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ヤマト航海日誌

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彼女の方ではお金を稼ぎたいために店をやっているというのに、キモ男らはそんなことに無頓着だ。誰もが他の六人と視線をバチバチ交わしながら、今日の最後まで残った者が彼女をモノにできるかもしれない。ならば断じて立ってたまるか――などと勝手に考えて、そうと決めてしまったならば。

どうしてそういうルールになるの? おかしいでしょう。やめてくださいと女店主は話しかけるが、彼らは耳を貸そうとしない。うるさい。お前はもうオレの剥製にすると決めたんだ。だから剥製が口を利くな。剥製が口を利くんじゃない……七人がみな他の六人の顔を横目に窺いながら、そうブツブツつぶやくばかり。

店の外では美人店主の噂を聞いて寄って来た者が結構そこそこの数になってて、窓から中を覗き込む。しかし一体どうしたわけか、〈一日七人まで〉という暗黙のルールを誰もが察し、「ちっ、もう今日は七人に入られちまったか。また今度だ」と言って去っていく。

席が七つだけなんてことは本当はないのである。キモ男どもが勝手にそう決めてるだけで、実はいくらでも入れるのだが、しかしそういうことにはならない。朝の八時に女店主が店を開けるとそこにはもう七人の客が席に着いていて、その全員が戸口の方をギラギラとした眼で睨みつけ、「今日はもうこれで終わりだ。これ以上はひとりたりとも入ってくるな。入ってくるな」とつぶやいている。

彼らは『電車男』とか、『めぞん一刻』『ビブリア古書堂』なんて虚構を現実と間違え、同じ奇跡が自分に起こると本気で信じ込んでるのだ。眼の前の女店主はメーテルであり初音ミクだ。歳を取らずトイレに行かず、自分だけを見てくれて、自分が書いた愛の言葉に節を付けて歌ってくれる。

「無言男がいい人だから〜、アナタわたしのご主人様よ〜」と、そんな女がもしもいるなら、それはICレコーダーを内蔵した剥製に他ならないが、彼らはそのひとりとして現実の女を知らないので、見つけたこの女こそそれであると決めてしまうのだ。この女が歳を取るはずがない。トイレに行くはずがない。そしてもちろん、処女であるに違いない……。

『電車男』のエルメスや、『めぞん一刻』の響子さんや、『ビブリア古書堂』のおれは読んだことがないからなんていうのか知らないけれどあのデカパイ女のように、男を顔や身長や学歴・収入・運動能力などでなく、内面の人柄の良さで選んでくれる。むしろ仕事がてんでできない男をこそ選んでくれる。そうだ。この人はそういう人だ。どうかこの七人の中でこのボクを選んでくれ。貴方にふさわしい男はこのボクだと知ってくれ。そしてボクの剥製になるんだ。ああ、その眼でボクの内面を見てください。ボクの人柄、人間性を見てください。この無言のメッセージを受け取ってください……。

なんてなオーラを発しながら黙り込むだけの七人に遂に今日も閉店までデンと居座られてしまった。今日も稼ぎは千四百円だ。彼女の眼にはもちろんこの者達の内面がよく見えている。それゆえにこそこいつらだけは死んでもイヤだと思っているのに、彼女の方の内面は彼らに伝わらないのである。

このサイトのおれの読者の大半は、おそらくこのテの大四畳半男どもと同じ種類の人間だ。

去年までおれの『敵中』のアクセスはだいたいそんな調子だったが、今年になってそのルールは崩れ始めた。先日には、朝に七人がいるなと思うと後から後から九人が入って一日の入店者が十六となり、とうとうおれがこのサイトでその日の第一位ということになりました。それがこの1月の12日。おれがここで投稿を始めてちょうど四年目の快挙であります。

でもやっぱり案の定、その次の日にガクリと落ちる。去年までは朝に七人の客がいるともうそれ以上に入ってくる者はなかったんだが、今年になってどうやらルールが変わったんだね。午後になって窓から覗く者達が中に七人かそれ以上にいるのを見ると、


『アッ、畜生! 今日はこんなにいるってことは、今日が店の客の中で誰かひとりがこの〈魔女〉を剥製にできる日だということなんだな。このチャンスを逃してなるか!』


と考えて次々に入る。そんなことがたびたび起こるようになり、遂にこないだはおれが一位……ということとしか思えんのだが、例によってその後数日まるで客が寄り付かぬのだ。状況は『ゴルディオン』を書いてた頃と変わったようで変わっとらん。おれに果たして明日はやってくるのであろうか。

〈大四畳半惑星〉の別の名前は〈明日の星〉。どっちにしても正式な名前じゃないような気がするが、前回のログに引用した〈T氏〉なる人物は、小澤の写真を盗んだときに自分の明日を見失っていたのであろう。仕事がうまくいかないために、他人の物を盗むことで明日を掴み取ろうとした。

〈明日の星〉で銀河鉄道の存在は人々に秘匿されている。だがうすうすに知られており、鉄朗とメーテルは寝ている隙にパスを盗られる。犯人はその星の中で仕事がうまくいっていない青年だった。市橋達也のようにそれまでの何もかもを捨ててどこかに逃げようとしていた。〈999〉のパスがあれば人生が開けるのだ。そう信じて駅から出る鉄朗達の後をコッソリと尾行して、ふたりが寝た隙にパスを盗む。

その話がどうなったかは「松本零士のマンガを読め」と言うことにして、このログを終えることにしよう。明日の星には明日の人間が住むと人は言う。苦労の二ヶ月や三ヶ月、断食の一週間や二週間、どうということはないんどとサルマタの怪人は言う。おいどんの一生は長いもんねー、あわてんのよ。そのうち見ちょれと思うとるんよ、と。

だからと言ってあまり容易く人を信用しないようにね。ストーカーや置き引きなどはやれば市原と同じになります。銀河鉄道株式会社は定期券に番号を振れとおれは言いたい。



作品名:ヤマト航海日誌 作家名:島田信之