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ACT ARME9 ~人と夢と欲望と

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仮面の奥で表情が見えなくとも、声がくぐもっていようともわかる。
この人物は覚悟を決めている。たとえ畜生道に叩き込まれようとも決してひかぬ意志を秘めている。
「自己陶酔でやってるわけじゃなさそうだね。でもぶっちゃけるとそれって現実的に無理な話だよ?
人は欲に生きて、感情で動く生物だ。自分は凄い奴じゃないといやだという自尊心から、相手を見下して卑下したりするし、争う相手がいなかったら自分から仮想敵を作り出して争い出すことさえする。
人は、感情と欲がある限り暴力を振るうことをやめない。
さらに人がこれまで発展してこれたのは、この感情と欲のおかげだからタチが悪い。あんたがどうしても争いを止めたいのなら、人の感情と欲を潰さないといけない。ね?無理ゲーじゃん?」
争いをなくしたくば人の欲と感情をなくせ。
それすなわち人の発展を途中で途絶えさせろと言うルインの発言は、発展の象徴とも言うべき科学に携わっている黒ずくめの男の感情を揺るがす。
「・・・お前は、人の夢と欲を同列に語るつもりなのか?」
「まあ、そんなところだね。夢と欲って何か正反対の印象を受けるけど、よくよく考えてみるとこの二つを分ける境界ってものすごく曖昧じゃない?
少なくとも、僕には違いがわからないね。」
肩をすくめるルインを前に、黒ずくめの男は頭を下に傾ける。それは落ち込んでいるのか、怒りに震えそうになっているのか、はたまた考え込んでいるのかよくわからなかった。
だが、どうやら考え込んでいたらしい。暫くすると再び顔を前に向けた。
「・・・お前の言うことにも一理あるのかもしれない。だが、先述のとおり、私は引くつもりはない。」
決然とした意思を込めた言葉に、ルインも満足そうにニヤリと笑う。
「いーんじゃない?事情はあれど他人を振り回してるわけだし、やるからには最後までやらないと気持ちよくないしね。」
そう言って刀に手をかける。が、ふと思い出したように構えを解いた。
「っと、その前に。結局僕が狙われたのって僕が争いを起こしかねない危険因子だと判断したから?」
この質問に、男はためらいなく頷いた。
「ほら、こういう所で日ごろの行いが返ってくるのよ。」
「自業自得、因果応報ってやつだな。」
「これを機に、少し普段の行動を自重することを心がけるべきでしょうね。」
「ごめんルイン。フォローできないや。」
「お黙れ。」
ここぞとばかりに背後から突き刺してくる野次に、これまで無視を決め込んでいたルインも思わず返す。

「あの・・・」
と、それまで一言も発しなかったハルカが、おもむろに話しだした。
「本当に、その人たちは殺さなければならなかったのですか?もしかしたらあなたの声が届いた人もいたのかも知れません。一度では駄目でも、幾度も声をかけ続ければきっと・・・」
だが、ハルカの訴えは途中で遮られる。
「人の業は深い。一度悪に完全に身を委ねた者が再び正道を歩み始めることはほぼない。彼奴等にとってはそれが当然であり、それが自らの『正義』なのだから。
また、中には道を踏み外していると知りつつ、なおその道を突き進まんとする者もいる。それを外部から止めることはできない。他者の力ではどうにもならない。」
ハルカはその言葉に抗いたかった。そんなことはないと。争うことはよくないと。暴力はよくないと。
しかし、それをするだけの力はなかった。
「でも・・・そんな、暴力をなくすための暴力なんて・・・。」
結局ハルカの言葉は、俯きながら小さくなって消えた。
そんなしょげているハルカを哀れに思ったのか、それともその意思を尊重したのか、黒づくめの男は言葉をつづけた。
「その意思を後生大事にするといい。今はまだその意思を現実のものとする力はなくとも、いつかそれが叶う日が来るかもしれない。今その意思をあきらめるには惜しい。」
それを聞いたハルカが顔を上げる。その頭にカウルの手がポンと置かれた。

「さて、じゃあそろそろ始めようか。の前に・・・」
ルインは次にこれまで一言も発さず、完全に空気と化していたNo.1に目を向ける。
「こう、なんていうかさ。君はどうしてそこまで無味無臭かねぇ?突然僕らが乱入してきたんだから『お前達、どうしてここへ?』ぐらいはフォートの口から聞きたかったよ。うん。」
ルインが言葉を投げかけても、やはり返答は来ない。表情も変わらないから、どう返答すればいいのか悩んでいるのか、返答したくないのかもわからない。
仮面をかぶり、素顔を隠している黒づくめの男より、素顔をさらしているこの男の意思を読み取るほうがはるかに難儀だった。
一向に様子が変わらないNo.1を見て、ルインはため息をつく。
「『殺人機』だったっけ?フォートのあだ名。主の命通りに動く機械人形って?もうさ、バカバカしすぎない?いやマジで。
人造人間(ホムンクルス)じゃあるまいし、フォートは君が今までターゲットにしてきた奴らと同種同類の人なわけ。生まれながらにして欲や感情を持ち合わせてる人なわけ。わかる?」
やはり相手の表情に変化はない。そこに頑なにルインの言葉を受け入れまいとする意固地さすら感じられない。
さらにルインが言葉をつづけようとした時、ルインの横から一歩前に踏み出す影が見えた。レックだ。
「フォート。君はさっき、他のデリーターが現れた時、真っ先にボクを庇ってくれたよね?それはどうしてなんだい?」
この質問に、初めてNo.1の眉が動いた。
「それだけじゃない。一か月前のあの事件の時も、君は廃ビルの中に入るために先行してくれたよね。君がただの捕虜としてボクらにつき従っていただけなら、そんな事をする必要なんてなかった。
それだけじゃない。あのデリーターと対決した理由だって、君がただの殺人機だったら納得できないよ。」
それについては、未だに自分でもわからない。なぜ己はあの時あのような行動をとったのか。
そこには計略や算段など、何一つなかった。気づけば自らの意思とは関係なく体が動いていた。
これまで己の体は己の意思のみで動かしてきた。しかし、あの時は確かに己の体が己のコントロールから外れていた。だからこそそれはイレギュラーだと判断し、切り捨てた。
「君が今何を考えているのかはボクにはさっぱりわからない。でも、これだけはわかる。
君は、フォートは、殺人機なんて呼ばれていい存在じゃない。フォートには、しっかり自分の意思がある。誰が何と言おうと、ボクはそう信じる。」
レックが話している間も、No.1は終始無言のままだった。しかし、そこから感じられる様子は、先ほどより変わっていた。
「だからさフォート。君も一度くらいわがままを言ってみようよ。選択してみようよ。それを咎める人なんていない。さっきそこの黒い人やルインが言ったみたいに、人は欲をもった生き物だから。」
己は人。他人からすれば、それは極々当たり前すぎる言葉なのだろう。だが、己には浮世離れした単語だった。
これまで疑問を抱かず、主の命ずるままに任務をこなす。そのための存在だと思うことさえしないほど、己にはそれが自然だった。
だが、この者たちの中に短い時間だが溶け込み、その中で今までになかった違和感が生まれた。