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ろーたす・るとす
ろーたす・るとす
novelistID. 52985
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便利屋BIG-GUN 1 ルガーP08

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 歴史は結構古い。戦争や災害などで精神に忘れがたい負荷を追ってしまった人達、いわゆるPTSDだな、またはそこまでいかなくても対人恐怖症や引っ込み思案を治すためスキンシップや暗示で人格を改善する。れっきとした医学的治療法であり効果は確かにある。救われた人も少なくないだろう。セミナーというのは医師と患者の1対1ではなく大勢の受講者に同時に治療を体験してもらうものだ。
「でもなんか今の人、変だったよ。改善というのはちょっと」
「詳しくは知らないが、人に話しかけるのが苦手という場合邪魔になるのは人と対等に話せないという「不安」と恥ずかしいという感情「恥」と他人への過剰な気遣い「遠慮」だな。治療法では暗示で「自信」をつけさせ「恥」と「遠慮」を取り除くんだ。ま、そうすれば見ず知らずの人とも話せるようにはなる」
「でも遠慮も恥も知らないから今みたいにちょっと失礼な人になっちゃうんだ?」
 あいかわらず飲み込みのいい奴だ。根本的に頭はいいのだろう。
「治療の過程ではある程度仕方ないだろう。でも実際に人と会話していけば一般の人がそうだったように徐々に「社会性」が身についていくんだろう。リハビリみたいなもんか」
「ふーん」
 ジュンは少し考えてから俺の予想を超えた結論を出した。
「じゃあさ、私たちあの人の治療に貢献したんだね」
 初めて見る天使の笑顔だった。普通の人間ならこんな考えはしないだろう。純粋培養なお嬢様ゆえか。そんな反応を見てしまったから俺は話の続きを止めてしまった。
 人格改善セミナーには闇の面もある。
 治療は確かに効果はあるし人を救っている。しかしどんなものも悪用できるのだ。
 あいつはなぜどう見ても治療の必要なんかなさそうなジュンに声をかけ俺までしつこく誘ったのか。やつは恐らくセミナーの上の連中にこう言われているんだ。
「君は大分治療が進んだね、もう一息だ。では卒業に相応しい人物になった事を証明するため仲間を連れてきなさい。君が体験したこのセミナーの素晴らしさを他の人にも体験してもらうんだ。他人を幸せにすることで君はひとつ上の人間になれるんだよ」
 まあようするに…… ねずみ講だ。
 セミナーは有料だ。最初は無料体験だろうが本入会ともなればそれなりの金がかかる。
 受講者にどんどん新規会員を連れてきてもらえればセミナー主催者は儲かる。そういう商売もあるのだ。なにしろ受講者は暗示にかかっている。洗脳されていると言ってもいい。セミナーへの絶対的な忠誠心を植えつけられているだろう。主催者からみてこんな都合のいい労働力はないだろう。苦しむ人を救う手段まで商売にする悪がこの世には存在するのだ。
 何もジュンがそんな闇まで見る必要はないだろう。
俺としては早急に法律でこの治療法は医師以外使えないようにしてなんらかの規制をするべきと思っている。が、政治家が動き出すのは自分に火の粉が降りかかってからなんだろうね。
「ま、めんどくさいから今後はあんまり余計な奴と話すなよ?お前逃亡者なんだぞ」
「あはは、そうだね」
わかっているんだかどうか疑問の残る返事を聞いて俺は警察署のドアをくぐった。

