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女教師と男子生徒、許されざる愛の果てに~シークレットガーデン

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「けど、なら何で、長瀬のお袋はホステスなんかしてるんだ? 愛人ならそれなりの報酬を貰ってるんじゃないのか?」
「長瀬のお袋は父親に棄てられたって、うちの母親が話してたぜ」
 また、最初の声。
 心優は声を高くした。
「止めなさい。他人(ひと)のことをとやかく言うものではありません。それに、青田君、憶測で物を言って誰かを貶めるのは人間として最もしてはならないことです。そのことはお母さんから教わらなかった? それでは、長瀬君の次は青田君に自己紹介をして貰いましょう。どうやら、あなたもお喋りが好きらしいから」
 最初に長瀬を攻撃した丸顔の生徒に次の順番を振った。その青田という生徒はふて腐れたようにぼそりと言った。
「俺も長瀬と同じ、良い身体をした女が好み。顔はAKBのまゆゆが良いです」
 結局、自己紹介をした三十五人中の半数以上が長瀬や青田と似たり寄ったりのふざけたどころか紹介とも呼べない代物で、残りの十人程度の見るからに大人しげな生徒たちは無難な自己紹介をした。
 幾ら男子校といえども、卑猥な冗談が飛び交うのが日常茶飯事なのには辟易した。途中で幾度教室を飛びだそうとしたか知れないが、心優をとどまらせたのは、やはり自分が教育のプロであるという責任感と誇りだった。こんなことくらいで逃げ帰っていては、ここでの勤務はできないだろう。
 終業を告げるチャイムが鳴ったときには、心底ホッとした。我ながらよく途中で逃げ出さなかったものかと褒めてやりたいくらいの気分で教室を後にした。
 それにしてもと、心優は先刻の青田大悟たちのやりとりを思い出していた。長瀬大翔の父親がN電機の取締役社長とは! N電機は日本でも有数の名の知られた家電販売会社ではないか。全国に支店を数えれないほど持っている。
 その社長の本妻に子どもがいないこともむろん心優が知るはずもないが、まさか、長瀬はその息子―、しかも本妻ではなく愛人の子だという。このR学園にはN電機から毎年、多額の寄付がされているらしいが、それにはやはり裏事情があったというわけだ。R学園は幼稚園から高等部までを有した大きな学園で、生徒は皆、金持ちの子どもばかりである。初等部は男女共学制を取っているが、中等部からは男子校となる。
 成績が悪くても出席率が低くても、親が金を積めば進学も卒業もできると世間では専らの噂だ。その一方で、毎年、有名国公立大学や難関私立大学に大勢の合格者を輩出する進学校でもある。要するに勉強熱心な生徒と適当に通って卒業だけすれば良い―そんな生徒との格差が烈しいのが特徴である。
 だから、有名人や芸能人の子どもばかりか、芸能活動をしている若いタレントも混じっているほどの学校なのだ。よく知られているところでは、ジャニーズ事務所の有名な人気若手グループのメンバーが中等部に二人いるらしい。
 もっとも芸能界の話題には殆ど関心のない心優は詳しくは知らないが。
 最初、長瀬大翔を見たときは、どうせ甘やかされて育てられた坊ちゃんだから、他人の迷惑も顧みないでの言いたい放題やりたい放題だと思ったけれど、彼の生い立ちや生活環境はなかなか複雑そうである。
―それで、あんな暗い眼をしているのね。
 長瀬大翔は見かけだけからいえば、そのジャニーズ所属の人気タレントたちよりもよほど際立っていた。モデルといっても良いほどの均整の取れた体?や彫りの深い端正な顔立ちは日本人離れしている。
 しかし、その整いすぎた面には何かしら翳りのようなものが漂っている―と、心優は最初から気になってはいたのだ。黙っていても辺りを威圧するかのような存在感はN電機の社長だという父親譲りなのかもしれない。
 心優は小さく首を振った。とにかく、問題は長瀬大翔一人に限らない。長瀬に敵意を向けて攻撃ばかりしていた青田も何かと問題のありそうな生徒だし、それをいえば、一時間目でまともな自己紹介をしなかった生徒たちは皆それぞれ問題がありそうに思える。
 どうもこれからの日々が前途多難に思え、心優は大きな溜息をついた。

 それから一ヶ月を経た。相も変わらず朝礼の時間になっても生徒たちは席になかなか着かず、嫌らしい科白でからかわれることの多い心優だったが、それでも、新しい生活に次第に馴染んでいった。
 この頃、心優はあることに気づいた。それは生徒たちに野次を飛ばされても、けして卑屈になったりはせず、初日のように断固とした態度をとり続けねばならないということだ。ましてや、教師の立場としては幾ら進退窮まっても、涙など禁物である。
 どんなに向こうが羽目を外し過ぎても、こちらは教師として毅然として対応すれば、大抵の場合はそれで何とか収まった。一見どうしようもなく手の付けられないかに見える生徒たちも殆どは見かけだけの鼻息の荒さで、内面はごく普通の十七歳の少年なのだ。
 そのことが判ってから、心優はどんな卑猥な冗談を飛ばされても笑顔で受け流すすべを憶えた。彼女は彼女なりに新しい職場で対処法を身につけたのだ。
 五月のよく晴れた日の昼休み時間だった。この頃ではもう日中は夏を思わせる陽気で、少し動いても汗をかく。
 それにしても、この学校は保護者からたんまりと寄付金を貰っている割には、校舎など設備全般はお粗末なものだ。普通、金持ちの子どもが通う私立といえば、超近代的な建築で、最新の設備が整えられていそうなものなのに。この学校ときたら、校舎は年代物だし、机も黒板も何もかもが到底最新とは言い難い。
 校舎だけ見れば、セレブが通う私立というよりは、一般庶民向けの公立と言った方が通りそうではある。クーラーもついてはいるものの、実際に稼働するのは六月以降とのことだ。そのクーラーも本当に動くのかと疑いたくなるほどの代物だ。
 職員室は一階の片隅にあり、もちろん、どこの学校にでも見られるような風景である。その中で校長室だけがやたらと立派なのは、
―親からの寄付金を校長が横領している。
 と、陰口を叩かれても仕方がない面もあった。
 生徒たちが使うトイレはそれぞれ一階から四階までにあり、教員専用は職員室からほど近い場所にある。心優はその日は職員室で作ってきた弁当を食べて、職員用のトイレに向かった。
 左腕の時計を覗き込むと、時間は一時きっかりだ。始業までには十分しかない。次の授業は五組で、心優の担任している三組ではない。二年の教室は三階だから、ダッシュで行けば余裕で間に合うだろう。生徒たちに始業ベルと同時に席に着けと言いながら、教師が遅れては面目がない。
 心優が女子職員トイレに入ろうとしたまさにそのときだった。ふいに背後から口許を覆われ、抱きすくめられた。
「―?」
 心優は何が起こったのかさえ判らなかった。愕いて渾身の力で暴れたものの、相手の力は思いの外強い。易々と抵抗を封じ込められ、彼女は引きずるようにしてトイレに連れ込まれた。
 トイレのタイル張りの壁に華奢な身体を押しつけられた心優の瞳に映じたのは、あろうことか青田大悟だった。
「青田君! 何をするの」
 漸く喋れるようになった心優は咎めるような声で叫ぶ。