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短編集『ホッとする話』

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デビッドは手続きを済ませて無事に帰国した。引き上げた荷物の中には日本のお土産と日本の税関を通ることなく帰ってきたカートンのタバコ。
「まあ、もったいないから消費させてもらうとしようか」
 デビッドは空港を出てタクシーを待つ間、そう言いながら家に帰るのを待たず、タバコのフィルムを切って一箱取り出した。家では家族が嫌がるのでタバコを吸うことができないし、休み明けに出勤するまでは今回の旅行のこともあり今日は我慢ができそうに無かった。

 タバコの箱を開けて一本取り出して口に咥え、ポケットのライターで火を点けて深々と一服。フィルターを通して入ってくるニコチンという安定剤が肺を通ったその安堵感でデビッドは誰もいない青空に向けて深い煙を吐き出した。
「ぷはーっ、ありがたーい一服だ、こりゃ」

 これまでに一番深い一服――。デビッドはその重みを噛み締めては味わいながら手にした一本を再び口に近づけようとしたら、見慣れた制服の二人組がこちらに向けて笛を吹きながら駆け寄るように近づいて来た。

「あなた、今何をしているのだ?」
「見ればわかるだろう、帰国後の一服をしているんだ。喫煙ができない国に行ってたもんだからこれからが美味いのなんのって……」
 デビッドはタバコを咥えたまま箱の一本を半出しして制服に勧める。
「君も一本どうだい?ああ、勤務中はだめなのかな?」

 喫煙のありがたさを分かち合おうと思い、制服の警察官の顔を見ると表情は明るくない。階級の高い方が低い方に何やら首で合図をしている。次の言葉にデビッドは耳を疑った。

「午後3時20分、喫煙の現行犯であなたを検挙します」

 ――喫煙の現行犯?、デビッドは夢でも見ているような気になって警察官の言葉をリフレインした。
「そんな冗談を、ここは日本と違うだろう」
デビッドは苦笑いして反論するとさらに驚くべき言葉が相手の口から出た。
「その日本という国に倣って、ここでも喫煙法が可決されたんだ、知らなかったか?」
「何と……!」

「来月から喫煙免許制度が施行されるので、喫煙したければ免許を取るように」
 デビッドは言われるがままにタバコの火を消すよう命ぜられた。そして、警察官からありがたい反則切符を頂戴することになった――。


  『喫煙法』 おわり