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女子外人寮

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気になる、あの男の仕事


60歳位だろうか、週一度だけ背広姿で出社して、夕方四時に帰ってしまう男がいた。
元銀行マンだったと言う。俺の隣のスチールデスクに座って、何やら書類を書いている。
忙しそうには見えない仕事量。一体何をやっているのだろう。
この会社のコンサルタントだと本人は言っている。
こんな会社がコンサルタントを置くなんて・・俺は信じられなかった。

「及川君って言ったねキミは、実はこの頃社長とうまくないんでね。この頃、口も訊いてくれないんだ」前の壁を見たまま、俺を見ずに話しだすこの男。
「・・・・」
「実はキミが来たので社長は・・・僕のやってる仕事をキミにやらせたいって・・そう思っているんだ、きっと」こう言い終えて、俺の方を覗き込むように初めて見た。
「・・・・」俺にはなんのことか解らず、返事が出来なかったが、ここで話は中断した。

社長が出社したのだ。

社長は、縫製工場の中央にある柱に、大きく貼った生産目標達成率表を見て、時間ごとの作業状態をチェックして指示を出す。
「おい、専務!山本班はどうなっとる!11時までの達成率60%で日産目標が達成できるのか!」
社長は70歳位だった。けれど忙しなく動き回る。長男である専務にどなった。
「ミシンが一台故障でトラブッて、中間在在庫になって完成報告にあがって来ません」と、ぼそぼそと専務が答える。

「山本を呼べ!班長は何をしとる!」
山本班長が来た。
「実は昼休みにミシンを入れ替える予定ですが・・」
「今すぐやれ!及川、お前が手伝え、昼休みは返上にしろ!」

突然俺の名前が出た。俺は訳が解らないまま、取りあえず山本班長の作業場へ付いて行く。そこにはミシンの前で溜まったスカートが山のように積まれていた。


ミシンの入れ替えが済み、手を洗って席に戻ると社長は不在だった。もう帰ったのか。
けれど油断はできない。社長の自宅はこの工場の4階上の屋上に、庭付きの平屋の住宅を造り、一人で住んでいるのだ。彼の妻はもう10年も前に亡くなっていた。
休憩に帰ったのかもしれない。



俺は隣の席の自称コンサルタントの笹本の言った、俺に譲る事になるらしい仕事が気になった。

俺は経理には自信が有った。会社の設立から定款の作成、決算、税務書類の作成、申告・・なんでもやって来た。俺は確かに気弱だけどキレやすい。曲がった事は許せない。そう思って暮らしてきた。

気になるあの男、俺に譲ると言う、そんなに時間のかからない週一度だけの彼の、気になる仕事。

この仕事こそ、後から俺がここを去る理由の始まりだとは、この時は思ってもみなかった。
作品名:女子外人寮 作家名:桜田桂馬