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かざぐるま
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欲望の方舟 ~選ばれしモノたち~

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 博士は立ち上がるとプロジェクターの前までトコトコと歩いて行った。エターナルの外郭の海辺に配備されているL・D・Fを指し示すと、片手で白い髭を触りながら話し始めた。
「この装置は空からの核爆弾やミサイル攻撃に対し、レーザーでドーム状に島全体を覆い、攻撃を無効にするという優れものじゃ。しかしまだ問題点もある。放射性の大気を完全に遮断する時間が限られているのじゃ。今の技術じゃ三年が限界だろう」
 博士は淡々と続ける。
「電力供給は今のところ問題ないのだが、資金さえあれば更に性能をあげられる。それが一番の課題じゃな」
「博士、ありがとうございました。では次に吉永愛里さんから報告があります」
 愛里は立ち上がると太田に気付かれないように、博士に軽く目配せしてから発言した。
「皆様ご存知のように、父はMICの代表です。MICの社員と家族の入国を無条件で認めるということを条件にエターナルに資金提供する用意があります。この後エターナルの産業に大きく貢献したいと父が申しておりました」
 どんっ!
 机をたたく音が鳴り響く。
 全員が一斉に音がした方を見ると、太田が真っ赤な顔で愛里を見据えていた。
「愛里! 建前はもういい。博士との取引についての情報は入って来ている」
 太田は興奮して続ける。感情をあまり表に出さない太田の変貌ぶりに、広報室がざわざわしだした。
「俺がその取引を知って、L・D・Fの開発の邪魔をしたり、代わりにシェルターにメンバーだけ入れろと言うと本気で思ったのか? 独立宣言した瞬間からエターナルは家族だ。収容人数は何人か知らんが、数百万人が入れるとはとても思えない。俺は博士のL・D・Fを信頼しているし、何としてもエターナルという家族を守る。もうレジスタンスだけの問題じゃないんだ」
 愛里の前にゆっくり歩いてくると、太田は落ち着いた声で続けた。
「俺が何より気に入らないのは、『君が』隠し事をしたことだ」
「……黙っていてごめんなさい。これからは全て話すわ。あのね、博士はただ、L・D・Fをより良い物にしたかっただけなのよ。これは博士と試算した結論だけど、このままでは本当に安全といえる物は作れないわ。だから資金提供の話は、前向きに考えて欲しいの」
 唇を震わせながら太田の目をまっすぐ見る。
「分かった。那智博士、お聞きの通り必要な資金の概算を後で提出して下さい。私が直接社長と交渉します。では、今日の会議はいったん終了します」
 少し決まり悪そうに博士が広報室を出たあと、愛里と太田を残して皆出て行った。
「愛里、エターナルで隠し事はいけない。さっき言ったようにみんな家族になるんだ。不透明な部分があると、『日本と同じ道』をたどってしまう。せっかく独立した意味が無くなってしまうんだよ。分かってくれるか?」
「うん。ごめんなさい。実はあとひとつ、隠していた情報があるの。驚かないで聞いてくれる?」
「ん、たいていの事にはもう驚かないよ」
 先ほどの怒りが嘘のように穏やかな声だ。
「今月の二十五日に北朝鮮の核ミサイルが発端で、報復核戦争が始まるわ」
「……それは確かか?」
 目を丸くしたが驚かないと愛里に言った手前、静かな声で聞き直した。
「ええ、これは確かな情報よ。カウントダウンはもう始まっている。博士との取引を急いだのもそのためよ。これも早く言うべきだったわ」
 愛理は申し訳なさそうに眼を伏せた。
「もう二十日と少ししかないじゃないか。……これは日本国からの攻撃なんて心配している場合じゃないな。よし、これから博士と連携して対策本部を設置する」
「ええ。でもエターナルの住民にはまだ話さない方がいいと思う。万が一L・D・Fの情報と二十五日の情報が日本国に漏れたら、エターナルへの人口流入で数日のうちにこの国の人口が飽和する可能性があるわ。住民全員に箝口令なんて敷けないし」
 全てを太田に話したことによって、彼女はずっと肩にのしかかっていた重りがとれたかような優しい表情になった。
「とにかく時間が足りない。最優先でエターナルを守る準備を始めなきゃな」
 愛里の肩を優しく叩くと、太田は小走りに広報室から飛び出して行った。
こうなってからの太田は本当に頼りになる。飛び出して行く彼の背中を見て、(彼なら何とかしてくれるだろう)と愛里は疑わなかった。