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化け猫は斯く語りき

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1.『猫の魂』


 吾輩は魔性を帯びた化け猫ではあるが、如何せん空腹なるものには到底太刀打ち出来ぬのである。太刀打ち出来ぬが故に仮初めの主を探すことでヒトトキの安息を得ていたのである。吾輩は永きに渡る経験によって成熟した猫属の姿形よりも赤子に程近い小さな猫属の姿形であった方が新たな主を得やすいということを知っていたのである。吾輩の魂なるものは不滅であるので、所詮は容れ物でしかない肉体など幾ら壊れようと然したる問題ではなく、新たな主を得るためだけに幾度となく自らの肉体(容れ物)を破壊してきたものである。転生を行うにあたっては、わざわざ容れ物を破壊する必要などは皆無なのであるが、容れ物の残骸から新たな容れ物を再構築すれば余計な手間を掛けずにすんなりと事を運べるのである。肉体の破壊には人間が自動車と呼ぶ巨大な鉄の箱を良く利用したものである。

 この日もここらで仮初めの主と宿とを得ようと決め、程よく現れた自動車の前に飛び出したのである。すると何たることか、自動車はまるで吾輩が飛び出してくる事を予め知っていたかの如く動きを止めたのである。されど如何に素早く急制動を行おうともその刹那に全ての動きを消せる筈もなく、衝突した吾輩の肉体を遥か遠方まで弾き飛ばしたのである。
 吾輩の魂はいち早く単なる容れ物でしかない肉体から離れ、その様子を対岸の火事の如きとして眺めておったのである。

 僅かばかり話は逸れてしまうのであるが、肉体から離れた状態を本性(ほんしょう)と呼び、この時ばかりは吾輩も自身の魔性を抑えることが難しくなるのである。理性や知性を失わぬようにするのが精一杯となり、魔性の持つ本来の禍々しさを内内に留め置く事が出来ず、周囲に広げてしまうのである。
 さりとて吾輩も魔性との付き合いは長い。周囲に与えてしまう影響を最小限に止める術を持ち合わせておらぬでもない。どの程度の影響が出るかと云うと、木の枝葉にて羽休めをしておった小鳥や羽虫は我先にと飛び立ち、庭先で繋がれた犬属はその戒めを引き千切らんとばかりに暴れ、鼠属やらその他の害虫と呼ばれる危機を敏感に察知する能力を持つ生き物すべてが吾輩から一直線に離れようと試みる程度である。転生の度に土を腐らせていた頃を思えば随分と控え目になったのではないかと思うのである。

作品名:化け猫は斯く語りき 作家名:村崎右近