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ろーたす・るとす
ろーたす・るとす
novelistID. 52985
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便利屋BIG-GUN 1 ルガーP08

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「ふーん。車は運転したいけどね」
 商店街を抜け住宅地に入ると低いが山が見えてくる。その手前の街道沿いにある3階建てのコンクリート打ちっぱなしのビルが「BIG-GUN」だ。 

 わが社は地下にガレージがある。いつもの場所にスパッと停める。ジムのエルカミーノ(前がセダン後ろがトラックみたいなアメ車だ)と会社所有のランドクルーザーはあったが三郎のV-MAX(こっちはでっかいバイクだ)は無い。出かけてるんだろう。
 車を降りるとジュンはもっともな感想を述べた。
「ちょっと立派なビルじゃない。これ全部あなたの会社なの?」
「便利屋BIG-GUNだ。自社ビルだぜ」
 仕事を始めてすぐ運よくお金持ちの依頼者に出会い譲ってもらった経緯がある。ま、それは今は関係ないことだ。
「ねぇあれは?」
 階段へ向かおうとするとジュンが入り口の脇に置いてあるドラム缶を指差した。実は俺も気がついていたんだが軽やかにスルーしていたのだ。が、気づかれちまったんでは仕方ない。
ドラム缶の横にでっかいゴミの塊があった。ま、正確にはそのように見える人間だが。
「何こそこそしてんだよ、ベン」
 俺は足早にゴミゴン君に近寄った。ジュンに近づかれないためだ。
「かか風見ちゃんが、おお女の子連れてるって聞いて…」
「わざわざ見に来たのか」
「そ、そう」
 つば広の帽子、薄いトレンチコート、TシャツにGパン姿。髪は伸び放題で顔を覆いどんな顔しているかすら見えない。そしてその全てが埃にまみれて独特の悪臭を放っている。
 一目見てルンペンさんだ。
「どなた?」
 ジュンが怪訝そうにこちらを見た。そりゃそうだ。どう見ても怪しい人物だ。
「うちの派遣社員…… というかバイトだ」
 本名不明、年齢不明、住所不定、無職。これがこの男の肩書きだ。何しろ俺達と同年代なのか、ずっと年上なのか、不細工なのか、意外といい男なのか、俺でも知らないほど完璧なルンペンスタイルなのだ。ベンというのはこの風貌からついたあだ名だ。名前がないと何かと不便なのでそう呼んでいる。
「そうなんだ、私ジュンよろしく」
 ジュンはいつもよりやわらかく笑い軽く会釈した。
「よよよ、よろしく」
 ベンは実にわかりやすく取り乱し、埃まみれでもはっきりわかるほど真っ赤になって後ずさりした。俺はそれに連動して片手でタックル気味にベンを抱え一気に地上に押し出した。
「かかかかわいいな、あの子」
「そうだな」
 俺は同意した。それにしてもあの女。人によって巧みに挨拶の仕方を切り替えやがる。しかもその全てが的を正確に射抜いている。狙ってやっているようには見えない。天性の感。天才とはこういう奴のことを言うのかも知れん。
「ベン、とりあえず外階段から3階に上がって風呂に入れ。んでロッカーに俺達の活動服があるからそれに着替えろ」
「ふふふ風呂は嫌いだな。それにここここの服も好きなんだな」
「もう暑いだろ、そんなコート。脱いじまえよ」
「ぬぬぬぬ脱いだら誰かに取られちゃうんだな」
「ここに置いとけば誰も取らねーよ。とにかく風呂に入れ」
 ベンは明らかに困惑していた。
「ななななんで風呂なんて言うんだ? もっとあの子と話したい」
「そのためだよ!いいか、女の子は不潔な男を嫌うもんなんだよ。風呂に入って綺麗になったら俺の仲間だってちゃんと紹介してやるから入ってこい」
 ベンは明らかに迷っていた。髪に隠れた瞳が濡れ始めているのが見て取れた。そんなに嫌なのか、風呂。
「かかかか考えさせてくれ!」
 親愛なるルンペンさんはきびすを返し走り去っていった。涙声だった。なんかすげー悪い事した感じ。変わってはいるが色々便利で目茶苦茶いい奴なんだが。しかしあの格好のまま女の子に紹介するわけには行くまい。これから夕飯なのにあいつ中に入れると臭いしなぁ。
 首を振りながらジュンの元に返ると奴は予想外に上機嫌だった。
「今日は面白い人ばっかり会うね」
「次はかなりまともなのを紹介する」
「面白い人でもいいのに。あの人ベンだっけ?何で出てっちゃったのかな」
 ジュンはベンの姿を探すように入り口のほうを見つめていた。
 すまんベン。こいつお前みたいの平気なやつだったかもしれんわ。

 俺達は1階のロビーへ上がった。1階が会社エリア、2階以上が居住エリア。2階がキッチン、食堂、リビングなどの合同スペースで3階がプライベートエリアになっている。
「やあ、いらっしゃい。ようこそBIG-GUNへ」
 階段から上がってくるとジム・ロダンがいつもどおりの穏やかな笑顔で迎えてくれた。
 歳は18歳。2つも年上なのだがタメ口で話せと言われているので俺も三郎もそうしている。担当は主に事務とメカニック。ようするに内仕事なのだが、彼を見た人間はなんで?と思うだろう。ジムは立ち上がってジュンに握手を求めた。ジュンは少し驚きをもってジムを見上げることになる。
 ジム、ジェームズ・ロダンの身長は190cmほどある。ゲルマン民族と言ってもこれはでかい部類に入るだろう。体格も抜群、見事な逆三角形の上半身に丸太のごとき腕と強靭な腰、その下に長さ1mはありそうな足がくっついている。顔はやや面長で美形とは言わないが精悍で男らしい。おっかない表情していたら却って人が寄り付かなくなりそうだが、先ほども言ったとおり常に穏やかな笑みを絶やさない。
 堂々たる肉体と温和な人柄、それにメカニックとして確かな腕も兼ね備えたわが社の良心とも言うべき男。それがジム・ロダンだ。
「ミス・ローランドさんですね。はじめまして、私はジェームズ・ロダンです。ジムと呼んでください。あなたのことは風見から連絡を受けています。どうぞごゆっくり」
 あいかわらず紳士で大人な挨拶だ。ジュンも少し赤くなった。ま、かっこいいからな。
「ありがとうジムさん。私もジュンと呼んでください」
「ジムで結構です。2階へどうぞ、お茶でも飲みましょう」
 ジムはそう促して先に2階へ上がっていった。
 ジュンが階段を上がりながら耳打ちしてきた。
「素敵な人じゃない?」
「まぁな」
「もっと他に仕事ありそうじゃない?」
 ごもっともだ。
「夢はガンスミスだそうな。俺らとしてもその辺は応援している」
「ガンスミス?」
「鉄砲のカスタムとか製作する人間だ。あのガタイには似合わない仕事とは思う」
「ああ、さっきシェリフのオフィスにジムの名前が書いてある銃が飾ってあったわね」
「よく見てたな。あれはジムがシェリフに贈った銃だ」