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光と陰、そして立方体

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公園



 電車からの帰り道。大抵の人は大体同じ時間にそこを通る。会社や学校が毎日同じ時間に始まり、そして終わるからそうなるのであって、自分が意図的に同じ時間に通っているわけでなく、自分の果たすべき事柄に合わせた結果そうなっているだけだ。シフトで働く人にせよ、選択する講義のない大学生にしても週単位でみればやっぱり同じだ。
 駅から家までの風景というものは基本的に同じものの連続であって、商店街で声を張り上げる魚屋の大将も、漂う美味しそうな匂いも、人が通ると必ず吠える民家の犬も風景の一つと言えよう――。
 大阪府内のとある町。ここに住む森陰織恵(もりかげおりえ)は同じ道を通ってかれこれ三年。ほぼ毎日みている風景は希望に満ち溢れやって来た19歳の頃と大きく変わっていない。両親にワガママ言って一浪してまで入った大学、専攻は社会学だ。実家を離れて単身上阪、友達にも恵まれ、彼氏も出来て彼女の学生生活は何事も上手く回っていた、少なくとも最近までは。

 ところが今年に入ってからと言うものの、彼女の生活の中に就職活動という、将来を決める大きな作業がかなりのウェイトを占めるようになってきた。周囲が資料請求を始めている頃にまだ遊んでいた織恵はすっかり乗り遅れ、今まで遊びたい放題に遊んできたツケが回ってきたようだ。
 就職活動を始めて大分経つが、あまり好印象を与えたところは現在のところ皆無だ。自分が高望みをしているのか、自己分析が足りないのか、時代が悪いのか……、色々と考えるけど結果が変わる訳ではない。何を考えても現状は「思わしくない」のたった一言で片付いてしまう。
 慣れてはきたけど結果の出ない日々の作業に疲れ果て、アイロン掛けを忘れて皺が寄ったリクルートスーツ姿の織恵はついこないだまでの楽しい日々に気持ちが逃げていた。
 そんな毎日がつまらなくなってきたと思い始めた時の事だった。毎日通る駅からの帰り道、同じ場所でいつも同じ事をしている少年を見かけたのは――。

 駅から家までの途中、駅前の商店街を抜け、戸建てが並ぶ民家を越えたところに小さな公園がある。そこのベンチに座って黙々とルービック・キューブを回している少年がいる。就職活動を始めてからは大体同じ時間帯にこの公園を通り抜けるのだが、気付けば天候の悪い日を除いたら大体毎日そこに座っていて、飽きもせずにカラフルな立方体を回している。誰にも声を掛けられる事なく一人で黙々と――。織恵にしてみれば商店街の魚屋の大将同様に彼も町の景色の一部になっていた。
「子供って何であそこまで飽きずに出来るのだろう……」
 織恵は少年をチラ見して公園の中を横切って通り過ぎた。遠巻きに見ただけなので確認は取れていないけど、そのキューブの色が揃っているのを見たことがない。ま、これも織恵にはどうでもいい話だ。

作品名:光と陰、そして立方体 作家名:八馬八朔