小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

足軽物語

INDEX|6ページ/8ページ|

次のページ前のページ
 

 詰んだ。詰みました。どんな風に詰んだかって、おいら自身も予想外だったんだけどさ、ほんと、まさか親父の紹介先にすらたどり着けないなんて思いもしなかったね。
「お前、戸田のモンだな?」
「違います」
「まあ、そう言うよな」
「いや、ほんとに違います」
「仔細あって問答している時間はねぇ、人間違いだったら運が悪いと諦めな。後で墓つくってやっからよ」
「やめて」
 何の因縁か分からないが、汚れた身なりの三人組がおいらの前に立ちふさがって、すらりと刀を抜いたり、槍を構えたり、弓に矢をつがえたりした。要は武器を構えたのだ。
 相手は皮でできた胴丸を来ていて、完全武装している。それに比べてこっちは旅姿そのものだ。胴丸は背中に背負ったままだし、武器もボロボロの槍だけで、これも背中に背負っている。丸腰だ。ここは今川様の領地で治安もいいはずなのに、やっぱり三河に近づくほどこういう輩が増えていくのだろうか。
 これは、死ぬ。このままだと死ぬ。それは嫌だ。
「私の名は中谷小兵太忠重(なかや・こへいた・ただしげ)。戸田とはかつて渥美郡を支配していた戸田殿のことと推察するが、当家とは何の交流もない」
 追い出されたからには家の名前を出したくなかったが、殺される瀬戸際にそんなことは言ってられない。
 戸田は、伊勢湾をのぞむ半島の渥美郡を支配する家系。たしか三河でぶいぶい言わせていた松平家の嫡男を人質として今川様のもとへ運ぶ途中で銭欲しさに目がくらみ、あろうことか宿敵の織田の元へ売り払ったとんでもない一族だ。当然キレた今川様は、すぐに戸田の本家を攻め滅ぼした。恐らく、この三人組は戸田の残党狩りでもしているのかも知れない。あるいはそれにかこつけて追いはぎでもしているのかも。どっちにしても嫌な奴に目を付けられた。でもそういう道理で追いはぎをしているなら、逃れようはある。
「中谷? 知らんな」
「朝比奈様配下の、吹けば飛ぶような家であれば」
「なにっ、朝比奈様の……」
 家系が追いはぎの道理なら、無関係な家、それもこの地を支配する大名の家来の家系を追いはぐことはしないだろう。正確には今川様の重臣である朝比奈様配下の、斎藤様配下の足軽衆なんだけど、そういうことは黙っておくのが吉だ。嘘は言ってない。
「私は名乗った。そちらも名乗られよ」
 武士のメンツのために口調は強気だけど足はガクガク。
 おしっこちびりそう。
「……そいつは悪かったな。同じ筋に刃を向けちまった俺たちを、どうか許してくれねぇか」
 頭と思しき男が刀を降ろすと、それに従うように槍と弓矢の刃も地面を向いた。しかし武器を仕舞わないところを見ると、まだこの件は終わっていないらしい。
 やだ、ほんともう。武士のメンツめんどくさい。
「して、中谷殿はどちらに向かわれるのか」
 おいらの質問は無視された。だったらおいらもそれなりの対応をしなければならない。これも武士のメンツだ。
「素性を明かさぬ輩への答えは持ち合わせていない」
「なんだと!」
 弓を構えた長身の男が、矢をつがえてこちらに向けようとした。
「待て」
 刀の男がそれを止めようとする。
「あっ」
「えっ」
 ん?
 プチン、と何かが割れる音がして、視界の右半分が無くなった。

作品名:足軽物語 作家名:小豆龍