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短編集『ホッとする話』

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 それからほとぼりが冷めた数日後、私は下校すると家にいたのは兄ちゃん一人だった。両親とおじいちゃんは畑へ、おばあちゃんはこの頃から身体の調子がよろしくなく、長い入院生活だった。今思えば、孫の躾け役だったおばあちゃんが家にいないという見えないストレスが私も兄ちゃんにもあったのかもしれない――。

 そんな年の兄ちゃんの誕生日。わがままだという自覚があった私は兄ちゃんに『おやくそくカード』をプレゼントした。五枚一綴、約束の内容は空欄で、兄ちゃんが決めたことを私が約束するよという、何とも子供らしいプレゼントだった。これまでにそれが使われたのは一回、内容は
「兄ちゃんの言うことを聞くこと」
だった。だけど私は、それが守れなかった。なのにそんな気持ちの入ってるかどうか疑問なそれを返せと言った自分が子供ながらに恥ずかしくて、これは素直に謝った方がいい。その時はそう思った。
「兄ちゃん」
 私は襖を開けた。すると部屋にいるのは机にかじりついて勉強している兄ちゃん、明日は期末試験らしい。
「なんだ?」
兄ちゃんの座った椅子がくるっと回った。ケンカしてから初めて声をかけたけど、兄ちゃんは前のことなど気にしていない様子だ。
「『お約束カード』のことなんだけど……」
 本当に謝ろうと思っていた。あの時はさすがに言い過ぎたと思っていた。しかし、兄ちゃんはすまなさそうな顔をして小声でボソッと答えたのだ。
「遅かったな、もう棄ててしまったよ」
「えっ?どこに?」
「五重塔のてっぺん」
「五重塔って?」
 二人の共通する『五重塔』と言えば近くにあるお寺・郷楽寺の五重塔のことだ。静かな農村の中にある大きな寺で、毎日日暮れには鐘がなり、花見や夏秋の祭り、その他町のいろんなイベントがここで催される。付近に五重塔より高い建物がなく、私たち家族だけでなく町の人ならみんな知っている。
 そう言われて、こないだおじいちゃんに説教された売り言葉に買い言葉のことなどすっかり忘れ、私は兄ちゃんに
「せっかくあげたのに、なんで棄てるんよぉ!」
とつい大きな声を上げてしまった。ケンカをしたら悲しいのは当時の私でもよく知っていた、でも我慢するのは下手だった。
「そんなに言うんなら自分で探せば、いいじゃないか」
と言って笑っている。兄ちゃんにしてみたらどうでもいいような、妹が作った紙切れを棄てたことは何とも思っていないので笑っていると感じた私は馬鹿にされているようで急に悔しくなった。
「もういいよ、兄ちゃんなんか」
 結局私は謝ることなく一人相撲をして、部屋の襖を勢いよくピシャリと閉めた。