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Savior 第一部 救世主と魔女Ⅳ

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 はたしてそこには、水を吸って白く膨れ上がった一本の腕が漂っていた。元の大きさを推測するに大人のものだ。しかもそれは切断されているのではなく、ある場所から生えていた。――水面に張り巡らされた、肉の筋から。
 根元を見ると、生えているのは腕だけではなかった。ほとんど崩れているが、髪の抜け落ちた頭部、濁った眼、かろうじて輪郭だけ残った鼻。顔だ。水を吸ってぶよぶよに膨れた人の顔。しかしそんな状態でも、額に描かれた印だけは、はっきりと読み取ることが出来た。
「逆五芒星・・・・・・? こいつ、悪魔教徒なの?」
 それが、肉の筋に取り込まれていて魔法陣の一部になっている。いや、むしろ、
「ひょっとしてひょっとしなくても、この魔法陣は悪魔教徒の肉体で構成されているのでは・・・・・・」
 ティリーは顔をひきつらせながらそう言って、じりじりと後退する。すでにリゼ達は魔法陣の上に乗っている状態なので水中の悪魔教徒から離れても意味がないのだが、気分の問題なのだろう。引いているティリーの後ろでは、キーネスとアルベルトが話していた。
「しかし、魔法陣を描くためだけにこんなことをしたというのか?」
「神聖都市のスミルナで悪魔召喚をしようと思うなら、まず儀式が出来るほどの穢れに満ちた場が必要なはずだ。たぶん、そのために・・・・・・」
 それだけでなく、悪魔教徒は生贄でもある。だからこの魔法陣は動いていて、悪魔を喚び出すことが出来るのだ。スミルナ全土を飲み込むには至っていないようだが。
「シリルは・・・・・・? シリルはどこにいるんだ?」
 すると、周囲を見回しながら、ゼノが不安げに言った。悪魔教徒が彼女を生贄に使うつもりなら、間違いなくここにいるはずだ。しかし姿が見えない。地底湖は広いので見える位置にいないだけかもしれないが――魔法陣の一部になっていなければ。
「シリルかの確証はないが、あそこに誰かいる」
 すると、アルベルトが中央の黒い渦を指して、そう言った。あそこは魔法陣の中心だ。そこにいるのはシリルか、はたまた悪魔召喚の発動術者か。ともかく、あの渦を浄化してみれば分かることだ。リゼ達は周囲の様子を窺いながら、中心に近づこうとした。
 だがその瞬間、背後から白い閃光が奔った。光は音もなく空を駆け、アルベルトの背を狙う。着弾する直前、アルベルトは振り返り、剣を抜いて光を弾いた。
「アルベルト・スターレン。もう脱獄していたんですか」
 地底湖の入り口を覆う薄い靄が、ゆらゆらと揺らめいた。とん、とん、と革靴で岩を踏みしめる音が響く。空中を漂っていた黒い塵が二つに割れて、さあっと晴れていった。足音が近づき、晴れていく塵の中から一人の人間が現れる。くすみのない白のローブ。金糸で縫い取りされた五芒星。手には銀色の槍が握られている。純白の悪魔祓い師の出で立ち。その白は洞窟の闇の中で、カンテラの明かりを受けてぼんやりと浮かび上がった。
「やれやれ。こんなところにいるとは思いませんでした」
 現れた悪魔祓い師は、アルベルトを見て気取った声でそう言った。