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宝の地図

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子 蔵のある家



 家の庭にある大きな蔵。私が生まれるずっと前からそこにドンと建っている。友達に私の家の場所を教える時にも「大きな蔵のある家」と言えば誰もがわかってくれる。今住んでいる私の家よりもずっと古い建物であることは聞いたことがあるけど、この蔵の中には入ったこともないし、何があるのかも想像がつかない。
 おじいちゃんに聞いても「古い農機具とかじゃないの?」と不確かな答えが帰って来るし、兄ちゃんに聞いたら「あの中には先祖代々のミイラがいるんだ……」と言って私を怖がらせるから、小さい時はあの蔵には近付けなかった。
 今の蔵の使い道といえば、私の練習相手になる事くらいで、壁のところどころバレーボールの跡がついている。因みに野球のボールの跡は兄ちゃんの仕業だ。
 とにかく塀の内にある大きな蔵は、存在感は大きいものの、今の我が家にとっては無用の長物になっているのは間違いないないようだ。私含め家族が話題にすることが滅多にないのだから――。

   * * *
 
 私はおよそ20分の間、蝉の大合唱に応援され、そして真夏の太陽に晒されながら学校からの道を歩ききり自宅にたどり着いた。制服は汗だくだ、部活で流した汗なのか下校で流したそれかもはやわからない。私は小走りに家の門を通り抜け「蔵」を横目に母屋の戸を勢いよく引き、靴を脱ぎ捨て、一目散に自分の部屋に入ってエアコンのスイッチを押した。
「ハーッ、生き返ったぁ」
「こりゃ、靴を脱ぎっぱなしにしてるのは誰じゃ!」
 部屋に入ってわずか数秒、部屋の襖が動く音がした。おじいちゃんだ。私が家に帰りついたのを音で気付いたのだろう、暑さのあまり部屋に入って涼むこと以外に何も考えてなかった。
「ごめんなさーい」
「麻衣子も女の子なんだから少しは……」
 両親は昼間は畑に出ているので、家にいるのはおじいちゃんくらいだ。私が小さい頃はおじいちゃんも畑に出ていたけど、おばあちゃんが亡くなって、おじいちゃんも腰が悪くなったので今では家事と私の躾を担当している。小学生の頃はいい遊び相手だったけど、中学生になった今ではお母さんから厳しくしつけるように言われているのか、最近ちょっと厳しくなった。

 ここ甲山市という郊外の農村にある稲垣家は、代々農業で生計を立てているとおじいちゃんから聞いている。かつてこの家は大家族で多くの人が住んでいたそうだけど、一人、また一人独立して行った。最近まではこの家に六人で住んでいたけど、おばあちゃんが亡くなり、兄ちゃんも町の大学に行っちゃったので、今ではおじいちゃんと私、そして両親の四人だけになった。さらに昼間は両親が畑に出ているので、家にいるのは私とおじいちゃんの二人だけだ。だから家がとても広く感じる。
「クーラー入れんでも窓開けたら涼しいぞ」
「はーい……」
おじいちゃんは文明の利器が便利なものであるのは認めているが、それに頼って楽をしているのを良く思っていない。そのあと決まって「昔はそんなものなくても平気だった」といつも言うのが分かっているから、私は逆らわずにクーラーのスイッチを切って、奥の窓を開け放った。目の前に見える蔵とかわすように涼しい風が吹き込んで部屋の全てを通り抜けると、私は背中の汗が冷たいことを感じ、背筋がブルッと震えた。
「ほーら、言ったろう?」
 おじいちゃんは右手に持っている鍵束をクルクル回しながら、私の様子を見ていた。
「おじいちゃん、何持ってるの?それ」
 いかにも古めかしい鍵束を手にしている。見たこともない鍵が中にはある。
「ああ、これか?それよ、それ」
おじいちゃんがその鍵を持って私を指差した。その眼を見ると私を差したのではなく、私の後ろ、窓の外。目に入るのは私が生まれるずっと前から建っている、大きな蔵だった――。
「いずれはあの蔵も壊そうと思うんじゃけんど、中のモンを整理せんといかんからのぉ」
 おじいちゃんも頭の片隅に置いていた程度の大きな蔵。面倒で、しかも急がない作業はいつも後回しだ。そう言ってるうちに何年もの時間が経ってしまっている。今日は調子がいいのか、長いこと近づくことのなかった蔵を整理しようと言っているのだった。
「何を整理するの?」
「それがわからんから見に行くんだよ」
窓の外を見れば絶対に目に入る大きな蔵。小さい時に兄ちゃんが怖がらせたのもあるけれど、毎日見てるのに蔵には入った事って一度もない。おじいちゃんがそう言うと、蔵の中に入って見たい気はとてもある。おじいちゃんと二人でなら心強い。
「麻衣子も手伝ってくれんか?」
「うん、するする。面白そう」
私は汗ばんだ制服を着替えることも忘れ、さっき脱ぎっぱなしにした靴を履いて、おじいちゃんと一緒に蔵の方へ走って行った。 

作品名:宝の地図 作家名:八馬八朔