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ラジオ人生相談

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わたしどうしてもあなたに聞いてほしいことがあるの。実はたかしさんのことなんだけど、なんか最近帰りが遅いときがあって、大抵おそくなるときには電話してくれるんだけども、たまに連絡もくれない日もある、わたしそんな時でもちゃんと起きて待ってるの。自分の鍵でドアを静かに開けて入ってくるたかしさんを玄関までいって出迎える、そんな時彼はわたしをみて少しきまり悪そうにするの、でもわたしからなにも聞かないから彼もなにも言わない。
 どこかで飲んできた。スーツのにおいでわかるの、そういうお店のにおい。すこし強くなったたかしさんの体臭に混じってタバコとお酒と夜のお店の匂いがスーツに染み付いてる、ずっと家にいるわたしにはその匂いがとてもいやで、そんなたかしさんがなにか汚らわしいもののように思ってしまう時があるの。でもわたしがいやなのは外で飲んで帰ってくることじゃなくって、だって仕事の付き合いとかいろいろあるんだと思うし、そういう事はしょうがないって思うけど、連絡くらいはしてくれてもいいじゃない。 いつ帰ってくるのか、もしかしたら、もう帰ってこないかもしれない、ひとりで待っているとそんなことばかり考えてしまって、不安でたまらないの、わたしに赤ちゃんが出来なかったことも彼、不満だったんだろうな。こうしてわたしが家でひとりでいるあいだ、たかしさんはわたしには見せない顔をしてどこかでお酒を飲んでいる。   だからやっぱりあの時たかしさんの携帯を見たのは間違いじゃなかった。

  なんの連絡もなく遅く帰ることが続くようになったある日に、飲んできた彼は出迎えたわたしにただいまも言わずに、すぐにお風呂に入ると言い、わたしの顔も見ずにいってしまった。ひとり残されたわたしが玄関に置かれたままの彼の鞄を持ち上げようとしたその時、鞄の中から携帯のメールの着信を知らせる短い振動音が聞こえたの。 その晩わたしたかしさんに何度も電話してたのに、電話は留守電になるしメールの返事も全然なかったんだけど、そうか、たかしさん鞄に携帯入れっぱなしだったから気がつかなかったんだ、彼がお風呂から出たらすぐにわかるようにリビングのテーブルの上に置いておいてあげよう、そう思ってわたしが鞄から携帯を取り出すと、その彼のグレー色の携帯のメールの着信を知らせるランプが点滅していたの。わたしは今まで彼の手帳や携帯を勝手に見るなんてことなかったから、すこし迷ったけど、でも着信のランプが点滅するのを見つめていると、わたしの目にまだ残っている、さっき彼が帰ってきた時に見せたばつの悪そうな、それなのにどこか開き直った態度でわたしを見た、あの顔がわたしにそのメールを開かせたの。

 携帯勝手に見て彼おこるだろうなって思ったけど、届いていたそのメールが アキという知らない名前の女の人からだったから、わたしは廊下に立ちすくんだまま、その女の人からのメールから目をそらすことができなくなってしまったの。そのまま玄関で彼のメールボックスをすべて見ている間、どの位の時間が経ってたのか、お風呂から出てきたたかしさんが廊下で携帯を見続けるわたしに気づき、なにか言おうとしてたみたいだったけど、わたしはそのまま彼の前でその浮気相手からのメールを読みつづけていたの。

 結局その女の人からのメールはきちんと保存してあるだけでも5件はあった。日付はちょうどわたしが流産したあとから始まっていて、消去したのもあったかもしれないけど、ぜんぶ同じ人からのだった。問いつめるわたしにたかしさんは、仕事仲間とたまに行く店の女の人からだからって、別に何でもないって、ただそれだけ、別に取り乱したり、言い訳したり、そんなこともせずに、わたしが彼の携帯勝手に見たことにもただ、心配することないよって言うだけで、それ以上なんにも言わない。

わたしが流産したときと一緒、あの時もなにも言ってはくれなかった。初めての妊娠だったからすごく不安だったけども、たかしさんはすごくよろこんでくれて、付き合ってきて初めて彼に対して少し誇らしいような気持ちになったの。 でも7週目になっても心音が確認出来ずに、エコーの結果、赤ちゃんのはいるはずの部屋がからっぽだってわかったの。お医者さんは初めての妊娠だしよくある事だって言ってたけど、わたしは悲しくて、それに彼に対して申し訳ない気持ちでいっぱいだった。手術をした後、彼はわたしのからだを気遣ってくれたけど、子供が出来てなかったことは避けるように、なにも言わなかった。

 お休みの日にもたかしさんから、あのいやな匂いがする時がある、普段着でいる彼のからだから、あの夜のお店の匂いがする、そんな時にはリビングに飾ってある写真立ての中の、結婚前のふたりが、まるで他人のように思えてしまうの。信じなきゃって思っても、あのメールの女の人のことが頭から離れない。たかしさんに、どうしてって聞きたい、もうわたしはたかしさんのとなりにいないのかな、あの写真の中のふたりはどこへいってしまったのかな。寝る前、まぶたのうらに、たかしさんと女の人が一緒にいる姿がみえる気がして、こわくて目を閉じたくない。
あの日から、考えたくないことばかり思いえがいてしまう。
たかしさんはその人のことをなんて呼んでいるのだろう。

 いかないで欲しいって言わなきゃ、このまま何も言えないままでいたら、何もできないまま彼はわたしから離れていってしまう。この部屋でただ彼の帰りを待つことしか出来ないわたしはなにも出来ず、いつか本当に彼がこの部屋に帰ってこなくなる日がくる、でもそんな事をたかしさんに言ってもただやさしく否定するだけで、それで終わりなのはわかってる。だから、その女の人にもう会わないで下さいって言わなきゃ、たかしさんをとらないでって。 

 最近ひとりでいる間、いつもラジオをつけているの。そうしてるとひとりぼっちじゃないような気がする、他にもひとりでこれを聞いてる人がいっぱいいるんだろうなって想像すると気がまぎれるっていうか、誰かの声が聞こえるとちょっと安心するの。 それに悩みとかを相談する番組とか聞いてると、自分自身の不安を少しのあいだ忘れられる、会ったこともない他人の悩みをわたしも一緒に考えてみたり、そんなことをしてひとりを過ごしてる。
もしかしてわたしも相談してみたら、ちょっと勇気がいるけど、話を聞いてくれるかな、たかしさんよりは、なにか言ってくれるかな。

作品名:ラジオ人生相談 作家名:MF