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赤い涙

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1.見知らぬ洋館



M県I市
(あれ、こんなところに家なんかあったかなぁ…)
昂(たかし)は学校に行く途中、高台に今まで見たこともない家が忽然と建っているのを見つけた。いくら昨今家を建てるスピードが上がったとは言え、一朝一夕に家は建つものでもないし、またその建物はつい最近出来上がったような感じではなく、出来上がってから100年ほども経っているかのような洋館だった。
(まぁ、どうでもええけどな。)昂はそう思いながら自転車で通り過ぎようとした時、庭に続く窓が開けられ、自分と同じくらいの一人の少女が出て来て、昂に向かってにこりと笑みを浮かべて会釈した。
「おはようございます。良いお天気ですね。」
「お…おはようございます。」
(か、かわいいやん…)白く陶器のような肌に、長いまつげ、黒目がちな瞳…昂は思わず自転車を止めて挨拶を返した。しかし、挨拶をした後少女は、昂の方を見向きもせず、ただ広々とした庭に黙々と水を撒いている。
(自分から声掛けといて変な奴やな…)と昂は思った。
「なぁおたく、最近引っ越して来たん?この辺に家なんかなかったはずやけど。」
「そうですか?私はずっとここに住んでいますが。ただ、3か月以上前の事は分からないです。でも、お兄ちゃんに引っ越ししたとは聞いてませんし。」
少女はそう答えた。それは、この地方の言葉でもアクセントでもなかった。
「分からん?」
「それまでの記憶が私にはありません。」
昂の質問に少女はそう答えた。(記憶喪失なんか…そんならしゃーないけど、俺の方の記憶違いなんかなぁ。ここに家なんかなかったと思うんやけどな。)少女にそう聞いても昂は何となく釈然とはしなかった。
(ウソはついてないみたいやけど)と意識を集中させる。そして…昂は愕然とした。いくら意識を寄せ集めても、少女の感情が全く…断片すら流れてこなかったのだ。
昂は人の心が読める。普段は他人の感情の起伏に振り回されるのが嫌で、意識して読まないようにカギをかけているぐらいだ。それでも、多感な時期のクラスメイト達の心はそんな昂の努力も効かないことがあるくらい感情を爆発させることが多いというのに。
少女はどう見ても中学生以下ではなさそうだ。
あるいは自分と同じ高校生か…
(そんならこいつ俺とおんなじ能力者なんか?)昂はまじまじと少女を見た。
 「樹(いつき)、樹?どこにいる?」
その時、家の中から声がした。
「お庭です。」
その樹という少女の声を聞いて、家の中から二十歳位の青年が出て来た。
「ダメじゃないか、断りもなく表に出ちゃ。」
青年はそう言うと、樹の頭を優しくなでた。
「お兄ちゃん、今はお花に水を上げる時間です。」
青年のその言葉に、樹はそう答えた。しかし、自分の兄なのだろうに、その口調はどこか事務的なように昂には感じられた。
「あ、そんな時間か…でも、外に出るときはちゃんと言ってくれないとな、心配するからさ。」
「はい、解りました。」
そんな樹に青年はまるで小さい子に諭すように言い、樹はそれに対して事務的に答えた。
昂は今度はその青年に意識を集中させてみた。しかし、青年の心も全く読めない。
(もしかしたら、俺の能力の方が突然消えたんかも?!)日ごろこの能力について苦々しく思っているのにもかかわらず、焦っているのが、昂は自分でも不思議だった。
そして、尚も意識を集中させると、少し離れた方から誰かの“声”が聞えた。
(駄目、もう遅刻する!)
そして、その“声”のする方を見ると、自転車を漕いだ女生徒が血相を変えて走ってくるのが遠くに見えた。
(あの子の“声”はあの距離で聞えてくるのに。やっぱり俺がおかしい訳やないんや…)
昂はホッとして再び兄妹を見てギョッとした。いつの間にか樹の兄が自分に気づいて自分の事を睨んでいたからだ。普段は殺気の方が先に自分の処にやってくるので、それから顔を見て確認する感じなのだが、顔見るまでそれに気付かないでいたのは初めての経験だった。
「君はここで何をしてる!」
続いて昂は彼にそう言われた。それで昂はペコっと軽く会釈して、
「あ…俺、I高2年の根元昂です。ほんで、変なこと聞くみたいですけど、ここに前からこの家ありましたっけ。」
と尋ねた。すると、彼は先ほどよりさらに嫌悪感を強めた目で昂を睨み上げた。それほどの目をしているのに、彼の感情は些かも昂のところには流れては来なかった。
「僕たちは生まれた時からここに住んでいる。」
「えっ、ホントに?昨日までここには家はなかったと思うけど…」
しかし、その言葉に昂はぼそっとそう返してしまった。
「失敬な!住んでいる僕たちが言うんだから、ウソなんかじゃない!」
そんな昂の言葉に相手は明らかに狼狽えた様子でそう叫んだが、焦りはやはり伝わってはこない。
やっぱり同じ能力者なのかもしれない。
(せやけど、失敬なって、ちょっとおっさんくさいしゃべり方やな。)昂はそう思った。
「それより君、制服姿のようだが、学校は?」
続いて昂は彼に時間を指摘されて時計を見た。
「あ…」
もうすぐ授業が始まる時間だった。
(そう言うたら、さっきの女の子も遅刻する!って思いながら自転車漕いでた!やばっ、俺も完全に遅刻やん!)
「早く行かないと、遅刻するんじゃないかね。早く行きたまえ。」
彼は苦々しげにそう言った。
「あ、ああ…どうも…」
昂は自転車に跨ると、去り際に、
「ねぇ、君なんて名前?」
と樹に尋ねた。
「私は、笹川樹です。お兄ちゃんは笹川京介です。」
樹は素直にそう返事した。
「樹、見ず知らずの奴には名前なんか教えなくて良いんだ!」
すると京介は、樹に向かってイライラと声を荒げた。
「お兄ちゃん、聞かれたことには答えなきゃいけません。」
それに対して、樹はそうたしなめた。感情のこもらない言い方ではあったが、それでも昂には樹が自分を味方してくれているようで小気味良かった。そして昂は、軽く会釈だけすると、慌ててその場を去った。
(そうか、笹川樹ちゃんって言うんかぁ…)
昂の目には、その場を去った後も樹の顔がずっと焼き付いていた。

作品名:赤い涙 作家名:神山 備