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女子外人寮

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一年生女子寮にて


いつも通り、俺は彼女達の送りを毎夜していた。
勿論、送っても相変わらず感謝の「有難う」の言葉は無かった。
それでも良かった。多分俺のしている事は仕事だから、お礼の習慣がないのだろう。現にスーパーに連れて行った特は「有難う」って彼女達が言ったから。俺は全く無報酬でやっている送りだけど、まあそう思われてもしょうがないかって思えるようになっていた。

ある夜、いつも助手席に乗る女が俺に言った。
「お願いがある。ベッド修理、お願い」

「解った、現物を見てから何とかしよう」と言って、その夜初めて女達と一年生女子寮に入った。

工場にある2年生や3年生の部屋は毎日巡回しているけれど、工場から離れた女子寮に入るのは初めてだった。古い鉄筋コンクリート造りの建物は、一階にフロアー、共同キッチンと10名程座れる長テーブルとパイプ椅子があり、風呂とトイレもその奥に付随していた。

キッチンのバーナーは大型で、中華料理屋のそれを思い出させる大きさだった。けれどバーナーは汚れ、油は飛び散り、その上に埃が黒く付着し、掃除の苦手な独身の俺でも、週一は掃除をするのに、もう何か月も何もなされていない状況だった。触ったら最後、汚れに絡みつかれるような気がした。

そのバーナーの周りの床にはインスタントラーメンの袋や、菓子の箱など紙類、野菜クズが散乱しているあり様だった。何かの拍子に燃えた油が飛んだら、火災の恐れが十分にあった。防火管理者だった俺は、思わずためた息を長く吐いていた。
俺は思い出していた。日本に昔あった、赤土を塗り固めて作った(くど)が彼女達の家には有ったのかもしれないと。

「こっち」 と言われ女達がくつろぐ2階の八畳ほどの部屋に入る。中央の狭い通路を残し両脇の壁側に木製の二段ベッドが4セット並んでいる。そのどれもがベッドの底板が外れ、彼女達が修理したであろう素人細工で、長い錆びた釘が何本も打ち付けられ、辛うじて床が支えられている状態だった。その錆びた釘は所々むき出しで、と尖ったその先端が飛び出しているものもあった。
俺はこれを見て、経営者はなんてひどい事をする連中だ。いつ落下するかわからないベッドに、研修生を寝かせるなんて、俺は柄にもなく腹がたってきた。

「簡単に直るから、今日は直せないけど今度の土曜日、直すから」
そう彼女達に言って俺は会社に戻った。工場長にはその件を報告し、電動ドライバーとネジ釘を借りる約束をした。
けれど、その修理の件は社長には一切報告しなかった。
それは、苦い経験が有ったからだ。
作品名:女子外人寮 作家名:桜田桂馬