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笑顔の キミ へ

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笑顔の キミ へ

キミに会ったのは、初めて会ったのは、あの日だ
キミは僕が居るとも知らず
家の裏口のドアを開けて、出ようとしていたね
キミは、いったい、何をしようとしてたの
ドアのほんのすぐ先に、紅葉の木漏れ日の間に
僕をみとめ、あわてて
スリッパを片方、落としたまま
長い髪をくるっと回し、後ろを向いた時
ドアにその細い髪が、ぱさっと当たって
バタンと閉まった。

その瞬間、僕は、挨拶の機会を失った
だって、そのまま、僕に挨拶もせず
貝殻に引き返してしまうなんて
思ってもみなっかった

キミは忘れただろうが
僕は、キミのことを覚えているよ
本当に、最初に会った、その日を

だってキミが2歳で
ボクは5歳だったもの

あのとき、母の実家で
キミと初めてあったんだ
キミは真っ白なタイツを履き
ピンクのスカート
それに白のブラウス
頭に真っ赤な帽子をつけていた

倒れはしやしないかと思うほど
前傾して走るキミを見て
ボクはヒヤヒヤしてたんだ

ボクの方に走ってきた時
思わずつかまえて
抱きしめたのを
覚えているよ

その夜、おばさんがこう聞いたよ
けんちゃん、寝ぞう、いい?って
ボクは、だまって頭をちょこんと下げたの
それでボクは、キミと一緒に眠ることになった

あの夜は、月夜だった
レースのカーテン越しに
月の白い光がさし
キミの横顔を照らしてた

そんなことは、お構いなしに
キミはすやすや寝てたね
ボクは、ほんの手の届くところで
キミの横顔を眺めていた

可愛いほっぺを
ちょんと人さし指で
突いてみたけど
キミは振り向きもしなかった

翌朝、キミの母さん、何てったかわかる?
けんちゃん、寝ぞう悪いね って
だって、朝起きたら
キミとボクと場所が、入れ替わっていたもの

その日から15年経った
キミにとって、初めて、僕に
僕は、またキミに、会うことになった

僕はキミの家に、下宿することになったから
毎朝、毎晩、殆んど一緒に食事したね
叔母さんの料理、とっても、おいしかったよ

でも、一緒にいるのに
最初は少しも話さなかったね
僕もセーラー服の、高校生のキミに
何を話していいか
さっぱり見当がつかなかった

そのうち、アパートを見つけて
僕は引っ越したけど
殆んど週に一度、キミのうちへ
御飯を食べにいったね

僕は叔母さんの手料理がおいしくて
キミの話が聞けるのが嬉しくて
幸せだったな

そのうち僕は
殆んどキミの家に行かなくなった
何故だかわかる?

キミが大人になってしまったからだ
僕はキミが大好きだけど
キミは僕の従妹なんだ

キミは僕より早く結婚して
僕より早く幸せになるって
そう信じてた

時折キミの家へ行くと
叔母さんが夕食を作ってくれたけど
だんだんキミが作る料理がおいしくて
初めて食べる、グラタンとかフランス料理とか
料理学校は、いいこと教えるね

その頃は、随分打ち解けて
キミは何でも話してくれたね
キミと話してると、時を忘れたよ

キミが、25歳の誕生日の翌日
たまたま僕は
またごちそうになったね

いつものように
キミの料理おいしかった
話も楽しかった

でも、帰りがけに
困ったことを、キミは言ったね
あまりに突然で
僕は答えられなかった

けんちゃん
だれも貰い手なかったら
もらってね って

僕は、それから
キミんち
行けなくなった
僕はキミを、妹のように思ってたから

次の年の冬、僕は見合いで、結婚が決まった
式は11月だった

キミも僕より遅く、見合いで結婚が決まった
式は僕より早く、6月だった

二組の見合いと結婚式が
同じ年だった
良かったよかった
と僕は思ってた

そんなある日、おじさんに頼まれて
キミの運転練習の助手として
二人して琵琶湖まで行ったね

初めて外で、二人っきりになったけど
これが、最初で、最後だったね

帰宅して、別れぎわ
初めてキミが
僕に怒ったね

僕は何が何だか、分からなくて
謝ることもしなかった
なんでキミが怒ったか分からず
おろおろするばかりだった

それからキミはドクターと結婚し
そのあと僕が結婚した


手荒れの跡を見せ合い
それぞれの幸せを
キミと、僕の妻とが話してて

僕はよかったな
って思ってた

その後6カ月で
キミは離婚し家に戻った
理由は知らないが
とにかく悲しかった
妹のようだったのに

おばあさんの葬式に
キミの家に暫くぶりに行った時
2階でキミに、ばったり会った

なんにも言わずに
目が合った時
思わず駆け寄って
キミを抱きしめた

キミの長い優しい髪が
僕の首にふれ
なんでこんな子を離婚させたと
僕は思った

僕は2度
キミを抱きしめた
2歳の時と
そして、今と

なにも
言わずに
抱擁を解き

なにも
言わずに
家路についた


妻には、何も言わなかった
妻とキミはリズムが似てた
ゆったり
ゆっくり
流れるように

その後
次の結婚式に、僕の母が呼ばれ
式場に僕は、呼ばれなかった

僕は入り口で花束を持って
招待されない客で行ったら
見事に係に断られた

今度は必ず幸せになってほしい
そんな願いを、いっぱい花束に託して
必ず、キミがそうなるよう
祈りを込めた

キミと新郎に花束を渡した時
今度は必ず幸せになるって確信したの
僕の願いの花束が届いたから

あれから、随分経った

キミは今でも幸せそうだ

僕の妻とウマもあうし

今なら

あの時、キミが怒った理由

聞いてもいいかい?
作品名:笑顔の キミ へ 作家名:桜田桂馬