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大竹 和竜
大竹 和竜
novelistID. 52505
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Mut-ae-volution 射手 プロローグ

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 国の、キメラ症患者のためとはいえ、この軍服の陶酔具合に彼はどこか気味の悪いものがあるが、一応は上官であるこの男にそれらしい返事をしてみせた。
「我らが主導者は、キメラ症ゆえに優秀。それゆえ、キメラ症はヒトの次の人類なのだ。わかるだろう?進化が停滞してしまったヒトより優れた君たちの身体能力、感覚。私はヒトだが、あのお方の偉大さに惹かれ、こうしてキメラ嫌い共を粛清すべく日々思案しているのだ。」
 椅子から立ち上がる。「だが、君も殺しや報復ばかりが仕事では飽きるだろう。あの男に限っては例外だが、殺しばかりが我々の有能さを示す手段ではない、というのが主導者のお考えなのだ」
 突然話題がずれた。この男にはよくあることなのだが、今日は少しばかりワケが違っている。
 軍服は、これまた演技じみた動作で、机の背後にある窓に向かって立ち、言い放った。
「何が言いたいかというとだな、フランシス君。君に、国際キメラ症スポーツ競技会に出てほしいのだ」
 そう言われて、最初何がなんだかわからなかった。きょとんとして、クチバシは間抜けに開いたままにしてしまった。別に驚いたわけではなく、本当にワケが分からなかった。
 混乱しているワシ頭をよそに、軍服は続ける。
「かれこれ十年前からか、かねてより検討されていた、キメラ症のためのオリンピックがついに行われるのだよ。長いことキメラ症患者のスポーツ競技参加は禁じられてきたが、ようやく我々の力を示す機会がやってきたのだ。和党の連中も、国際的な非難に怯えて参加を決めたしな。君もそろそろ表舞台に出て活躍して良いころだ。我々キメラ主義の星として活躍してほしい。」
 まったくもって、何をすれば良いのか分からない。自分がワシ頭で羽毛を生やした体でしてきたことといえば、弓を使って、キメラ症患者を認めない人間を殺すことぐらいだ。身の回りの世話ぐらいはさすがに自分でやるが、そんな自分に何が出来るんだ。そう思っていた。
「君には、アーチェリーの、我が国代表として出場してほしい。得意だろう?」
「は、はぁ」
 フランシスの開いたクチバシが、その一言とともにようやく閉じた。
 確かに弓は得意だ。しかし、好きで始めたのではない。暗殺という仕事には、音が出ないから好都合だったのだ。他にも理由はあった。南米の極貧小国の、しかもマイノリティの集まりには減音機つきの狙撃銃を買う余裕がなかったのだ。この時代に、しかも弓一つで暗殺をこなせるのは、このワシ頭に納まったタカの目ならぬワシの目のもたらす――つまりキメラ症のもたらす――強力な視力によるものだ。遠くのものも、近くに見える。
「なに、君の正体はバレていないし、派閥には関係ない者だが優秀なコーチもつけよう。なるべく快適な練習環境も提供する。当面君の仕事はそれになるが、よろしいかな?」
 勝手に話を進められてしまった。
 一瞬戸惑いが沸いた。暗殺以外の仕事なんて初めてなのだ。もはやヒトを殺すことに慣れてしまっていて、普通のことをするのにはためらいというか、得体の知れないものを覚えるようになってしまっている。
 しかし、キメラ症のためとあらば、我慢できる。ものの数秒の戸惑いだったが、その思いだけで完全に消え去ってしまった。
「わかりました。やりましょう。この国の、救われないキメラ症患者のために」
 先ほどまでのきょとんとした間抜け面が信じられないような、精悍な猛禽の顔つきに戻った。まるで髪の毛のように生えている冠羽がぐっと広がり、軍服に勇壮な姿を見せ付ける。
 軍服は、振り返ると、まるで英雄の帰還を見るような目で言った。
「君ならそう言ってくれると思っていたよ。来週から、早速そのコーチと練習する準備が出来ている。今日のところは帰ってゆっくり休み、来週からのトレーニングに備えてくれ。ご苦労だった」
 そう言って軍服は、握手を求めてきた。
 彼はびっしりと羽毛の生えた手で軍服の、皺でヨレヨレの手を握った。