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ツカノアラシ@万恒河沙
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しょうじょじごく

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おまねきにあずかりまして



郵便受けの中には、一通の封書。
封書の中には、飾り枠で装飾された白いメニュー。メニューには以下の通りの内容。
食前酒、シャンパンと鮮血の混合酒。
前菜、神田川の各部の盛り合わせを黒パンを添えて。
スープ、神田川の骨髄のスープ。
メイン、神田川の頬肉のパイ包み。鮮血のソースを掛けて。
デザート、神田川の眼球をジュレに閉じ込めて。
封書の中身を読み終わると書き手は女の方のようですねと言うと、私の目の前にいる探偵はにこりと笑った。未だに美少年なのか、美少女なのか良く解らない綺麗な顔が愉しげに歪む。それに対して、探偵がついさっき読み終わった封書の中身のお陰で全く楽しくもない私は憮然とした。私の様子に気づ いた探偵は軽く片眉を顰めると何て顔をしているんですか、折角見ず知らずの女の方に恋文を戴いたのにご自分の葬式でも見ていらっしゃるような顔を していらっしゃいますよと私に言ったのだった。
「これが、恋文だと思うのか、君は」
と、私が言うと探偵は何を今更と言うような顔をして私に封書を返してくる。組んだ足の膝の上で優雅な仕草で組まれ先細りの指。笑みを浮かべたまま 軽く顰められる眉。良くできた人形のような探偵はちょうどお茶を持って書斎に入ってきた執事から紅茶茶碗を受け取り気取った仕草で中味に口を付けると口を開く。
「恋文以外の何に見えるのですか、警部さん。こんなに貴方と同化したいと主張しておられるのに。カニバリズムの衝動の理由の一つとして自分と相手 の同化したいと言うものがある位、食欲と性欲は極めて密接なものなのですよ。でも、同化できたとしても、そんなに面白いものではないと思いますけどね。相手が解りきれないからこそ、謎と神秘が恋の魅力になるのですよ。解りきったものでは面白くない」
と、探偵は唇の片端を歪めなから愉しげに言う。微妙に皮肉気な笑み。妙に説得力に満ちた口調に私は嘆息を付く。私の嘆きをこれっぽっちも気づいていないように見える探偵は続けて、
「良かったじゃないですか、警部さん。骨までしゃぶってくれるようで。大事な所だけちょんぎってホルマリン漬けにするとかじゃなくて」
と、探偵は手を鋏の形に言う。じょっきん、じょっきん、じょっきんな。どちらにしても、探偵の脳内では私はどこかしら食べられてしまう事が決まっているらしい。それを聞いた私の顔が紙より白くなっ たのは言うまでもない。そんな羽目には、夢の中でもなりたくない。
「失礼ながら、玲様。ホルマリン漬けにしてしまったら食用にはならないと思いますが」
と、窘めるように言う執事の声。絵に描いたような執事姿のこれまた絵に描いたような優男は柔らかい笑みを唇の上に浮かべる。それにしても、執事の宥め方が何か間違っているような気がするのは私の気のせいだろうか。私の頭がずきずきと痛みだす。今日はアスピリンの持ち合わせていない事をふと思い出して、私はため息をつく。
「じゃあ、ピクルスにでもいいよ」
 探偵は執事に台詞に軽く柳眉を顰めると、投げやりな様子で言い放つ。仲が良いのか、悪いのか良く解らない。
「ピクルスにしてしまっては、生臭くて食用にならないかと」
 斜め上に話を展開させる、あくまで冷静な執事の台詞。
「おや、食べる気でいるの、お前」
 と、今度は探偵は手に持った女持ちの白扇で口元を隠し、目を細めて面白そうな顔をしてみせる。非常に愉しげだった。しかし、非常に背筋が凍るような笑みだった。
「死んでもまっぴら御免でございます。しかし、世の中豚の睾丸を使った料理等もございますから食する方は食するかと」
 執事は『まっぴら御免』と言う箇所で軽く眉をひそめたものの、基本的には顔色ひとつ変えずに言ったのだった。
 どちらにしても、うっとりとした昼下がりに会話するような内容ではない。そもそもの発端は自分だけれども。
「……痛そうな話は止めてくれないか」
 と、私が目眩に襲われながら言えば、ふたりは同時に私の方を向いて示し合わしていたかのようににっこりと笑う。以心伝心。そして、ふたりは声を合わせて言う。
「何を仰るんですか、これからフルコースになろうとしてる方が、これ位で怯んではなりませんよ。恐らく始めは鉄の処女で血を絞り出し食前酒にし、 穴だらけの警部さんを台に載せて血抜きをした後に、警部さんの柔らかい所を解体してフルコースを作るに違いありませんよ」
 少女のような声とテノールの声の二重唱。ふたりは抑揚と言い一字一句ズレる事なく言う。もしかして同化してるのかとふたりに訊ねてみたくなる位に見事と言えば見事だが、不気味な光景である事は間違いない。執事がある意味、紫の上のように探偵の事を育てたと言え、こんな風になるだろうか。毎回不思議に思うものの答えが怖くて未だに訊ねる事ができない。そもそも、執事の容姿は自分の親の知人であった幼い時分から、何一つ変わっていないのも謎であるのに。
「そんな断言しなくとも…」
 と、私が言いかけた時、探偵の書斎の扉が叩かれる音がした。探偵がお入りと声を掛けると、古式ゆかしいお仕着せを着た無口で顔色の悪い無表情の女中さんがふたり、音もなく書斎に入ってくる。彼女たちの名を松風、村雨と言い自分が幼い時分に今と違う名前を名乗っていた執事の男に見せて貰った刀の名前と一緒だと彼女たちを見る度に思い出す。器用にふたりで手に捧げ持つは、銀色のプレート。プレートの上には、二つ折りになった紙が載っていた。探偵は、紙を受け取ると警部さんの問題は終わったみたいですよと澄ました顔で言う。その言葉に驚いた私の目に女中さんが閉める扉の向こうに人間大の黒い熊と白い兎がぼろぼろになった人間大の何かを棒に括りつけて運んで行く姿が飛び込んだのだった。
言葉を失った私に探偵は、
「あの兎と熊は肉食でしてね、同じ捕食をするなら、何か大義名分があった方が後味悪くなくて良いじゃないですか」
と、言って、とろりと笑ったのだった。