小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

ゾディアック 2

INDEX|1ページ/7ページ|

次のページ
 
~ 9 ~


どれくらい俯していたのだろう・・
着信のバイブが鳴り 携帯が光った。私はハンドルから顔を上げた。
ナアナからだ。
「 マリオン!カラスが・・ずっと車の前から離れないの!振動も凄くて、頭が割れそう! 」ナアナは泣きそうな声だった。
ナアナにも私と同じ現象が起こっていたのだ。そうだ、私にはまだナアナがいた!涙が溢れた

「 大丈夫だよナアナ!そのカラスはクマラの象だよ。私達を導くヤタガラス 」私は強い声で言った。
「 え?女神島でコミュウのお父さんが言ってたカラス・・?
どんな暗い闇の中でもいち速く飛び、行く先を導くって言ってた・・ 」

「 そうだよ!どんなに見えない意識の闇の中も 概念に摑まらず私達を導く、女神の遣いだよ。
マインドに負けないで!ナアナ!私がずっと一緒についてるよ! 」私は叫んでいた。
それはまるで、自分自身に言い聞かせているかのようだった。負けないでと・・


助かりたい者は 助からない。状態の次元では 助からないを選んでいるから
助けたい者は もう助かっている。状態の次元では 助かるを選んでいるから・・

声がした。

意識が分かっていなくても 私達の本質は分かっている「状態で存在している」
意識のやることなど 全てその道のりに過ぎないのだから・・
ここは意識の闇の世界。外に閉じ込められた五感。

頭は使ってるだけ・・
頭は使ってるだけ・・


女神島の闇の戒壇で聞こえた アリエルの囁き声が・・ 私の中で呼霊のように繰り返し響いていた。
私はクマラの香りをもう一度深く吸い込むと、目を閉じ オイルの一滴を眉間に塗った。
不思議と耳鳴りも振動も治まり、静かな無音の 美しい音の中にいた。
まるで女神島の観音寺院にいた時と同じ・・ 無音のナディアの中に
そこは私達が本当に存在する場所。観音と呼ばれる次元

相対の闇 状態の光
観音とは 感じる私達の内なる宇宙、状態次元。そこは天使界と繋がっている。


「 マリオン、私も負けないよ!!今メリエスて人の家に向かってるの。彼女はチャネラーでいろんなものが見えるんだって。
また何かあったら連絡するね! 」そう言うとナアナは電話を切った。
「 チャネラーて・・ イタコみたいな人の事・・? 私達を理解してくれるかもしれない 」私は思った。



サロンに着くと、何かざわめき立っていた。スタッフ達の目線の先には 店の片隅に膝を抱えてうずくまるカヨの姿があった。
彼氏とうまくいってないらしく 最近ずっとふさぎ込んでいた。
元々は明るく元気で健康的な女の子だが、一途な娘で思いつめると大変そうだった。

コミュウと店長のミオナが何か言い争っていた。
「 プライベートなトラブルを仕事に持ち込まないでもらいたいわ。私だって家が裁判で大変だけど頑張ってるのに! 」コミュウが言った。

コミュウの家は 新しく引っ越してきた隣家と今 土地の境界線でトラブルになっているらしかった。
皮肉にもコミュウのお父さんが話していた国譲りの神話さながら 領地をめぐる争いだった。

「 カヨは皆と一緒に仕事もちゃんとやってるわ。気分が悪いから休んでるだけじゃない!和を乱さないでコミュウ 」
ミオナがむきになって言い返した。
確かに・・カヨの沈んだ姿をいつも目にするのは 少なからず周りに影響を与えていた。
特に家でトラブルを抱えているコミュウにとっては、店でも沈んだ顔を見るのはイラつく事だったろう
ミオナは店長として事を荒立たせず そっとしておきたいのに、あえて指摘するコミュウに腹を立てていた。
2人は犬猿の仲だ。

