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短編集『ホッとする話』

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 しばしの時間が流れた。BGMとして流していたピアノの演奏が止まった。
「母さんに謝らなくっちゃ。今、日本は何時くらいかな?」
朱音は即座に壁の時計に目を遣った。リビングには時間の違う時計が二つ掛けている。現地の時間と実家(日本)のそれだ。
「早朝やね」
「じゃあ、ちょうどいいや」
 篤信はカウンターの上にある電話に手を伸ばして日本の実家に電話をかけた。あの時のこと、これまでのこと、そして今ここで聞いたことを母に謝ったって上手にすかされるに違いない。でもそれでもかまわない、知った以上は連絡して直に母の声を聞いて、今の気持ちを伝えずにはいられなかった。

   プルルルル、プルルルル……

 受話器から呼び出し音が聞こえ出すと、篤信は横に引っ付いて座る妻に腕を朱音に掴まれた。
「どうしたの?音々ちゃん」
「あたしも篤兄ちゃんの妹で、ママ先生の娘やから一緒に聞いててもいいでしょ?」
「ははは、当然じゃないか」
クスクス笑う妻の顔。篤信は微笑み返して妻の肩に腕を回すと
遠い海の向こうにいる元気な母の声が聞こえて来た――。

  親の気持ち、子の気持ち おわり