オルゴール人形の3つの願い
どれほど走ったのか、ついにおじいさんの店にたどり着いた人形は入り口のドアを勢いよく開けて、中へと飛び込んだ。
「おや……おかえり」
おじいさんは出かける時とおなじ、優しい笑顔で人形を迎え入れてくれた。
「おや、息が切れてるじゃないか……そんなにあわてて帰ってきたのかね？」
「………………」
「それで、3つ目のお願いをする気にはなったのかね？」
「ぼくの3つ目のお願いは……」
人形は、姿勢をただすと、おじいさんの顔をまっすぐに見て答えた。
「3つ目のお願い、それは……!!」
……え？
3つ目のお願いはなんだったのかって？
ハハハ、そうあわてずに、耳をすませてごらん。
ほら……今も聞こえるだろ、あのオルゴールの音色が。
トゥリリ、トゥリリ、トゥリリラ、トゥリリララ。
オルゴール人形は今でもあの店のウインドーでおどっているよ。
電池式のおもちゃたちは相変わらず彼のことをバカにするけど、人形にはそんなこと、まるで気にもならなかった。
だって、彼のおどりを見て喜んでくれる人がいるから。
その子のためにおどれることが、今の彼にとっては何よりの幸せなんだ。
ほら、見てごらん。
今日もあの子がオルゴール人形をみつめているよ。
にっこりとほほ笑み、赤いリボンを風にゆらせながらさ。
……おや、雪が降り始めたようだよ。
（終）
作品名：オルゴール人形の3つの願い 作家名：かにす