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短編集『ホッとする話』

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「ま、そういうわけよ。部下を持つってのは」
班長は話を終える頃には得意先の会社ビルが見えてきた。高速に乗らずに来たがちょうどいい具合の時間配分で、話のお陰で長いとも感じなかった。
「いい主任だったんですね」
班長は大きく頷いた。その後主任は班長に昇進し、今年めでたく定年を迎えたと最後に付け加えた。
 班長が口ぐせのように言う
「無理するな、気ぃ付けて行けよ」
という何気ない一言にはそんなエピソードがあったのを聞いて、疲れが少し和らいだような気がした。
「なんてことはない。これを言ったところで事故に遭わないわけではないし、言わなきゃ不具合を受けることもない」
班長は助手席で前方車両のブレーキランプを指差して注意喚起する。
「でもよ、実績も出世も大事なことにはかわらないけれどもよ、今ここで俺が一つの班を任せてもらってる以上、楽しく仕事したいとは思わないか?どっちにせよ責任とるのはこっちなんだし」
「私も、そう思います」
自然に笑みがこぼれ、肩の力が抜けるのが自分でも分かった。
「今度、自分は主任になるんだ。いずれは俺と並ぶし、追い越して行くだろう、大事なのは『どんな上司になるか』だと思う。俺は主任を今でも手本としてるよ」
 そう言って班長は笑った。昇進する前にそんな話を聞けた自分はこの上司と一緒に仕事ができることを素直にラッキーなことだと思えた。

 到着した私たちは車を駐車場に入れて、エンジンを止めた。
「ようし、行くぞ。キー抜いたか?」
「はい、ちゃんと気ぃ付けてキー抜きました」
「上等上等!」
班長は私の顔を見て鼻で笑った。そして私はスーツの襟を正し、前を歩く班長の後ろを歩き出した。


  『部下をもつということ』  おわり