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宝の地図

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 甲山を出ておよそ二時間、車は乙浜市内に入った。広い平野に立ち並ぶ家、先生はそれほど大きな町ではないと言うけれど私の住む町と較べたら立派な都会で、変わらないのはここでも蝉の合唱が聞こえる事と陽射しがきつい事くらいだ。海のない甲山と違って、風に海の匂いがする。
 私たちは『宝の地図』でいう海の上、最初の目的地である先生の実家に無事到着した。周囲はどこも同じ様な建物の団地の真ん中、私は多分一人ではこれそうにない。
 先生は車から降りると元気よく団地の階段を4階まで駆け上がり、部屋に入ったかと思うとすぐに階段の踊り場まで戻り、下にいる私たちに上がってくるよう勧めた。
「どうぞ、入って下さい」
 私とおじいちゃんは先生に案内され中に入ると、先生とそっくりなお母さんに手厚く歓迎された。
「いつもウチの辰也がご迷惑おかけしてます」
お世話になってるのはこっちの方なのに。それを聞いて私とおじいちゃんは笑うしかなかった。
「本当に辰也で大丈夫ですか?」
「先生のおかげでウチの麻衣子は勉強する子になりましてな」
「あの、これはお父さんからですけど……」
私はお父さんに託されたお土産(ウチの畑で採れたものだけど)を渡したら「最近野菜も高いからねぇ」と言ってえらく喜んで受け取ってくれた。野菜ってそんな値段が変わるのだろうか?ウチでは滅多に買わないのでその相場がわからない。
「あれ、兄貴じゃん。帰ってきたの?」
物音に気付いたのか、奥の部屋から坊主頭の若者が出てきた。制服を着て、野球バッグにバットケース、どう見ても高校球児って感じだ。
「昨日メールしたろ。ちょっと調べ事なんだ……、この子の」
 先生に紹介されたこの人は、弟の駿太さん。先生より背が高く、身体もしっかりしてて、何よりも見た目がかっこいい。先生を前にして言えないけれど、同じ兄弟にはとても見えない。
「夏休みの宿題でしょ?」
 駿太さんは私とおじいちゃんに丁寧に挨拶してくれた、日焼けした黒い肌に白い歯が目立つ。
「今日は終日調べるの?せっかく来たんだから、花火でも見てったら?」
 先生とのメールのやり取りで、私が夏休みの宿題のためにここまで来た事を聞いたようだ。本当は宝探しなんだけど。私は先生の顔を振り向いたら、先生も同じように私を見ていたので思わず笑ってしまった。
「え、花火って毎年八月一日じゃなかった?」
「だよね。理由は知らないけど今年はとにかく今日なんだ」駿太さんは今から出かけるようで、見たことがないような大きな靴を履いていた「お昼でいいなら花火は今日僕が上げるよ、なんてね」
 駿太さんは笑いながら玄関にある野球帽をかぶった。
「おお、あんたは乙浜高校ですかな?」
 さっきまで相づちを打っていただけのおじいちゃんがいきなり口を開いた。駿太さんは驚く様子もなくニッコリと頷いた。
「そうかそうか、頑張れよ」
 おじいちゃんはテレビのタレントに会ったかのように駿太さんと握手をした。そういや乙浜に向かう車の中で先生とおじいちゃんは高校野球の話をしていた。先生の母校でもある乙浜高校はまさに今日、甲子園を賭けた決勝戦が行われるそうだ。高校球児だったおじいちゃんは今でも野球が大好きで、高校野球も予選の段階から詳しく、駿太さんを孫を見るような目で喜んでいた。  
「せっかく帰って来たんだから俺の勇姿を見てくれよな。勝つよ、絶対に」
「時間が合えば行くよ、必ず」
 駿太さんは先生と拳でタッチしたあと、私もおじいちゃんもそれに続き、バットケースを担ぎ、玄関をくぐるようにして出て行った。

作品名:宝の地図 作家名:八馬八朔