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ろーたす・るとす
ろーたす・るとす
novelistID. 52985
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便利屋BIG-GUN 1 ルガーP08

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 しかしやはりジュンはうんとは言わなかった。予想はしてたがね。家出してまでやってきた娘だ。人任せにするわけはない。
 仕方ないので出かける事にした。その前に。
「ピストルほしい」
 とジュンが言い出した。
「危ないなら護身用に持ってたほうがよくない?」
 それはどうかな。なまじ持ってると却って危険な気もする。が、どうしてもと騒ぎ出したので仕方なく武器庫へ案内した。
 商売柄、そして趣味の関係でここにはいっぱい鉄砲の類は置いてある。地下のガレージの横の物置にそれらはしまってある。頑丈な鍵を開けて中に入るとジュンは「おお」と声を上げた。
「すごい、ここ軍隊なの?」
 それは大げさだ。だが驚くくらいの数の銃があった。武器庫の広さは10畳ほど。その壁に埋め込み式の棚があり、用途別にライフルやマシンガンが並んでいる。部屋の中央には陳列棚があってここには拳銃がずらりだ。弾丸類は隣の部屋にまとめてある。
 俺は中央の棚からジュンでも扱えそうな小型拳銃を見繕おうと目を走らせた。見たところ手の平はかなり小さい。銃を扱いなれているということも無いだろう。
「拳銃撃ったことは?」
「学校の講習受けたわよ?」
 今日び小学校でも護身術の授業は年に一回くらいは行われている。拳銃の基本的な扱いくらいは学べる。しかしそれで身を守れるかといえば疑問だ。あれは護身術に興味を持たせる程度の効果しかないだろう。拳銃を護身用に持っている人は多くいるが実際にそれで身を守るのは難しいものだ。拳銃で身を守るということは大概相手も拳銃を持ってこちらを脅かしているということだ。そいつが撃つより早く銃を抜いて相手に撃ちこみ、そいつを行動不能にしなくては身を守れないのだ。
 拳銃というものは選ぶのも難しい。女の子の銃といえば小さい物がいいだろうと安易に考えがちだが実際には小さすぎると握りづらく反動も大きくなる。かといって反動が小さい弾丸では威力が小さくなり相手に十分なダメージを与えることが出来なくなる。
 まあ扱いやすさと大きさのバランスでいくとリボルバーならS&WのKフレーム38口径「M10」。オートなら俺が使っているベレッタM84か、こいつのシングル弾倉モデルM85あたりか。
ちらりとみるとジュンは真剣に何かを探しているようだった。
「何だ? 目当ての銃でもあるのか?」
「ん…… そうね」
 大きな目が珍しく俺から逸らされた。
「上が、尺取虫みたいになる銃知ってる?」
 素人ならともかく、銃の知識がある人間なら知らない奴はいないだろう。
「ルガーか? あれは駄目だよ。古い銃で安全に持ち歩けない。第一お前には扱えないよ、軍用の大型拳銃だぜ」
 するとジュンは大げさにかぶりを振った。長い髪がぶんぶんと振られた。
「違うの、ちょっと見たかっただけ」
「そうか? まぁ、コレクションで持ってることは持ってるけど」
 俺は壁のほうの棚に向かい扉を開けてアルミケースを取り出して奥の机においた。これはクラシックガンなので貴重なのだ。
 ケースを開けるとスポンジに埋まるように「ルガーP08」が収まっている。機能美に満ち溢れた美しいボディと尺取虫のような特殊な機構のおかげで今でもコレクターに人気があり程度のいいものは100万の値がつくこともある。俺のはフレームとレシーバーは本物だが内部の部品はほとんど後世に作られたレプリカなため、作動は良好だがコレクターアイテムとしてはあまり価値はない。
 俺は手に取るとマガジンを抜きトグルを一回引いて薬室内に弾丸が入っていないのを確認するとジュンに手渡した。ジュンはおずおずと受け取った。重さに少し驚いた顔をしてしばらく眺めてから「もういい」と突っ返してきた。表情は硬い。拳銃に接すると恐怖を感じる人間は多いが……
「なんだよ、自分で見たがったくせに」
 ジュンは黙って横を向いた。丸みを帯びた横顔はやはり歳より幼く見える。
「それでパパ殺されたらしいの」
「?」
「目撃者がちらっとだけど尺取虫みたいな銃だったって証言したらしいの」
「そうなのか……」
 悲しげな声だった。泣けばいいのに。誰も笑いはしない。
 それでも泣かないのが、こいつのプライドなのだろう。
 俺は話を切り上げることにした。
「やっぱり銃なんかいらないだろ。さっさと行こうぜ」

 殺人現場は南口西の商店街だ。商店街と言ってもアーケードがあるわけでもなくホコテンになるわけでもない田舎町である。全て2階建ての個人商店で構成された町並みは前時代を感じさせずにはいられない。ジュンは一度来ていると言っていたが、物珍しそうに辺りを眺めている。
「現場はこの辺だ」
 俺は立ち止まった。
「何もないわね」
 たしかに商店街の真ん中であり、目の前は自転車屋と饅頭屋だ。どう考えても拳銃会社とは関係ない。
「殺し屋はどこにいたの」
「もうちょっと先だ。あの辺から飛び出して反対側に駆け込んだらしい」
 俺の指差した方をエメラルドの瞳はじっと見つめたがやはり何の変哲もない商店が並ぶだけだ。
「よく知ってるわね」
 振り返って俺の顔を覗き込む。長い髪がふわりと地面をさした。
「ここは俺の街だぜ」
「警察のお友達も多いしね」
「まぁそんなところだ」
 ジュンはため息を一つついた。
「パパ何しにここに来たのかしら」
「わかってればこないさ」
 至極もっともな事を言ったのにジュンはムッとしてみせた。
「あとさ、言いにくいんだけど」
「なによ」
「ここが現場だからって、お父さんがここに用事あったとは限らないんじゃないか」
 ジュンは今気がついたように「あっ」と言った。
「どこかに行く途中で撃たれただけかも」
 ジュンはむーっと考えた。頭が回るのか回らないのかよくわからん奴だ。まぁお父さんが撃たれてるんだ。冷静さを欠いているのは仕方ないか。
「でもさ…… ここで待ち伏せされたって事はここを通る可能性が高かったってことでしょ?なら近くに目的地があったって考えるべきじゃない」
 まぁそう考える事もできるが…まさかそれをしらみつぶしに探すつもりじゃないだろうな。そんな事を考えていたとき俺の視界に会いたくない奴の姿が入った。ちっ、向こうも気がつきやがったようだ。近づいてくる。
「やぁ、また会いましたね」
 ジュンもはっと振り返り男の顔を確認すると、やや表情が曇った。
 昨日あった73ヘアーな勧誘男が現れた。
「何かお探しのようですね、我々の集会場をお探しですか?」
「なんでそうなるんだ」
「昨日用があったら来てくれると言っていたじゃないですか」
 自分に都合のいい発言は確実に覚えていて自分に都合のいいように現状を解釈する。こういう輩の共通点だ。
「セミナーとやらの集会場はこの近くにあるのか?」
「ええ、すぐそこです。どうぞ歓迎します」
「なら、離れよう。じゃあな」
 驚いたことに73男はまた食い下がってついてきた。こういうのはストーカーとして撃ち殺したらいかんのだろうか。少なくとも俺の倫理には全く反しないのだが。
「今日も警察に行くのだがついて来るのか」
 警察と言われるとさすがに奴は退散した。警察署は例の開かずの踏切を越えていけば割と近い。
「ねぇ本当に行くの?」