私は カヨの側に座り声をかけた。
「 どした?カヨ、彼氏とはその後どう? 」

皆が腫物に触るようにカヨに接する中
聞きにくい事をダイレクトに言う私に 周りが引いていくのを感じた。
固唾を飲んで皆が見守る中・・ カヨは顔を上げ、蚊の鳴くような声で言った。
「 もうダメです・・ 」泣いた目は真っ赤に腫れ あまり寝てないようにも見えた。
今朝の私のようだ・・ と思った。

「 大丈夫だよカヨ、どういう状況になってるの? 」私が聞くと
「 彼氏は・・ 人間不信で人を信用出来ないんです・・ 私の事も・・ 」カヨは声を詰まらせながら語り始めた。

2人は1年前に出逢いつき合い始めたが、彼氏は人間関係が苦手で引きこもりぎみ
常にイライラしてカヨに当たるらしかった。
「 どうせお前は俺から立去る 」口癖のように吐き捨て、カヨと口論になった。
どんどん落ち込んでいくカヨを見て、カヨの友人達は口を揃えて
「 そんな男とはさっさと別れてしまえ! 」と言った。

でもカヨは彼を愛していた。
「 私はあなたを裏切る事などないわ!決して。どうして私を信じてくれないの? 」
カヨの心の叫び声が聞こえた。
その時 暗がりに蹲るカヨの頭上に 青い光がスパークした。

「 何? 」私は面喰って、瞬きをし もう一度カヨの頭上を目を凝らして見つめた。
カヨの後ろの暗い壁に ホログラムのような画像が浮かび上がってくるのが見えて来た・・
まるで映写機の映像を見てるようだ。私は目を擦り もう一度よく見た
西洋の甲冑に身を固めた1人の騎士が 馬に乗ってポクポク夜道を歩いていた。
まるで映画のワンシーンのようだった・・

私は唖然としてそれを見つめた。手を伸ばし触れてみたが・・ 画像は透け 私の指先は後ろの壁を触っていた。
その映像はまるで、目の前で小さく震えるカヨの身体から発せられるオーラのようだった。

無声映画のような その騎士は愛する者の待つ場所へ帰る途中だった。
彼は瀕死の状態だった・・ もうろうとする意識の中で ただひたすら星を目指し歩いていた。
私は何故か その騎士の気持ちが解った。


アイシテイル・・ アイシテイル・・ アイシテル・・
マッテイテ・・

彼の心の声とカヨの心が重なった。
「 カヨの前世だ! 」私は言った。すると騎士の画像は煙のように消えた・・
「 カヨ!あんたの前世が見えたよ !」私はカヨの背中を強く揺すった。
カヨはボロボロの顔を上げて私を見た。

「 カヨ、あんたと彼氏は前世からの繋がりで 今出逢ってるんだよ!! 」
「 前世・・? 」カヨは力なく言った。
「 そうだよ!中世の騎士の映像が見えたよ。
あんたは男だった。彼氏はたぶん女だ。あんたはその彼女の元へ帰ろうとしてた・・ 」
私はカヨの肩を抱いて言った。

「 私が男で、彼が女? 」
「 そう、彼女は・・彼女は・・ 」キーーーン・・
私はカヨの中に眠る騎士の心を読もうとして
もう一度目を閉じた。

眉間に クルクル回る光る菱型が浮き上がるのを感じた。夢でイシスが現れた時と同じだ。
カヨの背中に触ると ドックン!ドックン!ドックン!!
カヨの鼓動を感じた。

心臓の音・・血管を流れる血の音・・私が今触れているのは、皮膚・・肉・・血流・・骨・・
もっと下のもっと奥深い場所・・私が触れているのは・・
カヨが本当に存在する場所。

光る菱型は更に高速回転し 眩しさが増して行くと
私の眉間の奥は透き通って 後頭部に突き抜けていくような感覚に襲われた。
作品名:ゾディアック 2 作家名:sakura