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ゾディアック 4

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~ 25 ~


ピンポーン・・

インターホンを覗くと ラムカが立っていた。
「 こんにちは、どうぞお入り下さい 」私はドアを開けた。
ラムカは どこか落ち着かない面持ちで入って来た。「 ・・お邪魔します。今日はよろしくお願いします 」
応接間に通し ソファーに座ると、キョロキョロと部屋を見回していた。
「 全部真っ白なお家なんですね・・ 明るくて、気持ちが落ち着きます・・ 」
まるで自分に言い聞かせるように言った。
ラムカの白い顔に サンキャッチャーの虹が当たり光っていた。彼女はとても疲れている様子だった。

「 ホットストーンの準備が出来ましたので どうぞこちらへお入り下さい 」私は 隣の部屋に案内した。
ラムカはソファーから 立ち上がると「 あら、時計が・・ 」と壁を見ながら言った。
壁時計が 5時15分を指したまま止まっていた。
「 ああ、今朝から止まってたんですね・・ 気が付きませんでした 」私は言った。

515は、錬金に関わる数字だ。
蝶になる前の蛹が、ドロドロになり1つの死を体験するように
何かが変わろうと・・ 時が止まっていた。

コンコン!ドアをノックした「 ご準備はよろしいですか? 」「はい、どうぞ・・」小さな声がした。
中に入ると、白いシーツに横たわるラムカの身体は、陽の光を浴びた 白い陶器のような美しさだった。
滑るようになめらかな肌は 石の熱とオイルを吸収して、ピンク色に紅揚した。

ドックン・・ドックン・・ 彼女の心臓の音を感じる、
血管を流れる血の音・・ 皮膚・・肉・・血流・・骨・・ 私が今触れているのは、
もっと下のもっと奥深い場所へ・・

私の眉間に クルクル回る光る菱型が浮き上がり 後頭部に突き抜けて行った。
静かな無音の美しい音、ナディアの世界へ・・
私が触れているのは・・ ラムカが本当に存在する場所

眩しいフラッシュバックが起こった。
暫くして、暗い部屋が現れた。息の詰まりそうな圧迫感
「 う・・うっ・・ 」 呻き声が聞こえた・・ 泣いているのか?
そこは納戸で、物を納める場所だった。人間が入るスペースはない・・
彼は、その狭い空間に押し込められていた。
真っ暗な闇の中、手足を縛られ・・ 極限状態の恐怖に耐えきれず 呻きもがいていた。

彼は陰謀に嵌められた・・ 美しく華麗で洗練された彼の人生は、誰からも羨望の的だった。
それは、いつしか 妬みの対象となっていった。
欲に塗れ 醜く太り堕落した貴族達を 彼は心の中でブタと呼んでいた。
そんな貴族達の裏をかく秘密裏のやり取りは、彼にとって最も甘美で スリリングなゲームだった。
彼の華麗な裏の社交界は 今、幕を閉じようとしていた。

最期の一夜は、永遠程長く感じた。 
狂気と死の狭間で、唯一彼が心に留めていたのは・・ 秘密の地下部屋に残された 煌びやかな宝物や書物だった。
突然、扉が開き、髪を掴まれた。 狭い暗闇から、いきなり眩しい広間へ引きづり出された。
「 ヒイーーーツ!! 」彼の目は血走り 身体には無数の暴行を受けた痕があった。
もはや 美しい面影は微塵も消え、手足を縛られ狂気に満ちた囚人が転がっていた。
彼を取り巻いて見つめるブタ共がいた・・
羨望が妬みへと変わり・・ いつしか憎しみ憎悪へと変容していく 


「 疫病よりも恐ろしきは、人の心・・ 」誰かの声が聞こえたと同時に

いきなり私の視点は、彼自身になった。
体中の毛穴と血管が開き 凍りついていくのが感じられた。心臓の音が耳鳴りのように頭にガンガン響いた。
目をカッと見開き、自分を見下ろすブタ共を凝視し見上げていた。縛られた手足は痺れ、もはや感覚は無くなっていた。
私は・・ 殺られる。 絶望感と恐怖に押しつぶされ息も出来ない・・

