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オルゴール人形の3つの願い

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 ポンッと、なにかがはじけるような音がしたかと思うと、抱えきれないほど大きな、色とりどりの素敵な花束が人形の目の前に現れた。
「わあ、なんてきれいな花束なんだ……!! おじいさん、ありがとう!!」
「こちらこそ、おまえが喜んでくれてなによりだよ。さあ、最後のお願いを言ってごらん」
「それは……」
「……どうした? まだ何をお願いしたいか、決まってないのかね?」
「そうじゃないんですけど……ねえ、おじいさん」
「ん? なんだい?」
「外に出かけてきてもいいですか? それで、帰ってきたら3つ目のお願いをしたいんです」
「ふむ……出かけるといっても、どこに行く気なんだね?」
「それは……」
 おじいさんにそう言われて、人形は初めて、あの子がどこに住んでいるのか知らないことを思い出したんだ。
 そうだ、ぼくはあの子のことをなにも知らないんだ。
 いったい、どうやってあの子を探せばいいんだろう……?
「……どうかしたのかね?」
 人形は、おじいさんが自分の顔を心配そうに見つめていることに気づくと、胸をはって答えた。
「なんでもないです。大丈夫……必ず帰ってきますから」
「そうかい……おまえの好きにしなさい」
「はい! ありがとうございます!!」
 人形はぺこりと頭を下げると、大きな花束を両手で抱え、店の外へと飛び出していったんだ。

 人形は雪のふる街を、あの赤いリボンの女の子を探して歩きまわった。
 大通りの商店街には、暖かそうな明かりの灯った窓がいくつもあって、人形はその窓をひとつひとつ覗いて回った。どこかにきっと、あの女の子がいるんじゃないか……そんな気がしてならなかったんだ。
 だけど、いくら探しまわっても、女の子の姿は見当たらない。レストランやきれいなドレスを飾ったお店、子どもたちが大好きなおかし屋さん……でも、そのどこにも、あの女の子はいなかった。
 人形は困りはてて、とぼとぼと雪の中を歩き続けた。両手で抱えた花束にも雪が降りつもり、そのままではしおれてしまいそうだった。
 これから、どこを探したらいいんだろう……彼が思いあぐねていた時、誰かが人形に声をかけたんだ。
「おや、おまえさん……あのおもちゃ屋のオルゴール人形じゃないのかい?」
 人形が声の聞こえた方を見上げると、時計台の赤い屋根の上から、真っ白なフクロウがじっと彼を見つめていることに気づいた。
「え? フクロウさん、ぼくのことを知っているのかい?」
「そりゃ知ってるさ。こう見えても、私はこの街のことにはくわしいんだよ」
「へぇ、そうなんだ」
「ところでおまえさん、こんなところでどうしたんだい?」
「それは……その……」
 ふと、人形はフクロウの言ったことを思い出して、こんなことを質問してみた。
「ねえ、フクロウさん……女の子を知らないかい?」
「女の子?」
「うん……黒い髪の毛で、赤いリボンをつけた女の子さ」
「さあねえ……この街にどれだけ女の子がいると思っているんだい?」
「いつも、おじいさんの店の前でぼくのおどりを見ていた女の子だよ。ねえ、知らないのかい?」
「ホゥホゥ……そうか、あの女の子のことかい。それなら知っているよ」
「ホント!? フクロウさん!?」
「ああ……でも、おまえさん、あの子のことを聞いてどうするつもりなんだい?」
「ぼくはあの子に会いたいんだ……この花束をプレゼントして、いろんな話をして、それから……」
「ホゥ……そういうことかい」
 なぜか、フクロウはそういうと心配そうな表情を浮かべる。
「……フクロウさん、どうかしたのかい?」
「いや……なあ、おまえさん、その女の子のことを教えてやってもいいが……ただ、な」
「ホントに!? ……でも、ただって、なんだい?」
「会わない方が、おまえさんのためかも知れんよ」
「それって、どういうことさ?」
「おまえさんの考えているような子じゃないかも知れないってことさ」
「そんなことはないよ!!」
 フクロウの意外な言葉に、人形は大声を出さずにはいられなかったんだ。
「あの子は毎日毎日、ぼくのおどりを見て笑ってくれたんだ。だからぼくはあの子のことを……」
「分かったよ、おまえさんの気持ちは。だからそう大きな声を出しなさんな」
「……ごめんなさい、フクロウさん」
「ホゥ……まあ、しかたあるまい。実際に会ってみれば分かることだからな……」
 そうして、白いフクロウは人形に女の子のことをすべて教えたんだ。

 その後、どれほど歩いたか……ようやく人形はフクロウに教えてもらった屋敷にたどり着いた。クリスマス・イブの夜だというのに、その窓には明かりのひとつも灯っておらず、屋敷はまるで冷たい影の中に沈んでいるようだった。
 そこは、幼くしてお父さんお母さんをなくしてしまった子どもたちが引き取られる屋敷だった。人形は屋敷に入ると、フクロウに教えられた通り、屋根裏部屋へと向かったんだ。
『あの女の子のお父さんとお母さんは、1年前に事故で死んでしまったんだよ』
 人形はフクロウの語っていたことを思い返した。
『それ以来、あの子はまったく笑わなくなってしまったんだよ……いつもまるで魂が抜けてしまったような顔をしていてね』
 ウソだ……そんなはずはない。
 人形は心の中で何度も何度もそうつぶやいた。だってあの子はいつだって笑っていたじゃないか。そんなはずはない……だから、ぼくは、人間になって。
『あの子が笑うのは、おまえさんがあのオルゴールにあわせておどる、その姿を見ているときだけなんだよ』
 それじゃあ、ぼくは一体、どうして人間なんかに……。
 フクロウの言葉通り、女の子は暗い屋根裏部屋にいた。あの笑顔がウソのような沈んだ顔で、女の子はじっと明かり取りの窓の外をみつめていた。
「やあ……ぼくのこと、分かるかい?」
 人形は女の子に声をかけたが、女の子は声を上げるでもなく、黙ったまま、じっと人形の顔を見返した。
「これ、プレゼント……君にあげたいと思って持ってきたんだ」
 人形は花束を女の子に差し出したが、女の子はただ黙って頭を振ると、また、窓の外に目を向けてしまった。
 ふと、人形は古いベッドのそばに置かれたチェストの上に、一冊のノートが開かれたまま置かれていることに気がついた。
 それは女の子の日記帳だった。人形が思わずそのページに目を向けると、そこにはこんな言葉が書かれていたんだ。

『12月22日
 いくら神様におねがいしても、パパとママは帰ってこない
 わたしがいい子にしていなかったから?
 おねがい、プレゼントなんかいらないから、パパとママをかえしてください

 12月23日
 今日もあのお店に、お人形さんのおどりを見に行った。
 いま、楽しいのはあのお人形さんのおどりを見ることだけ。
 サンタさんにお願いしたら、あのお人形さんをくれるかな?
 けど、そしたらパパとママを返してはくれないかな?』

 人形の心の中で、なにかがはじけた。
 彼は黙ったまま屋根裏部屋を飛び出すと、おじいさんのあの店に向かって走ったんだ。
 外は雪と風が強くなって、まるで吹雪のようだったけど、そんなことは人形にはお構いなしだった。