この街の警察署は俺よりずっと年上でドアは自動ではない。それどころか耐震基準すら絶対にクリアしていないだろう。地震が来なくたって崩れそうなボロさだ。余談だがこの街ときたら市役所と消防署も似たような状態であり大震災が来た場合フル稼働しなくてはならないこの3機関が全て機能停止する可能性がある。いや高い。だからこれらを建て直そう、いや耐震補強で十分だというのが来月行われる市長選挙の争点だ。
ま、そんないつ発生するかわからない問題より切迫した問題がこの署にはある。
いま俺の5m前方にいる人物がそれだ。
受付のカウンターにいる20代の女性。彼女は俺達に気づくと笑顔を見せ、ついで「おおっ」とあからさまに驚いた。
「女連れだっ! 重要参考人が女連れで来た!」
 勢いよく立ち上がったもんで大きなバストが大きく揺れた。
 毎年夏に向かうこの時期、性犯罪は増加する。全国的に有名な海水浴場を有する我が街はナンパのメッカでもあり、この傾向は顕著だ。
 性犯罪が憎むべき犯罪であり撲滅しなければならないものであるという認識は俺も警察も同じ考えであることは確かだ。にもかかわらずだ。この警察署を訪れるほぼ全ての来訪者が目にし多くの人が話しかける受付のおねーさんが誰彼かまわずGカップのおっぱいぶるんぶるんしてていいのか。犯罪抑止どころか増加に拍車をかける…… いや、推奨してるも同然ではないか?などと俺は常に危惧している。
 が、俺はおっぱいぶるんぶるんは嫌いではない。したがって署長に配置転換を薦めた事は一度もない。する気もない。
 それはともかく。
「誰が重要参考人だ」
 カウンターに歩み寄り抗議する。
「真昼間に駅前で銃撃戦やらかして二人も撃ち殺したんでしょー。殺人犯って言われないだけ感謝してよ」
 巨乳な受付嬢アリスは時代遅れなでっかい丸めがねを直しながら席に着いた。時々メガネがすりガラスに見えるときがあるのは何故だろう。このおねーさんが昭和っぽいからだろうか。
 アリスは田舎警察とはいえ受付嬢を任されるくらいだから、それなりに容姿端麗である…… かなぁ。顔立ちそのものは整っていて色は白く鼻筋はとおり尖った顎や厚い口元は知性を感じる・・のだが。どうにも残念な印象を受けるのは先ほどのような言動と、とかしてるの?と聞きたくなるブラウンのもじゃもじゃの髪だ。背中まである豊かな髪はカオス理論の模型みたいに好き勝手な方向を向き、まるで別の生き物のようである。その髪を適当に後ろで束ねて年甲斐もないでっかいピンクのリボンで結んでいる。リボンが少女趣味でかわいすぎるのが却ってアンバランスで、突っ込みにくい居心地の悪さをかもし出している。
「町の平和を守るためと正当防衛だ」
「おおおおお」
 俺の言葉を無視してアリスはジュンに視線を移しまた立ち上がり体を乗り出して唸った。
どうして俺の周りの女共は俺の話聞かないんだろう。くすん。
 そんな俺の切ない胸のうちを全く解せずアリスはジュンの頭のてっぺんから靴の先(ベージュのショートブーツだ。ノースリーブ、ミニスカにブーツ?! 狙いすぎじゃねぇか?)まで鼻をつけんばかりに接近してじっくりと観察した。さすがのジュンも一歩引いた。アリスが男だったらボディガードとして止めなきゃいかんところだ。いや…… すぐ止めるべきか?!
「なんてこったぁぁぁぁ」
 アリスの台詞です、念のため。
「かわいいねぇぇぇぇ」
 つけんばかりではなく本当に鼻をこすりつけようとしているしか見えない受付嬢だった。
ジュンがもう一歩下がった。
「やめろ、スケベ親父」
 止めました。さすがに。
「どこで拉致って来たの風見君?!」
 しかし全く怯む事のないおねーさんである。
「拉致ってねぇ。無理矢理ついてきたんだ」
「そんな嘘で警察が納得すると思ってんの?! 日ごろのもてなさ具合考えなさいよ! この上誘拐と婦女暴行まで罪に加える気?! 今すぐ開放してあげなさい!あたしが拾うから」
 言いたい放題だな、この公僕。
「ケンちゃんって、そんなにもてないんですかぁ」