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ろーたす・るとす
ろーたす・るとす
novelistID. 52985
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便利屋BIG-GUN 1 ルガーP08

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「すまないが、すぐにまた出かけなきゃならないんだ。1時間ほどで戻るけどね。ちょっとジムの手も借りたいんだ」
「俺も?」
「ああ、たいしたことじゃないが急ぐんだ。すぐに来てくれ」
 ジムは少し困惑したようだったがジュンにごめんねと告げるとキッチンを出た。
 三郎は「こいつ3人前は食うから」と俺を指差すとまたガレージに戻っていった。
 なんなんだ、こいつは。む、それとも俺とジュンが二人きりになれるように気を使ってくれたのか。いらん気を使いおって、ありがとう友よ。
 残されたジュンはじとっと俺を見た。こいつ俺を見るときはいつもこんな目だな。
「二人になったからって妙な真似しないでよ?」
 するかっ。それは俺のポリシーに大きく反する。いや、だが、しかし。
「あほな事言ってないで、はよ飯にしてくれ。腹減った」
「ふむ…… そうね」
 ジュンは元の位置に戻ると仕上げにかかった。小さな体が大きな中華鍋をふるってぴょこぴょこと働く。
 うーむ、うまそ。
 ああいや、チャーハンがですよ。
 そして食卓に料理が並べられた。食べる人数が減ったので、本当に俺の皿には3人前近いチャーハンが乗せられていた。ふん、なんのこれしき。食べて見せようじゃないか。
 刻まれた具、米の炒め具合、横に置かれた中華スープ。見た目、香りとも完璧だった。料理までできるとはなんとハイスペックな娘よ。
 俺はいただきまーす、と礼儀正しく宣言するとスプーンで大盛にすくうと一気に口へかっ込んだ。
「!?」
 な、なにぃ。
「おいしい?」
 ジュンは笑顔だが、やや本気で感想を求めているような覗き込むような表情をした。
 いや、それがその。
 全身がチャーハンを拒否していた。食べてはいけないと全細胞が絶叫を上げ吐き出させようとした。俺は全力でこらえ…… むせてごまかした。
「なによう、下品ね」
 いや…… だって。
「がっついて食べるからよ」
 お母さんがやんちゃな息子をしかるように言い、ジュンは自らが製作したチャーハンを上品に口に運んだ。いや、待て。そしてジュンはしばし後こう言った。
「うん、おいしい」
 な、なんだと?!
 俺は再度チャーハンを口に運んだ。脂汗が出る。甘いというか辛いというかどっちでもないというか…… 経験した事のない味覚。ようするにこれは……
 まずい!
 おいしくない、食えん! な、なんだ、何が起きた。これは確かに奴が作り奴が盛った物だ。奴の皿に乗っているものも全く同じもの。味が違うはずはない。なのに何故やつはうまくて俺は食えないのだ。
 早安のコーヒーに始まってマリンブルーラーメン、そしてこのチャーハン。今日は食の厄日か。
 ジュンはそんな俺に気づかずにこやかに食事を続けていた。
 これが奴の捨て身の嫌がらせでないとすると原因は一つ。俺はまずいと感じるが奴はそう感じないという事だ。
 わかりやすくいうと味覚障害! それしかないだろう。なんて迷惑な奴だ!! 見たところやつはそれを自覚していないのだろう。
 ああっ!
 もうひとつ俺は気がついた。
 三郎の野郎、ジュンの料理見ていてこれに気づきやがったな!
 用事なんか嘘っぱちでとんずらしやがったんだ。なんてやつだ、ジムは助けて俺は生贄に置いてきやがった。とんでもねーやろうだ。絶交もん、ばーい!
「なんで食べないのよ」
 ジュンがにらんだ。えーと。
「いや…… 少し感慨深くてな……」
 俺は食事を再開した。今度こそちゃんと。
 なめるんじゃねぇ、俺は子供のころから苦痛に耐える訓練も受けている。なんのこれしき。へのつっぱりはいらんですよ。ウェップ。

 三郎達はそれから30分ほどで帰ってきた。何をしてきたのか問い詰めても「ちょっとな」しか言わなかった。予想通りの返事である。こいつとはそろそろ決着をつけねばなるまい。確実に勝てそうな事を探さなければ……
 全員がリビングに集まって着席するとジムが口を開いた。
「隠し事をしても仕方ない。実は君の事を調べた」
 ジュンは神妙な顔になった。つまり調べられて困る事があったのだ。
「君は親に撃たれる覚えはないと言ったが、今回の事件には何か心当たりがあるんじゃないかな」
 ジムの声は穏やかだ。どんな時でも女の子を怖がらせるような人間ではない。ジュンは少し考えた。口を割りそうな雰囲気だ。俺では割らなかったに違いない。
「言わなきゃ駄目かな」
「そうだね」
 ジムはジュンの気持ちも考えているようだった。彼もつらいに違いない。大体、問いただすのは俺の仕事であろう。しかし俺が切り出す前に代わってくれたのだ。大人である。
「親の追っ手から君を守るのと銃を撃ってくる奴から守るのでは、いくらボディーガードと言っても勝手が違いすぎる。こいつは言わなかっただろうけど銃撃戦をやったんだ。相手じゃなくこいつが死ぬ可能性もあった。隠し事をしている相手を命がけで守るというのは・・俺達には難しいよ」
 ジムの言葉はとても重いが声は優しかった。それがジュンを納得させたのだろう。ジュンは大きく息を吸ってから静かに語りだした。
「私のパパ、先週この街で殺されてるの。ここに来たのはその場所を見ておきたかったから」

 ジュンの父ロード・ローランド氏はコルトのデッド・コピーを製作する中規模拳銃会社の社長だった。コピーとはいえ出来はよく値段も安かったため景気はよかったようだ。
 先週仕事でこの町を訪れ銃撃され死亡した。犯人はまだ逮捕されていない。
 その犯行の手際のよさ、射撃技術から犯人はこの道のプロ。つまり「殺し屋」であると推測されている。このくらいのことはネットでも調べることは出来た。もちろん事件のこと自体は俺達も知っていた。狭い街だから。
「手がかりは犯人はコートを着て直前まで震えていたこと、凶器は古いドイツの銃だってことだけ」
 目撃情報はそれだけらしい。ちょっと探すのは難しいか。
「気持ちはわからないでもないけど、命を狙われてまでお父さんの最後の場所を見に行く必要はないんじゃないかな」
 ジムの意見はもっともだった。
「もう場所には行ったのよ。でも」
「何か手がかりでも見つかると?」
「そんなことじゃないわ、パパが最後に仕事に来た街がどんな所か知りたかったの」
 ジュンは少しため息をついた。
「なんで殺されなきゃいけなかったか…… 知りたかった」
 一瞬沈黙が流れた。
「今知るべきはお父さんが殺された理由じゃなく、君が何故狙われたかだろうな」
 はじめて三郎が口を開いた。
「お父さんは社会人でましてや拳銃会社の社長だ。恨まれたり狙われたりする理由はあっても不思議じゃない。だが君が狙われる理由はそんなにはないはずだ。普通に考えれば今回の事件に関係していると見ていいだろう」
 む…… 珍しく自主的にいい発言をした。ジュンも真剣なまなざしを向けている。俺も何かリーダー的にいいことを言わなければ。
「お父さんから何か聞いたことはないか」
「聞いた事って何よ」
 どうしてこいつは俺にだけつっけんどんな態度なのだろう。くすん。