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ひなた眞白
ひなた眞白
novelistID. 49014
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星よりも儚い 神末家綺談1

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お役目様



昼飯を食べて境内に出ると、朋尋(ともひろ)がすでに木陰に佇んでいた。同じ四年生で、村で一番仲良しの幼馴染だ。村の総代たちに用事があるという穂積が草履を履いている姿を見て、朋尋が頭を下げる。

「あ、お役目様!こんにちは」
「朋尋か。こんにちは」
「お邪魔してマース」
「ごゆっくり。行ってきます」
「はーい」

朋尋が笑う。これから伊吹と二人で話す秘密の冒険について、穂積にばれるのを恐れるかのような、そんな笑い方だった。二人で穂積を見送り、境内になる大きなケヤキの木の下に座り込んだ。木漏れ日が落ちてくる。セミが見計らったように一斉に鳴き始めた。

「お役目様忙しいんだな」
「うん。もうすぐ夏祭りもあるから」

お役目様。それがこの村における、伊吹の従祖父の呼び名だった。

神末(こうずえ)家は、村の祭司として、村を守る一族だ。
古くは土御門(つちみかど)家の血を継いでいると聞いているが、幼い伊吹は詳しく知らない。
一族の長は「お役目様」と呼ばれる司祭である。
代々のお役目は、神末家の長男が勤める。女は家の外から婿を取るのが役目だ。

代々のお役目は生涯独身を通さねばならない。
いや、正確に言えば違う。
お役目は、山の神と婚姻するのだという。そうすることで神の力を得て、村を加護し厄災を祓う。山の神は女神だから、家の外から女を迎えてはならないとされており、伊吹の先祖は代々それを守ってきた。
祖母が家の外から来た祖父と結婚し、伊吹の母が生まれた。母も同じように家の外から父を婿として結婚、伊吹を生んでいる。祖父は死に、両親は仕事で村を出ている。ここに住んでいるのはいま、伊吹と祖母と祖母の兄である穂積。そして瑞だけ。

(いつか俺も、神様と結婚するのか)

穂積の跡目として育てられている伊吹は、自分の未来を漠然と感じているのだが、神様と結婚というのはぴんとこない。屋敷には、祖母以外に女はいない。神様が見えるわけがないのだが、穂積の婚姻を疑うことは一度もない。

確かにそれは存在し、穂積に力を与え村を守っているのだ。

神末のお役目は、もう一つあった。お役目様は、常人にはない力を持っている。いわゆる陰陽師としての資質を備え、退魔の力を振るうことができるという。それを行使し怪異を鎮めるのだ。村だけではない。各地から依頼が寄せられるというからすごいものだ。こんな小さな村の小さな神社の神主なのに。

「おーい伊吹よ」

遠くから呼ばれて振り返ると、屋敷の庭から瑞が手を振っているのが見えた。