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フリーソウルズ

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#7.手がかり


#7.手がかり



小さな公園の外周
綾乃を慰めながら歩いていると、ひめのスマホが振動する。
メッセージをチェックするひめ。

綾乃  「誰から?」
ひめ  「理事長。夕食にステーキはどう?って。どうする?」
綾乃  「あたし・・・(迷う)」
ひめ  「行こっ。ねっ!」

高層ホテル最上階の高級鉄板焼レストラン
VIP席にヴィンテージワインが運ばれる。
ワイングラスにワインを注ぐソムリエ。
ワイングラスを持ち上げ、ガラス越しに広がる夜景を眺める淡嶋英豪。
淡嶋の傍らで、シベリアンハスキー犬のシャンが腹ばいで控える。
VIP席は他の客の目に触れず、静かである。
シャンが前足を立てて首を伸ばし様子を窺う仕草。

淡嶋  「(グラスを置いて独白)来たみたいだな」

シャンが駆けだす先に、制服姿のひめと綾乃。
シャンが吠える。
ひめが後ずさりして嫌がる。
綾乃がシャンの頭を撫でると、途端に綾乃になついておとなしくなる。
白い髭をたくわえた淡嶋が満面の笑みでひめと綾乃を迎える。

綾乃  「来ちゃいました」
ひめ  「こんばんは、理事長」
淡嶋  「GoodEvening, Ladies!」

シャンが淡嶋の傍らに戻る。
テーブルにフレッシュオレンジジュースが2つ運ばれてくる。

淡嶋  「高校は慣れましたか、綾乃くん?」
綾乃  「はい、理事長。先輩が優しいので、すごく楽しいです」
淡嶋  「それはよかった」

テーブルを指先で突いて鳴らす淡嶋。
死角になった場所からスーツを着た若い女性が現れる。
女性は10インチのモバイルPCをテーブルに置いて立ち去る。
PC画面に駅前に多重事故現場の静止画が映っている。

淡嶋  「この子だね?」

植込みに倒れている裕司の画像が映る。
その画像をひめが確認する。

ひめ  「はい、彼です。椿谷裕司」
淡嶋  「ひめの見立ては、やはり?」
ひめ  「ええ、間違いありません」

PC画面に佐賀刑事に抱き起こされる裕司の画像。
スライドして、プリウスに追突したタクシーが小火災を起こしている画像。
後方にガードレールを突き破り歩道に乗り上げたベンツ。

淡嶋  「派手にやっちゃいましたね」
ひめ  「制御できてないって感じ・・・」
淡嶋  「どんな男の子なのですか、普段は?」
ひめ  「ごく普通の高校生かな。こじらせるタイプ」
淡嶋  「こじらせる・・・?」」
ひめ  「ええっと・・・くよくよ思い悩む性格かと(苦笑う)」
淡嶋  「動画を見る限り、彼は確かにひめと同じフリーソウルのようだが、まだ自己覚知していない。混乱の真っただ中だ。その彼が・・・?」
ひめ 「椿谷裕司は見た目以上に内面の強さが見えます。ギルスを克服すれば誰より強いアテンになる」
淡嶋  「強いアテンになりますか」
ひめ  「はい」
淡嶋  「そうですか・・・」

強い口調で断言したことに少し恥じらうひめ。
表情を引き締めて

ひめ  「すみません、理事長。ICチップを奪い返すことができませんでした」
淡嶋  「いや、ひめが謝ることはない。セキュリティの甘さを突かれた。財団のミスです。それよりひめにけがはなかったですか」
ひめ  「はい、大丈夫でした」
淡嶋  「最近の騎士団は目に見えて過激になってきた。人の死を何とも思っちゃいない」
ひめ  「犯人が誰かわかれば、私がなんとかします」
淡嶋  「ひめ、無理をしないでくださいよ」
ひめ  「でも・・・」
淡嶋  「大丈夫。私もこれ以上騎士団の好き勝手を許すつもりはありません」

すり寄ってきたシャンに頭を撫でる淡嶋。
スーツの女性がPCを回収すると同時に、テーブルにステーキが運ばれてくる。

淡嶋  「さあ、ディナーにしましょうか」

シャンの足元には、皿に乗った上質の生肉が用意される。



小さな公園(深夜)
公園の上空に十六夜の月がかかっている。
ベンチで物思いに耽り何度も溜息をつく裕司。
夜風に木の葉が舞い、足元に冷気を感じ身震いする裕司。
ふとネコに鳴き声を耳にする裕司。
裕司の足元を一匹の野良猫がうろついている。
月明かりに照らされたネコを見て、思い出す裕司。

裕司  「お前もしかして、あのときのノラか、怪我してた?」

ネコが小さく鳴く。
裕司の足元にすり寄るネコ。

裕司  「怪我治ったのか?せっかく心配してやったのに。どこ行ってたんだ。よしよし」

ネコを抱き上げる裕司。

裕司  「どうした?お前もひとりぼっちか?」

ネコを膝に乗せる裕司。
裕司の膝の上で気持ち良さそうに休む体勢を整えるネコ。

裕司  「どうだ、暖かいだろう」

ネコを両腕で包みこむ裕司。

裕司  「僕も暖かい・・・」

ネコの重みを膝の上に感じながら、瞼が重くなる裕司。
閉じられた裕司の瞼から、涙がひとすじ頬をつたう。


 **  **  **  **  **


呉海軍病院 (昭和20年秋)
病院を訪れる緑川。
病院の廊下で、片方の膝から下のない軍人とすれ違う緑川。
看護婦長と立ち話をしている看護婦の桐恵。
桐恵を認める緑川。
身なりを整え、笑顔を作る緑川。

緑川  「帰ってきたよ、桐恵・・・」

不思議そうな表情で緑川を見る桐恵。

桐恵  「どちら様?」
緑川  「僕だよ、寛治だよ」
桐恵  「えっ?」
緑川  「磯村寛治だよ」

手拭いで伸びた髭を拭う緑川。
桐恵の表情が強ばる。

桐恵  「主人は、磯村寛治は南方で戦死いたしました。からかわないでください」
緑川  「違う、違うんだ・・・」

桐恵に詰め寄る緑川。
病院の廊下に緊張が走る。
看護婦長が桐恵を自分の背後に隠す。

看護婦長「誰か、誰かきてちょうだい!」

緑川  「桐恵、僕だ。桐恵、僕だよ。桐恵、桐恵!」


  ◇    ◇    ◇    ◇


新幹線車内
車内アナウンス「新神戸、新神戸に到着します」
座席から飛び起きる裕司。
眠い目をこじ開け、窓の外を見る裕司。
六甲の山肌に船の錨をかたどったモニュメントが見える。


新神戸駅
リュックサックを肩に担いで、タクシー乗り場に向かう裕司。


摩耶大学
大学正門前でタクシーを降りる裕司。
理工学部の建物内にある応接室に案内される裕司。
ファイルを携えた天根与志郎が入室し、裕司と対面する。
天根は裕司が見たビデオに登場する医師である。

天根  「椿谷裕司くんですね。いくつになりました?」

ゆっくりと椅子に腰かける天根。

裕司  「16歳です」
天根  「そうですか・・・。憶えていますよ。君が母親に連れられて私の研究室を訪ねてきた日のこと・・・」

目を細める天根。

裕司  「先生、僕が・・・」
天根  「察しはつきます。ビデオを観たのですね、ごく最近」
作品名:フリーソウルズ 作家名:JAY-TA