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Savior 第一部 救世主と魔女Ⅳ

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 それでも奴は生きていた。最期の足掻きか弱々しく手を動かし、銛を引き抜こうとする。けれど銛はびくともしない。術師はしばらくもがいていたが、やがて力尽き、動かなくなった。
「やった・・・・・・のか?」
 磔になった術師を見て、ゼノがおずおずと言った。普通なら喉を貫かれて生きていられるはずがない。普通なら、だが。あいにく奴は普通ではない。例え悪魔教徒自身は死んだとしても、奴に取り憑いた悪魔は滅びていないのだ。すぐにでも、あの悪魔を消さなければ。
 火勢が強くなり、燃える帆の焼け滓がばらばらと降ってくる。それを払いのけ、リゼは術師の悪魔教徒のいる方へ近付くと、浄化の術を唱え始めた。手の内に、浄化の光が集まってくる。絶対に逃がさない。あの悪魔を、消してやる。
「危ない!」
 アルベルトの鋭い警告と、右方に勢いよく突き飛ばされたのはほぼ同時だった。状況が分からないまま湿った甲板の上を転がり、途中でなんとか体勢を立て直して起き上がる。そして顔を上げ、立ち上がったその瞬間、目の前に燃えるマストが倒れてきた。
 爆風にあおられ、後ろに吹き飛ばされそうになりながらも、リゼはかろうじて踏みとどまった。ごうごうと燃える炎が視界一杯に広がっている。燃えるマスト以外、炎ではないものが見当たらない。いったいどこへ行ったのだ。アルベルトとゼノは?
 燃え盛る炎に阻まれて、二人の姿は見当たらない。炎の向こう側にいるのか、それとも飲まれたのか。どちらにせよこの炎に阻まれていて確かめようがない。氷霧で炎を薙ぎ払うか。そう思って、術を唱えようとした瞬間だった。
 爆発音と共に船が火を噴いて崩壊した。わずかに漂ってくるのは魔術の気配。爆弾ではない。悪魔教徒の一人が魔術を使ったのだ。おそらく風の魔術を。
 魔術によって引き起こされた爆風は炎を巻き上げ、船を破壊し、リゼを吹き飛ばした。咄嗟に身を守ったため怪我は免れたが、空中に放り出され、浮遊感が身体を襲う。巻き上がる爆風に体勢を立て直す間もなく、リゼは荒波渦巻く海に落下した。
(しまった・・・・・・!)
 ただでさえ潮の流れが複雑な内海。それに魔術の嵐が加わり、海は荒れに荒れている。浮かび上がれない。波に押し流されるばかりだ。
 ルルイリエの時のように魔術を使う間もなかった。重い水に纏わりつかれ、ただ流されていく。水面へ伸ばした腕を掴む者もなく、リゼは暗い水の底へ沈んでいった。