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アナザーワールドへようこそっ!  第一章  【001】

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第一章  「アナザーワールドへようこそっ!」



  【001】



 そうして、俺と指導者(ガイド)は、さっきまでいた「あの世とこの世の狭間の世界」から「アナザーワールド」へと転生したのだが……。


――その前に、ここで自己紹介をば。


 俺の名は、「二ノ宮隼人(にのみや はやと)」。

 16歳の高校一年生…………だったと思われる。


――以上。


 これが俺の覚えている「記憶のすべて」だった。

 あとは、ほとんど「記憶」がない。

 つまり、「前世の記憶」というやつが、ほとんどないのだ。だから……、


 両親はいたのか、友人はいたのか、恋人はいたのか――それらも覚えていない。それに……、


「どうして自分は死んでしまったのか」……ということでさえも。


「――ちょっと、なに、世間に顔向けできないような顔して考え事してるんですか? ふざけるのもいい加減にしてくださいっ」

 と、そこで「横槍」が入ってきた。

「誰が、世間に顔向けできない顔だっ! て言うか、どういう顔だよ、それっ!」
「そういう顔です」
「おい、指導者(ガイド)っ! お前な~、いい加減に……………………えっ?」


 座りこんでた俺に、指導者(ガイド)が上から声をかけられたので、俺は顔を見上げて、返事を返そうとした。

 しかし、見上げたその先には「老人」ではなく、「一人の少女」が…………いや、「一人の美少女」が腕組みをしながら俺を見下ろしていた。


「き……君、誰?」


「誰って……随分、ひどいこと言いますね。さっきまでお話してたじゃないですか…………『あの世とこの世の狭間の世界』で」
「えっ?『あの世とこの世の狭間の世界』……? てことは……君……て言うか、お前……まさか」
「そうです、指導者(ガイド)です。まったく、さっきまで話してたのにどうして気づかないんですか? もういっぺん、死にたいのですか?」

 この「毒舌」と「上からの物言い」は間違いない、さっきの「指導者(ガイド)」……のようだ、が、

「で、でも、『あっち』で話したときとは随分……何というか、『しゃべり方』が変わってないか?」
「細かい事は気にしないでください。て言うか、忘れなさい、『あっち』のときのわたしは」
「え? な、なに? その半ギレ?」
「べ、別に、『老人のマネしてエラそうにしゃべったら、少しは威厳高く見えるかな~』とか思ってやってたわけじゃないんだからねっ!」
「あ、あ、そう」

 ツ……ツンデレ?

 いやいやいやいや、違う。これは違うぞ。

 こいつ…………まさか?

「わ、悪かったよ。そこまで怒るなよ」
「別に。怒ってませんから。それよりも二ノ宮隼人……さっきわたしが言った『課題』はちゃんと覚えていますか?」
「も、もちろん。この『異世界』……『アナザーワールド』で『自分が死んだ原因を思い出す』っての課題なんだろ?」
「よくできました」

「美少女」に褒められちゃった。テヘッ。

「……なんか、今、気持ち悪いこと考えていませんでしたか?」
「い、いや、別に」

 さ、さすが、するどい。

「でもさ~……それって、どうすりゃいいんだよ?」
「何がです?」
「いや、何がって……俺は、自分の『死んだ原因を思い出す』までこの世界でただ生活すればいいだけなの?」
「そうです。何か問題でも?」
「いや、だって、それなら、わざわざこんな『アナザーワールド』っていう『異世界』みたいなところに『転生』なんてしなくても、ただ『死んだ原因を思い出すだけ』なら、別にさっきいた『あっちの世界』で思い出すでも、よかったんじゃないの?」
「そうはいきません。あなたは『ここで思い出す必要がある』のです」
「何だよ、それ……どういうことだよ?」
「ど、どうもこうも何も……と、とにかく、そういうことなんですっ!」
「いや、意味わかんねーよ。答えになってねーよ。なんでここじゃなきゃダメなんだよっ!」

 俺は、指導者(ガイド)に思いっ切り突っ込んでみた。


「うるさい、やかましい、黙れっ! 責めるなっ! そして、わたしに聴くなーーーーーーっ!」


 思いっ切り「逆ギレ」されてしまった。

 そうか……こいつ、やっぱり……、

「ひょっとして、お前……」
「な、なんだっ……!」

 指導者(ガイド)は、ドキッとした表情を浮かべた。

「お前も、その『理由』を知らないんだな?」
「ドキーーーッ!」

 今度は、表情だけじゃなく、口から溢れ出た。

 普通、言わないよ? 日常会話で「ドキーーーッ」って言葉。

「…………図星か?」
「う、うるさいっ! 仕方ないだろっ! わたしだってまだ『指導者(ガイド)成り立て』なんだからっ!」

 急に、キャラが変わった。

 というより、どうやら、こっちのほうが「メインキャラ」のようだ。

 そして、同時に、俺が「ここ(アナザーワールド)で記憶を思い出さなきゃならない理由」は「こいつも知らない」ということもわかった。

 大収穫だ。


「指導者(ガイド)…………成り立て?」


「そ、そうだ。わたしは今回からが『指導者(ガイド)』として「初めての任務」なんだ。だから、だから、わたしは、あまり何も教えてもらっていないのだ」
「えっ?」
「わたしたち『指導者(ガイド)成り立て』は『最初の任務』のとき、『担当する魂』の情報はほとんど教えてもらえない」
「どうして?」
「それは、この『アナザーワールド』で『担当する魂』の『情報なし』で、一緒に『課題』をクリアすることで、晴れて『一人前の指導者(ガイド)』として認められることになるからだ」
「ええっ! そ、そうなの? じゃあ、こっちに来る前、俺に、散々エラそうに能書き垂れてたけど、本当のところは、お前も何も知らなかったってこと?」
「ふんっ! ま、まあ、そういうことだな……とは言え、わたしはお前よりもエライので、お前に『エラそうに能書き垂れる』のは間違っていないっ!」

 と、散々、ネタバレしたにも関わらず、「ドヤ顔」で威厳を保とうとする指導者(ガイド)さんだった。

 やはり間違いない。

 こいつは、「かわいい」けど…………「バカ」だ。

「おいっ! それよりも二ノ宮隼人っ! お前、さっきから『指導者(ガイド)』『指導者(ガイド)』って、うるさいぞっ。わたしにはちゃんと名前があるんだから名前で呼べっ!」
「いやいや……そもそも俺はお前の名前なんてまだ教えてもらってねーよっ!」
「むっ? そうだったか? それは失礼した」

 あー、かわいいなー、こいつ。

 バカだけど。

「わたしの名はシーナ。以後、『シーナ様』と呼べ」
「そうか、シーナか。よろしくシーナ」
「『シーナ様』って呼べっ!」
「ところでシーナ……」
「んっ? なんだ?」

 もう忘れてる。「シーナ様と呼べ」って言ったの、もう忘れてる。

 かわいいなー。

 バカだけど。

 いや、バカだからいいんだろうなーきっと。

「俺のこともさ、『二ノ宮隼人』なんてフルネームで呼ばないでくれよ。『隼人』でいいからさ」
「どうしてだ?」