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ヤマト航海日誌

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まあおれだってその頃上野の駅前で「自衛隊入らんか」と言われて「ヤだ」と応えたけれど、自分の国が敵の侵略を受けているなら『死にたくない』というだけでは戦いを拒む理由にならない。「勝手にやってろ」と言えば自分は関係なくいられると思うようでは話にならない。

けれども『妖精作戦』の榊と沖田はそういうやつだ。自分と自分の女だけが〈サイド6〉に行ければいい、行けると思ってるカムラン・ブルーム。お前らつまりそれなのか、と、『妖精作戦』は、読みながらにずっとそう思うしかない小説だった。写真で見る笹本の顔が、おれにはカムラン・ブルームに見えた。

主人公が自転車も乗れないほどのメカオンチなら戦闘バイクに乗れと言わない。でも、乗れるなら、乗れよと思う。そんなにイライラしてるんなら戦えよ。

『ヴィナス戦記』は見ながらずっとそう思うしかない映画だ。戦争が起きているなら終わらせろ。敵の側にも攻めてくる理由があるのなら探し、和解の道を切り開け。そして討つべき悪を討て。

それが主人公だろう。それをなんだ。いつまでもお前……。

それじゃただのチンピラだろう。『金八先生』の不良が高校出たものの、ハンパにパチプロなんかしてる。ヤクザの事務所に出入りして、当時にあった地上げ対象の家のまわりをバイクでボンボン音を鳴らして走るような仕事をもらったりしているが、「ほんとにウチの組に入れ」と言われて「ヤだ」と応えている。

そういうのをチンピラという。それと何も変わらんだろう。ハッキリ言って人間のクズだ。お前はダニだ。何をイライラしているのか知らないが、見ているこっちの方がもっとイライライラ……。

観客にそう思われるようなやつは主役じゃない。けれどもあのヒロという主役はそんなやつなのだ。『ヴィナス戦記』公開当時、まさに『金八』の舞台な街で、ひとつの事件が発生していた。やらかしたのはヒロとその仲間のようなチンピラだった。

〈女子高生コンクリート詰め殺人事件〉。「ヤクザになるのはイヤ」と言いつつ、ヤクザもやらないことをする。まさしく〈キラー・コマンドーズ〉のような街のダニがしでかした犯罪。

『ヴィナス戦記』はあの事件そのものだ。『妖精作戦』がまさしくあの事件そのものであるように。昭和という時代が終わるときに作られた映画だから、あの〈シャシン〉がああなるのは必然だったのかもしれない。これまで封印されてきたのが当然で、おれみたいな人間だけが平成の世に繰り返し見てきた。

それで当然なのかもしれない。あの映画が描いているのは金星でなく昭和の日本だ。あの忌まわしい犯罪が起きた時代のリアルタイムな日本。『金八先生』第一期が放映されて校内暴力の嵐が吹き荒れていた1980年頃の日本。

そして〈もうひとつの〉日本だ。ルーズベルトが生きてるうちに、いさぎよいことに降伏した。いさぎよすぎる。それだけは、絶対にしちゃいけないのに降伏した後のパラレルワールド日本。

よって日本が西日本と東日本に分かれており、東日本が共産主義。西日本が弱ければ、東日本が攻めてくる。家は焼け、畑はコルホーズ。君はシベリア送りだろう。

だから戦え、と言われても、そんなもんミッドウェイでアッサリと敗けた南雲が悪いんだろう。それにヤマモト56が悪いんだろう。あいつらが敗けたときには切腹すると言っていたのにしないのに、なんでおれが死ななきゃならない。

それに大体、裕仁のやつがいちばん悪いんだろう。あの野郎が神だから日本は敗けないと言ってたくせに、敗けた途端にあれはなんだ。どうしておれがテンノーヘーカのために死ななきゃならねーんだよ!

なんてなことを若者が言う、〈愛國戦隊西日本〉。それが『ヴィナス戦記』なのだ。気づけばそういうもんとわかるが、そう気づくのにこのおれでさえ三十年もかかってしまう。

ダメだ、それじゃあ! わからないなりにわかるからおれみたいなやつが見るけど、おれみたいなやつしか見ない。それは商業作じゃねえ! 金星を舞台になんかするのが悪い。安彦と笹本のふたりで話を作るのが悪い。それが間違いなのだから、変な突然変異体が生まれるのだ。暗い……話が、あまりにも暗い。そーゆー言い方はひどいという者がいるかもしれないが、事実なんだからしょうがない。

この日誌でおれがさんざん裕仁を悪く書いてることを『なんで』と思って読んでる人がまあいるかもしんないけど、あのね、昭和の終わり頃の日本人はたいていみんなこうだったよ。裕仁のやつが倒れたからって自粛だなんだとわめいてたのはマスゴミと一部の右翼どもだけで、90パーの国民は「早く死ね」と言ってたよ。いつまでも〈天子様〉の座にしがみついてるんじゃねえ、死ね死ね死ねとみんながみんな。

おれはその頃を憶えてる。本当のことを書いてるだけだよ。何しろ玉音放送の日にはたちだった人間はあれが死んだ日に63だろ。中三のやつは58だろ。まだほとんどがピンピンしてて、おれの当時の勤め先でパートだとかしてんだよ。テレビで右翼が「陛下の御恩」なんて言や、その誰もが「ハッ、よくも」。

言ったね、みんな。早く死ね。そして地獄へ行くがいい――そういう時代にティーンエイジだったんだから、昭和裕仁についての嘘をおれに言ってもおれのATフィールドを貫くことはできねえよ。

それは葉っぱじゃないんだから。そうだ。力と嘘を見ると腹が立った。オレもアタシも、若かった頃は――あの当時の日本人は、みんなそんな顔をしていた。おれはその頃を憶えている。その気分を忘れていない。そんな時代にイライラとしたガキでいたおれに昭和裕仁についての嘘は通じない。

昭和裕仁について最近言われることは、生き証人がみんな死んだかヨボヨボになったがためにつけるようになった嘘だ。封印解くなら『ヴィナス戦記』なんかより『高松宮日記』でもちゃんと映画化すればいいのに。

弟・高松宮の前で裕仁が〈三種の神器〉に泣きながら「動け、動け」と叫ぶ映画ね。皇太后から「ぶざまね」と言われる。

そんな映画を作れるようにならない限り、日本の戦後は本当に終わることにはならないのである。

三十年も経ったのに、昭和は遠くなってない。『ヴィナス戦記』も公開時点でもう古いのに、いま見てそう古くない。やっぱり安彦良和の画がいいでしょう。〈SF3D〉なメカがいいでしょ。古びないよ。どうして、なんで、ずっと封印してたんだろね。

あの特番では原作マンガの掲載誌に、『金星は自転の向きが逆だ』と書いた投書が来たとか……ハハハ、なるほどあの設定でそれはあかん。それ以前に『大気のベールは』なんてことを言ってるけれど、画を見る限りじゃまだ相当温室効果ありそうだぞ、なんてことを言う気もしないわ。しかし赤道傾斜角度は? えーと、177度……北と南が逆だけれどもほぼ直立か。うーん、逆まわりでなければ……。

良かったのにねえ。なんだかんだ言っておれはあのヒロってやつが嫌いでもない。土屋アンナが『下妻物語』で演じたあれみたいでしょう。そんな意見は御意見無様というもんですよ。下妻で昼は田んぼで働きながら、夜はバイクをボンボン言わす。何をイラついてんだ、という、そういう人間が、そう嫌いでもないのですよ。
作品名:ヤマト航海日誌 作家名:島田信之