街では夏に路上でおでん食う習慣があるんだよ」
 ジュンは疑ったがこれは本当だ。
 隣町の島で露天やら店でおでんを売っていた。しかしオリンピックが来た際ヨットハーバーを新設することになり立ち退きを食らった。店主たちはバラバラに店を作らず一箇所にまとめて新規開業した。
 これが通称「おでんコーナー」。海のすぐ横におでん屋が4件並ぶ、この街の名所のひとつだ。
 夏の夜の潮風を受けながら店の外に置かれたテーブルで、あるいは地べたで食うおでんは中々乙なものだ。しかしまぁ場所が場所なだけに素行不良な奴らが集まってバカ騒ぎやっちまったりするのが問題になったこともある。
 そんなところに夜、女子中学生を連れて行っちゃいかん気もするが店内なら店主が俺の連れに悪さはさせないだろう。
「うーん。まぁそこでもいいか」
 あからさまに仕方ないなーという声だった。
「嫌なら来なくていいんだぞ!」
「学校の前のコンビニにいるからすぐ来てね」
プツン。
ろくに会話にもならず一方的に切りやがった。
寮生が夜に出歩いていいんだろうか。ま、俺の知った事じゃない。
俺は活動服に着替えてプジョーに乗り込んだ。

コンビニでジュンを拾い海沿いのパーキングにプジョーを停め「おでんコーナー」に到着した。
海沿いの大通りから北へ少し入るこれまた大通りに4軒の住居兼店舗が並んでいる。板張りに模した正面は南国雰囲気をかもし出している。店舗前の広い歩道に置かれたパラソル付のテーブルには数人の男女がおでんをつつきながら談笑…… というか大騒ぎしている。いつものとおりだ。今日はすいているほうだろうか。
そのバカ騒ぎを目にしながらもジュンはニコニコと笑ってついてきた。度胸あるなぁ。
他の店より一際すいている左から2番目の店「オーディーン」が目当ての店だ。ちゃんと予約もしてある。
 俺はオーディーンのドアをくぐった。ジュンがくぐるまでドアを抑えていた俺は紳士。
「いちいち恩着せないでよ」
「お前おでん奢ったって恩なんかきやしないだろ」
 腹立つことにジュンは「当然」と笑ってカウンターに座った。店内は狭い。客は我々だけだ。別に貸切にしたわけでは無いんだが。
 店内も南国情緒全開でやしの木っぽい装飾がなされ、やりすぎでうっとおしい感じ。カウンターの向こうにはおでん鍋が香りと湯気を漂わせている。その向こうにやはり南国かぶれチックなアロハ姿の髭面マスターが微笑んでいた。
「やあ、風見君いらっしゃい。噂どおりの美人な彼女だね」
 いやいやこいつはそういうんじゃなく…… と言おうとしたらマスターは一言付け加えた。
「でも黒髪って聞いてたけど」
 事態が事態であれば射殺ものの発言である。連れがジュンだったからいいものの。命拾いしたなマスター。
「あー、昨日のおねーさんのことか」
 ジュンはあっけらかんと言った。まるで気にしていないようだ。それはそれで傷つくな。
「余計な口はきかんで、おでん」
「あい、何にする?」
 俺はお任せ5点とコーラを注文。ジュンはたまごと餅入りと蛸と大根を「とりあえず」注文した。練り物を頼まんとはこいつ何者。
「食う前におでんコーナーの名誉のために言っておくが」
 俺は大事な事を言い忘れていた。
「この店は4軒の中で一番まずい」
 聞いてジュンは少しこけた。マスターはジュンにおでんを出しながら「はは」と笑った。
「反論できないなぁ」
 しろよ! まぁ真実だからすいているのだ。クチコミって凄い。
「でも少しはうまくなったよ、食べてみて」
 マスターは俺にもおでんを出した。