「 殺れ!殺っちまえ! 」「 ザマアミロ!!! 」吐き気がする程の狂気と憎悪が 一気に私を包んだ、その時
ドン!!!と鈍い音がして、私の視点は 冷たい床に転がった・・
ブタ共の姿がグルグルと回って・・ そして消えて行き やがて真っ暗になった。


「 疫病よりも恐ろしきは、人の心・・ 」 また声がした。


誰・・? 暗闇の中 ・・ポウッと光る羽根が落ちて来た。
月光の羽根・・ ルシフェル



気が付くと、私はラムカの背中に手を当てていた。
「 そうだ・・ ラムカのタッチセラピーをしていたんだ・・ 」綺麗な白い肌にオイルが光っていた。
ふと見ると、首に一直線状の湿疹のような痕があった。「 ここ・・ オイルが染みて痛くない? 」私は聞いた。
「 ああ、大丈夫です。ちょっと前から現れて・・ 病院に通ってるんだけど、どうしても消えないの。
原因不明で・・ 時々そこが疼くの・・ 」ラムカはウトウトしながら言った。

前世の傷跡だった。 首を落とされた時の・・

キイイーーーーー!!! 悲鳴か・・金属音か・・分からない切り裂くような音が鳴り響いた。
ラムカの白い上半身を、見る間に黒い煙のような影が 取り囲んでいく
彼女のマインドと肉体レベルは 未だ、あの忌まわしい過去に囚われたままだった。


彼女の身体は ビクビクと小刻みに震えた・・ 流れていた音楽が 急に止まり
キュルキュルと早送りに流れては、また止まるのを繰り返した。
黒い影は、ラムカの身体全体を包み 浮きながら部屋に広がっていった。
バチッ!!バチバチッ!空気を切るラップ音が鳴り響いた。

ドックン!ドックン!ドックン!・・ 私の鼓動と振動は 速く波打ち1つに重なった。
眉間が燃えるように熱くなり、キーーーーン・・ 眩しい光に包まれた。
気が付くと、私は闇の中に跪いていた。


「 人間だけが判っていない・・ 」私の口から誰かが言った。


闇の中に、うっすらと横たわる 白い屍があった
私は それに向かって話しかけていた。

「 外に見えるものは 幻、掴もうとしてはいけない・・ 」

「 幻・・ 掴もうとしてはいけない・・?」死体が語った。

「 器を満たすんじゃない・・ 光として満ちている。状態として存在するだけ 」

「 ・・・ 」

「 おまえの状態としての光へ・・ 」私は死体に 手を差し伸べた。

キーーーーン!光る菱形がクルクル回り・・ 肉体の下に流れる血流の音がして、ドックン!ドックン!ドックン!
血管の中を遡った。螺旋と幾何学模様の浮かぶ血の宇宙をどんどん遡って行った。
再び眩しい光がスパークし・・ 映像が現れた。

ランプの灯りの中 若い男が1人、長椅子に腰かけ 本を読んでいた。
彼の周りには コレクションで集めた 外国の珍しい宝物がひしめき 煌びやかに光っていた。
彼は 美しい芸術品や宝物に囲まれた秘密の部屋で 1人ワインをくゆらしながら、想いを馳せるのが至高の楽しみだった。
開かれた窓からは、真夜中の美しい星空が見えた。
風を感じ、オリオンの輝きやシリウスを眺め、遠い異国の地に心を飛ばした。

「 私がもし健康な身体だったら・・ あの海賊のように、海を越え 何処までも夢とロマンを追って冒険の旅をしただろう 」
彼は身体が弱く 父親の望む宮廷騎士にはなれなかった。しかし むしろ彼自身がそれを望んでいた。
作品名:ゾディアック 4 作家名:sakura