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七ケ島 鏡一
七ケ島 鏡一
novelistID. 44756
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グランボルカ戦記 7

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皇子の帰還




 アストゥラビからセロトニアを経由してアレクシスとエドがアミサガンに戻ったのはアリスとシエルが出奔してしばらくした後だった。
 長旅を終えて戻ったアレクシスとエドはメイからカズンの死とアリスとシエルの出奔、そしてそれにまつわる事の顛末を聞いて頭を抱えた。
「なんでこう肝心なところで考えが浅いんだ、アリスは・・・。」
「シエルもシエルだ。そういう事情ならきちんと言ってくれればこっちで処理したのに。」
「んー・・まあ、シエルは昔から汚れ仕事やってくれていたからねぇ・・・いつもの感じで片付けられると思っていたんでしょ。今回の件は、アリスを仲間に入れなきゃバレずに済んでいた話だしね。事後報告で皇子様に話して終わるつもりだったんだろうけど当てが外れちゃったってわけさ。」
 そういってメイが笑いながら肩をすくめるが、エドは険しい顔でメイをにらむ。
「・・・昔から汚れ仕事をしていたって、何?私そんな話知らないんだけど。」
「まあ、エドもいい年だし、そろそろ話をしてもいいかにゃ。現実っていうのは御伽噺じゃないからね。みんながみんなリシエールの再興を望んでいるっていうわけじゃないし、中にはあんたとユリウスの所在を売ろうとする旧臣もいたわけよ。汚れ仕事っていうのはそういう輩の始末。」
「私にもユリウスにも黙ってそんなことをしていたの?」
「ま、ね。どこの国だってやってることでしょ。ねえ、皇子。」
「・・・なんにしても僕やエドの指示もなしにやるべきことじゃなかった。何らかの工作をしないと二人は戻れないぞ。それに、工作をするにはリュリュにも話をしなくちゃならない。まさかフィオリッロ卿までこんなことに加担するとは、本当に残念だよ。」
 メイの質問には答えずにアレクシスはそう言ってため息をついた。
「面目しだいもございません。」
「カズンが死んでしまっただけでも相当な痛手なのにアリスまで・・・。それにルーにも何らかの罰を与えないとならない。クロエも顔には出してないけど相当無理をしているみたいだし。」
 イライラとした表情を隠そうともせずにアレクシスが頭を掻く。
「まあ、寄せ集めの軍隊だったからね。これはまあ仕方のない、想像できた結果と言えば想像できた結果。確かにアレクの切り札とも言える4人が4人とも戦線離脱っていうのは非常に厳しいけれど、それでもこれはいい機会とも言えるわ。」
 それまで黙って話を聞いていたアンドラーシュがそう言ってアレクシスとエドの顔を見た。
「いい機会?いったいこの状況のどこがいい機会なんですか叔父上。いくら叔父上でも適当なことばかり言われるのであれば怒りますよ。」
「失礼しちゃうわね。適当にこんな事言っているわけじゃないのよ。先日グラール殿とも話をしたしリシエール側の代表団とも話をしたの。」
 そこでひとつ咳払いをしてから、グラールと目でうなずきあうと、アンドラーシュは改まった声で言った
「あんたたち・・・いや、お前たちそろそろ結婚しろ。」



「お前ら本当にいい加減にしろよ!揃いも揃って友達いなさすぎだろう!」
 そろそろ寝ようかと思いベッドを整えていたところに、3分と間隔を開けずに部屋に現れたアレクシスとユリウスに向かってレオは叫ぶようにそう言った。
「しかしな、レオ。叔父上が突然あんなことを言い出すものだから、僕は一体どうしたらいいのか。」
「そうだ。姉さんがいきなり皇子と結婚だなんて、僕だってどうしたらいいのかわからない!」
「じゃあ、それをお前ら二人で話し合えよ!俺を間に挟むなよ!俺は約一月、アレクとエドの護衛でクタクタだ。休暇だって明日と明後日の二日しかない。しかも明日はソフィアに拘束されるから自由に動けるのは実質明後日だけだ。明日の朝だって早い。なのにだ、男二人が部屋に来て泣き言を聞いてくれと言ってくる。なあ、俺はいったいいつ休めばいいんだ?」
「そうは言うけどなレオ。僕だって一人で悶々と考えたんだ。エドのこととか、色々さ。」
「僕だってそうだ。アリスの事や姉さんの事を色々考えていたら眠れなくなったんだから。」
「そうだろうさ、そうじゃなきゃこんな夜中にやってこないだろうさ。もう夜中なんだ。だから俺はそういう事は当事者同士で話し合えって言ってるんだ。一応言っておくぞ、今回俺が結婚するわけじゃないし、俺の身内が結婚するわけでもない。色々あってこの街を出て行ったのも別に俺の家族というわけじゃない。アリスさんには世話になった部分もあるから無関係とまでは言わないけれど、彼女を信頼しているという意味で別に心配する必要もないと思う。と、なると後はアレクとエドとユリウスとクロちゃんの問題なわけだ。俺の問題はどこにもねえ。わかるな?」
「え・・・?クロエ?どうしてここでクロエが出てくるんだ?」
 そう言って目をそらすアレクシスの頬をレオの拳が的確に捉えた。体の小さなレオの拳とはいえ、不意打ちで的確に決まったそのパンチはアレクシスを床に転がせるには十分だった。
「どうしてだと思う?」
「・・・・・・。」
 拳を振りぬいたままの姿勢で問いかけるレオに対してアレクシスは返答することができない。
「お前、俺がクロちゃんのことを考えて口にださないだろうとかそんな甘いこと考えてるんだろうけど、お前がクロちゃんの気持ちに気づいていることなんて、とうの昔にお見通しなんだよ。気づかれてないと思っているのはクロちゃんだけだ。」
 そう吐き捨てるように言うと、レオはベッドに横になって二人に背を向けた。
「アレク。俺はお前のことを最低な奴だとは思いたくない。だがもし今のまま流されるだけでエドと結婚するって言うなら俺はお前を軽蔑する。ユリウスもだ。アリスさんのことばかり言っていて、そのほかの事をないがしろにするようであれば軽蔑する。」
「その他・・・?」
 アレクシスとは違ってユリウスは本当に何のことなのかわからないといった風に首をかしげた。
 

「なるほどねぇ、アンドラーシュ様がそんなことをねぇ。」
 ソフィアはそう言って部屋にやってきたクロエの頭をなでながら「んー」と、唸った。
「結局クロエちゃんはどうしたいの?」
「どうって・・・?」
「アレクシス君の子供がほしい?」
「こ・・・どもっ!?いやいや、そんな畏れ多いこと」
 顔を真っ赤にしてわたわたと手を振るがソフィアがその手を握ってクロエの目をじっと見つめる。
「でもねー、特にアレクシス君みたいな立場の人に思いを寄せるって事は、その人の子供を生むっていう事に直結しているんだよね。」
「・・・・・・。」
「子供じゃないんだからね。」
「・・・わかってる。そのくらい、わかってる。」
「ん。ならよし。じゃあ、それを踏まえて、アレクシス君のことが好き?」
「・・・好き。」
「そっか。じゃあ、今夜はその話をしようか。どうせレオ君の所にはアレクシス君とユリウス君が行っているんだろうし、明日の予定は無しになるだろからね。」
 そう言ってソフィアが扉の前に移動して扉を開けると、廊下で様子を伺っていたらしいジゼルとエドが気まずそうな顔で立っていた。

「で・・・なんでその話し合いをリュリュの部屋でやるのじゃ・・・。」